目玉男爵の過去
運命の筆を探しに行こうとしていたいざなぎは、屋敷の使用人に呼び止められた。
「目玉男爵の冒険の続きが、上映されるらしい。一緒に見に行くか?」
いざなぎは連れて行ってもらうことにした。
映画館に着くと、すぐに映画が始まった。
山の中に、若い女性が一人いる。
女性の持つ籠の中には、きのこと山菜がいっぱい入っている。
すると、女性の所にきのこを持った大狸がやって来た。
「このきのこ、おいしいでよ」
「あっ、これはサトヒメタケ。こんな珍しいものをいいんですか」
「おうよ」
女性は喜んできのこを受け取った。
帰宅した女性は、山菜ときのこのおこわを作った。
「ただいま」
そこに男が帰ってきた。
「お兄様、おかえりなさい。
今日は山で採ってきた山菜ときのこで、炊き込みご飯を作りました。
きっとおいしいですよ。
ヒメサトタケが入っていますから」
「そうか、楽しみだな」
「お兄様、顔が汚れておいでですよ」
女性はエプロンで、兄の顔を拭いた。
「工場の仕事は、汚れていけないね。機械相手の仕事も疲れるもんだ」
とは言うものの、兄の目は輝いていた。
「お父様の具合は?」
兄は、笑顔をふっと消して尋ねた。
「眠ったままです」
「薬が効いていないのか」
重い空気が二人を包む。
「とにかく夕飯にしましょう」
夕飯の後に、事件が起こった。
兄が急に熱を出して倒れたのだ。
原因は大狸からもらったきのこだった。
妹は疲れた兄の為に、ヒメサトタケを全部兄の炊き込みご飯に混ぜていた。
あれはヒメサトタケそっくりの、毒キノコのクロヒメタケだった。
お医者様がかけつけて解熱剤を処方したが、効いている様子は無い。
熱のせいで兄の片目は白く濁り、見えなくなってしまった。
目はどんどん痛んで、ついには体を蝕むようになった。
兄は仕方なく片目を取り、義眼にした。
すると、兄は元気になった。
狭い村には、たちまち事件のことが広まった。
「きっと妹が遺産を手に入れるために、父と兄を殺そうとしているんだ」
兄と妹の父は、金持ちで、とても優しかった。
しかし、妻に先立たれてから父は誰も信じなくなり、息子と娘にお金を分けなくなった。
それまで両親に施されていた兄と妹はいきなり貧しくなり、兄は工場で働くようになった。
だが、工場での稼ぎでは二人分の生活費には足りず、生活は苦しかった。
母は遺書に『母は息子と娘に遺産を与えるから、父もそうして欲しい』と書き残していた。
父は、妻のことだけは信じているので、遺書に『息子と娘に遺産を譲る』と書いた。
父が亡くなれば、遺産が手に入る。
村の人々は金持ちの父をよく思っていなかった上、兄と妹の苦しい生活と、遺言の内容を知っていた。
そのため噂はどんどん広がった。
噂はついに妹の耳に入った。
追い詰められた妹は、次第に心を病んでいった。
妹は苦しんだ末、清めの湖にその身を投げた。
兄は怒りと絶望に震えた。
そんな時、村の長老から十の秘宝の話を聞いた。
「宝を全て集めて湖に潜れば、湖に飛び込んだ人を一人だけ救い出せる。
しかし、救い出された人は心と記憶を湖に食われてしまっているゆえ、物言わぬ人形のようになってしまう」
「それでもいい。妹の無実を晴らし、また一緒に暮らしたい」
兄は十の秘宝を集める決心をした。
今、兄の手元にある宝は二つ。
導きのトランプと、夜霧のマントだ。
さぁ果たして、兄は妹を救えるのか。
映画は終わった。
導きのトランプは、目玉男爵らしき人が落としていった。
片目が義眼で、映画に出てきた人とそっくりなので、おそらく目玉男爵だ。
宝を一つ持っているようだから、いつか会わないといけない。
映画で、妹が家へ向かうシーンがあったため、家の場所は変わっていなければ分かりそうだ。
しかしもう今日は日が沈み、暗くなっている。
いざなぎは、明日行くことにした。