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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。

【BL】歪み

作者: ありま氷炎
掲載日:2026/05/03

その孤児院は、優秀な子が多いと有名だった。

アルベルト家の当主には、跡取りがいた。

けれども、とても愚鈍な子で、先行きが不安だった。

そこで、孤児院の話を聞きつけて、養子を迎えることにした。


彼が迎えた養子はセルゲイ。

金色の髪に、青色の瞳の美しい子だった。


「ザック。この子はセルゲイだ。今日からうちの子になる。仲良くするように」


 当主は自身の子ザックにそう説明した。

 ザックは当主自身の青い瞳、妻の黒い髪を受け継いだ正真正銘、自身の子であった。しかし顔だちは地味で、いつもおどおどしており、質問しても回答は遅く、教師たちも呆れられるほどの子であった。

 

「僕はザック。よ、よろしく」


 言葉を詰まらせながら、ザックは必死に挨拶をする。


「私はセルゲイです。あなたのような兄を持てて私は嬉しいです」


 キラキラ輝く青い瞳、人好きする笑顔でそう言われてザックは見惚れてしまった。

 セルゲイはそれがおかしかったのか、クスクスと軽快な笑い声をあげた。


 翌日からセルゲイは教師陣を驚かせることになる。

 覚えが早いのだ。

 しかも孤児院育ちとは思えないほど礼儀が正しく、教師たちがセルゲイに夢中になるのは早かった。

 もちろん、当主夫婦もそうで、ザックは居心地の悪さを感じることになる。


「兄上。こんなところにいたのですか?ご飯はまだですよね?」

 

 そんな中、セルゲイだけがザックに優しかった。

 

 成長するにつれて、二人の差はどんどん開き、ザックは置物のように扱われるようになった。


「兄上!お誕生日おめでとうございます!」


 誕生日すら、祝ってもらえなくなったが、セルゲイだけは毎年祝ってくれた。


「ザック。領地に戻って領地経営補佐をするのはどうだ?」


 ある日、珍しく父親が話しかけてきた。

 それは十六歳の成人の儀を一か月に控えた日だった。

 ザックは頭が悪いわけではない。

 ただ思考に時間がかかるので、反応が遅くなるのだ。

 彼が考えている間に、父親が領地の良さを語る。


(父上は私が邪魔なんだ。セルゲイに跡を継がせたいから)


 父親の目的はわかったが、ザックもこの屋敷で過ごすことが苦痛になっていたので、領地へ行くことを承知した。

 

「なぜです!」


 反対したのはセルゲイだけで、ザックはそれが嬉しかった。

 けれども、ザックは自分が愚鈍で跡取りにはふさわしくないと思っていたので、やんわりとセルゲイを止める。


「ぼ、僕は以前から領地に行きたいと思っていたんだ。だから、大丈夫だよ」

「セルゲイ。ザックもそう言っている。反対せず笑って送り出してあげようじゃないか」


 父親はセルゲイの機嫌を取るように笑みを浮かべた。


「なあ、ミラーナもそう思うだろう?」


 妻に同意を求めようと彼が振り返る。

 その瞬間、セルゲイの顔が歪み、冷たい目で父親を睨んでいる気がして、ザックは目を瞬かせる。

 けれども一瞬で、すぐにセルゲイは元の表情に戻った。


(気のせい?だよね)


「そうよ。セルゲイ」


 母親のミラーナも加わり、セルゲイがそれ以上反対することはなかった。


 そうして、ザックは領地にいった。

 領地で彼は歓迎され、のんびりした彼の性格も領民に受けいられた。

 愚鈍という噂が広がっていたが、彼の人となりを見て領民たちの意識は変わっていった。

 そうして半年がたち、セルゲイが領地でやってきた。

 彼の美しさ、人好きするような笑顔に領民は魅了され、ザックは内心また居場所を失うのかと不安になった。

 しかし、領民たちは半年間、いかにザックが領民のために仕事をしていたのかを覚えていて、ザックに対して態度が変わることはなかった。


「兄上。ここは楽しいですか?」

「うん。楽しいよ。のんびりしていて、来てよかったと思っている」

「そうですか。それなら、まあ、いいですか」


 セルゲイはザックの言葉にそう答えた。


「でも私は兄上がいなくなって寂しいです。たまには戻ってきませんか?」

「い、いや。いいよ」


 ザックはあの屋敷に戻ることを考えると胃が痛くなり、すぐにそう答える。


「そう。やはり嫌ですか。だったらかえるしかないですね」


 セルゲイは青い瞳を冷たく光らせて、そう言った。


「帰る?ご、ごめん。僕、怒らせた?」

「違いますよ。全然。私は兄上に対して怒ったことは一度もありません」

「そう。そうだったらいいんだけど。もう帰りたくなった?」

「全然、ずっと一緒にいたいくらいです」


 心配してザックが聞くと、セルゲイは笑顔でそう答えた。


 一週間後、セルゲイは戻っていった。


「……ザック様。大丈夫かい?」


 領民の一人に突然そう聞かれて、ザックは訝しげに聞き返した。


「僕、元気なさそうかな?」

「そうじゃなくて、あの」

「マチルダ。余計な事は言うな。ザック様、すまないねぇ」


 妻の肩を抱いて、年老いた農夫はいなくなってしまった。


 それから半年後、セルゲイは成人の儀を迎えた。

 ザックの成人の儀は結局成されず、自分が行くと迷惑になると思い、贈り物だけを送った。

 彼が好きだといっていた鳥を模した置物で、ザック自らが仕上げたものだった。

 すぐに返事が来て、その手紙の中に迎えにいくと言葉が入っていて、ザックは少しだけ嫌な気持ちになった。

 あの屋敷は息苦しく、彼は戻りたくなかったからだ。

 

 数か月後、屋敷に盗賊がはいった。

 その連絡が受け、ザックはすぐに屋敷にむかった。

 物取りは両親を刺殺、止めようとしたセルゲイにも重傷を負わせ、執事を筆頭に数人の使用人も殺されていた。

 セルゲイが重症のため、ザックが葬儀を執り行った。

 そこで、初めてザックが本当の跡取りであった話が広がり、彼に疑惑が及んだが、盗賊が捕まり、両親に恨みがあったと供述し、彼の疑惑はなくなった。

 セルゲイも完全回復し、仲良い二人の姿を見た者もいて、噂はなくなった。


「セルゲイ。両親を守ろうとしてくれてありがとう。君まで大けがを負ってしまって」

「そんなの当然ですよ」

「そうだよね。君にとっても両親だもの。変なこと言ってごめんね」


 ザックはそう慌てていったが、セルゲイは薄く笑みを讃えるだけだった。


「怪我の後遺症で、執務が少し厳しくなったんです。兄上、戻ってきて手伝ってくれませんか?本当は、兄上に譲りたいんですけど」

「譲る?とんでもないよ。当主は君の方が相応しい。手伝いは、そうだね。しばらく手伝うよ」

 

 そうして、ザックは短い間だけ、屋敷に滞在するつもりだった。

 一年半前と違い、屋敷は快適に過ごせるようになっていた。

 彼に冷たかった使用人はあの事件で殺されていて、残った使用人たちは彼に公平だったものだった。

 新しく入ってきた使用人もすべてザックに優しかった。

 そうなると、嫌な気分にもならないので、ザックはずるずると屋敷に居続けて一年が過ぎてしまった。


「そろそろ戻らないと。君も大丈夫だよね?」

「だめですよ。まだ兄上の助けが必要です」


 セルゲイに懇願され、一か月が過ぎた。

 そうして、ザックの代わりに新しい領主代理が立つことになった。

 これはショックで、セルゲイを少し詰ってしまう。


「領地は他の人でも見れますけど、ここで私の補佐ができるのは兄上だけなんです。だからお願いです」


 セルゲイは初めて会った時と同じ青い瞳を向けて、ザックに頼み込む。


「補佐なんて、僕じゃなくても」

「あなたじゃないとだめなんです」


 両手を掴まれて、壁に追い込まれた。


「せ、セルゲイ?」

「兄上。わかってください」


 ザックにセルゲイが口づけた。


「な、なんで」

「兄上。ずっと好きでした。私の傍から離れないでください」

「せ、セルゲイ」


 アルベルト家の十代目当主セルゲイは、一生独身を通した。

 本来の跡取りであったザックがその傍らにいつもいたと言う。

 そして遠縁の子を引き取り、十一代目の当主とした。


(終)


 




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