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サバ読み令嬢の厄介な婚約  作者: 本見りん


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7



 バシャッ……



 突然、後ろから何かをかけられた。



「あら御免なさい。ふらふらなさっているから当たってしまったわ」


「……ねぇ貴女、マイザー伯爵家のシルビア様ではありませんこと?」


「お身体が丈夫でないと聞いておりましたけれど学園には来ていらっしゃってるんですのね。……もしかして、婚約者に会いに?」



 学園で図書委員をしているフィーネは、担当のシェンケル先生の遣いで大学部のガスト教授に書類を届けにやって来た。


 大学部は優秀な一部の生徒しか通ってはいない。学園の1学年でいうと1割位の進学率だ。特に高位貴族が多い。

 そんな将来有望な生徒の1人がシルビアの婚約者、ヴィルフリート クレール侯爵令息である。


 そして今、フィーネは数人の女生徒達に囲まれている。

 ……コレは明らかにクレール侯爵令息狙いなのだろう。大学部に進学するのは一部しか通えない程優秀な生徒達では無かったのか? とフィーネは首を傾げる。


 女生徒達からは言葉の節々に(とげ)を感じるし、そもそも分かりやすくスカートに何かをかけるという嫌がらせをされたのだから。



「……ご心配いただきありがとうございます。今日は図書委員の仕事で大学部に来たのですが……」



 『どうしてここに来てるんだ?』『体が弱いなら引っ込んでいろ』。……って思ってるのよね、コレは。

 女生徒達の視線はどう見ても好意的には見えない。とりあえずフィーネはいつものように儚さを意識しながら少し困ったような顔で対応する。



「───図書委員? 本当かしらね。……そうそう。マイザー伯爵令嬢はご婚約者と学園では全く会われていらっしゃらないそうではありませんか」


「大学部と学園でしたら普通の婚約者なら週に一度は昼食などはご一緒されるものですわ。つまりクレール様は貴女に会いたくないと思ってらっしゃるのね。もしかしてそれで心配になってご様子を見にこられたという事かしら?」



 クスクス……


 ご令嬢方は分かりやすく嘲笑して来た。



 ……ふーん。侯爵家の婚約者だと分かっているのにこの態度なのね。学園部ではこんな風に仰る方はかなり少数派なのに。ましてや何か液体をかけるなんて。(花瓶を持ってるからとりあえずは水かしらね)


 だけどこの方達は私たち2人が会っていないと知ってるのね。それで『婚約者シルビア』を蹴落とし、侯爵家令息の新たな婚約者になろうと考えているのかしら?

 ……それともカマをかけてる? いえご本人から聞いたのかしら?


 フィーネは色んな可能性を考える。



「私は学園の先生に頼まれた書類を届けに来ただけですので……。

皆様のおっしゃっているお話は後日侯爵家に確認させていただきますわ。わざわざ教えていただきありがとうございます……ええと、お名前を教えていただけます?」



 つまりは、『この事は侯爵家に伝えるから名前を教えろ』よ。

 ……まあ実際には私は侯爵家と接触する事はないんだけれどね。


 シルビアがニコリと笑って謝意を述べその名を尋ねると、相手はギクリと体を震わせた。



「……な、名乗る程の者でもなくてよ……!」


「ええ。くれぐれも侯爵家にご迷惑がかからないようになさる事ね……!」



 女生徒達はそう捨て台詞を吐いて去って行った。



 ……ふーん……。

 あの方々はクレール侯爵令息とその婚約者が不仲だとある程度知っているけれど名を出されるのは困る程度の関係、ということよね。最後の方なんて、『侯爵家には言わないで』って事だものね。


 そして───。

 この大学部でクレール様は婚約者と不仲である事を一切隠していない。



 ───と、いう事は。



 間違いなくクレール侯爵家はマイザー伯爵家との婚約をどうでも良いと思っている……、つまりはいずれは解消するつもりの可能性がかなり濃厚、という事だわ!



 フィーネは少し俯き、身体を震わせた。そして持っていた書類を強く握り締める。



 や……、ヤッターッ!!



 フィーネは喜びで身を震わせていたのだ。

 顔を天に向け、抜けるような青空を渡り廊下から見上げる。



 ……これはもう大役を降りたも同然よ! 侯爵家との婚約さえ無くなれば、私はほぼ自由だわ。シルビアとしてこのまま学園では4歳サバをよんで生活していかなければならないけれど、それだって卒業すれば静養するなどの理由をつけて領地へ帰ったといえば、私は私として自由に生きられるかもしれない!


 いわば、この学園時代だけシルビアとして慎ましやかに過ごせば良い、というだけだわ!


 学園生活や平民の時には考えられなかった貴族生活も満喫し、時期が来たら自由を手に入れられるなんて、最高じゃない!?



 フィーネはスキップしそうな脚をなんとか抑えつつ、足取り軽く前に進むのだった。

 その途中、事務員らしき人に声をかけられその濡れた制服に同情され大学部の制服を貸してもらった。

 フィーネは大学生気分で更に機嫌良く図書室に向かった。


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