第四話 常識は通用しない
交通機関に乗ってる時の腹痛時のみ神の存在を信じる。波よおさまれと。
いま俺はバルボッサさんと一緒に魔法協会のある街に向かっている。どうやらそこにバルボッサさんの仲間がいるそうだ。
バルボッサさんのお仕事は各街に赴き犯罪者の引き渡しや魔物の駆逐、孤児などのいる施設の視察などだそうだ。朝から仕事を始め日の光が柔らかくなる頃には終わりだそうでなにそのお役所仕事と言いたくなった。
仲間は全部で三人でそれそれが一癖あると教えられた。あぁ怖い。
「シンヤはこっちの世界のこと何もしらねぇんだよな?」
「はい、自分の常識とこちらの世界の常識がどのくらい違うかわからないと…」
「だよなぁ、んじゃお前がそういうことを理解できるまで俺らがサポートするぞ!」
「頼んでいいんですか!?」
「おう!でもな、その…なんだ?お前のその丁寧な口調はどうにかならんか?変に擽ったくなってな!ガッハッハ!」
「えっと…年上の方にはやはり敬意をもって接しないと…その」
「まず第一にこっちの世界じゃそんな気づかいはいらねぇ。変にへりくだってると逆に怪しまられるぞ。そういう対応は王族や貴族のえらい連中だけにしろ。いいな?」
なんと!バルボッサさんすごい考えてらっしゃる。こちらの世界に日本の常識が通じるわけないことを理解した。それもそうだ。同じ地球上でも日本の常識がどこでも通じるわけがない。
「わかりました!…じゃなくて、押忍!」
俺は気合を入れると共にバルボッサさんに答えた。ゲラゲラ笑ってやがるわこの人。
「そうだ、それだよ。でもお前押忍ってなんだよ押忍って!ガッハッハ!」
俺は少しイラっとして隣を歩くバルボッサさんの肩を小突いた。尋常じゃないぐらい硬かった。
「街まではどんくらいで着くの?」
「日の光がなくなる前には見えてくると思うぞ?それにしてもシンヤ、もう大分砕けたな?」
俺は一応は敬う形で言葉を崩すことにした。バイトて新たに入って来た新人が10歳ほど年上て気さくな人への対応はみたいなもんだ。大成功。
「まぁ、これが素みたいなもんでね。さっきまでは上司に対する対応みたいなもんですよ。」
「ふーん、堅苦しい世界だな。あんな話し方をする奴に囲まれたら窒息死しそうだな。」
「いや、そうでもないんだこれが。『俺は偉いだろう』って驕ってる様な奴なんていっぱいいたよ。俺はそういう人の後ろをずっとついて行ってた。」
そういうもんだと割り切っていたが実際に深く考えると馬鹿らしくなるな。
なんで自分がこんな人にって思う人なんて社会にいっぱいいる。でも誰もがそれに抵抗を示そうとはしない。だってそれが常識だったからな…。社会の常識を変えるのはとても大変だ。受け入れられなければ凶弾され受け入れられても何年後かにはまた不満に塗れ凶弾されふ。イタチごっこはどこまで続くか…
「ふーん。」
「ふーんって!バルボッサさん…他にはなんかないの?」
全く興味なさげにバルボッサさんは鼻を鳴らしただけだった。
「シンヤ、もう一度言うぞ?お前の常識はこの世界じゃ通用しねえ。いきなりの事で戸惑う事なんて両手じゃ数えられないほど出てくるだろうな。」
バルボッサさんはいつもの荒々しいしい感じではなく静かに語る。
「だからお前がそういう常識のしがらみにに囚われない様に俺が隣に立って教えてやるよ。俺に御教授されるんだ。ありがたく思えよ!ガッハッハ!」
まったくこの人は…
知らずのうちに笑みがこぼれた。この人の笑い方は痛快に俺の不安を吹き飛ばす。
「ハハハッ!ぜひお願いいたしますよ、バルボッサさん。」
心からの笑い声が出た。普段の生活では気の許せる人にしか出せない様な声でだ。
ほんとに常識が通用しねぇや…
まぁこれから色々教えてもらおう。そうやってしてる間に俺の考え方も変わるだろう。変わる自分に不安はない。隣に立つと言う人がいるんだ。精々頼りにさせてもらおう。
もう日の光は柔らかさを失い始め、夜の光があたりを包み始める。
街の光が見えてくる。これから俺はこの日の光から夜の光の様に変わって行くんだろう。
でもそれは無理やりにではなく、ごく当たり前に日が登り、そして沈む様に変わって行くのだろうと思えた。
そうして俺とバルボッサさんは夜の街に足早に向かおうとした。
が、目の前の地面がいきなり爆ぜた。
「えっ!?」
「…ゲッ!」
土煙の向こうには見てわかるぐらいに憤慨している女性が立っていた。大人しそうな女性で服装や態度、そしてバルボッサさんの反応から知り合いの様だなと理解する。
「バルさん?仕事を放ったらかしにしてどこに行ってたんですか?言い訳はしないでくださいね。」
声に怒気が混じってる。やべぇよ。
ニコニコしながら怒る人は本当に怒ってる人だ。バルボッサさんはどうやら仕事を放ったらかしにして平原に赴き俺に出会ったみたいだ。この人はなにやってるの?助けてもらったからなにも言えないけども。
「いや、エリスよ。これには俺のケツの割れ目よりも深い訳があってだな。」
その言い訳はないだろ、どんだけ浅い言い訳だよ!エリスさんと言うのか…。バルボッサさんの仲間の人であるならしっかり挨拶しないといけないと考え込む。助けてもらった事を伝えればバルボッサさんも怒られないだろうと俺は思い、エリスさんに話をしようとした。
直後女性が凶変した。
「言い訳をききてぇわけじゃねぇんだよっ!一回言って理解できねえのか!このクソ野郎ぉがぁぁぁあ"あ"あ"!」
直後、背後から耳を塞ぎたくなる様な音が広がった。
「「えぇぇぇぇええっ!」」
俺とバルボッサさんは声にできない声を上げ吹飛ばされた。あぁ…意識が飛ぶ。
あぁ…常識は通用しねぇ…
痛感したところで目の前が真っ暗になった。
ここまで読んで頂きありがとうございます。
誤字脱字、ご感想お待ちしております。