閑話 まるでお姉様〜友人達の独り言〜
フィーネのクラスメイト達です。
「大丈夫よ。……ほら、ここをこうして……、ね」
その方はそう言って柔らかく微笑む。それを見た私はなんだか温かい気持ちになる。
───私のクラスにはとても心強くて優しい、……まるで『お姉様』のような方がいる。
……シルビア マイザー伯爵令嬢。私達と同じ15歳………………の、はず。
失礼な言い方ではあるけれど、とても同い年とは思えない。……それ程頼りになる方なのだ。
私達が彼女と初めて会ったのは、王立学園の入学式の日。
新1年生の私達の教室に、見知らぬ女性が入って来た。
私達貴族は幼い頃からお茶会などで貴族同士の交流がある。勿論クラス全員を見知っていた訳ではないけれど、大概誰かとは繋がりはあるものなのだ。
それなのにクラスの誰もが彼女を知らないようだった。
そして今年の王立学園には、1人話題の方が入学する事になっている。
それは今社交界で人気のヴィルフリート クレール侯爵令息。その彼の婚約者。
クレール様は高位貴族であり超がつく程の美青年であるのに何故か少し前まで婚約者が居なかった。そのクレール様が大学部に入られてすぐに婚約された。
……それが、シルビア マイザー伯爵令嬢だった。
だが彼女は幼い頃から病弱で一切世間に出ていない、謎の令嬢だった。
───まさか?
女性の存在に気付いたクラスの人間はしかしその可能性を否定する。
……いや違う、彼女ではないだろう。何故ならば───
「……あの。クラスをお間違えではないですか? ここは一年生の教室なのですが……」
1人の生徒が彼女に声をかけた。
何故ならその令嬢は新入生というにはかなり……落ち着いていた。
───するとその令嬢は儚く消え入りそうに微笑んだ。
「───いえ……。間違っておりませんわ。私、シルビア マイザーと申します。……以後、お見知り置きを」
クラス中の皆が、ばっと振り向き『シルビア嬢』を見た。
肩甲骨の辺りまである金茶の髪を緩やかに巻いてハーフアップにした、小柄で細身の女性。
そう、彼女の印象は『女性』。自分達と同じ15歳の『少女』というには少しばかりの違和感を覚える。
もしも彼女が『クレール侯爵令息の婚約者』として注目を浴びていなければ、ここまで皆にジロジロと観察されこんな風に思われる事もなかったかもしれないが───。
「───貴女、本当に15歳なの? とてもそうは見えないわ」
一人の女生徒がシルビア嬢に突っかかっていった。───彼女はクレール侯爵令息に夢中だと有名な令嬢だ。
「……そう、なのですか? ……私は年齢通りには見えないのですか……」
シルビア嬢はそう言って悲しそうに目を伏せた。
教室に入るなり突然そんな失礼な事を言われて戸惑い悲しむその姿。しかも彼女は今まで病弱で外に滅多に出られず、おそらくはこれが初めて同年代と会う機会のはず。
教室では一気にシルビア嬢に同情する雰囲気となった。
「な……なによ。自分がどう見えるかも分かってないの?」
先程の令嬢は後に引けないのかなおもそう言い募った。
「私は幼い頃からずっと身体が弱く……つい最近までベッドから出られない生活をしておりましたの。……皆様に色々と教えていただけましたら嬉しいですわ」
そう言って儚く微笑んで見せたシルビア嬢。───この時にクラスの大半は彼女に好意的になったと思う。先程の令嬢も『仕方ないわね、教えてあげるわよ』と照れたように答えていた。
それから私達はシルビア嬢とクラスの仲間として仲良く過ごした。すると付き合う内に彼女は内面も非常に落ち着いた令嬢である事が分かってきた。
……そしてもう一つ分かってきたのは、婚約者『ヴィルフリート クレール』侯爵令息と不仲である事。
───昔、ヴィルフリート クレール侯爵令息を近くで見た事がある。
彼はとても印象的で、小さい頃は文句なしの美少年。美しい金の巻き毛にブルーグレーの瞳。しかしその整った顔に笑顔を見せる事は滅多になく、『氷の貴公子』と呼ばれていた。
そして彼は学園に入る頃には美形であり鍛えられた素晴らしい筋肉と八頭身という素晴らしい均整の取れた体格で周りを魅了した。
彼の学園生時代。
彼の友人である王子や公爵令息達には婚約者がいたが、高位貴族では珍しくまだ婚約者の居なかったクレール様にはそれは沢山の令嬢達が群がり、大量の縁談話が来ていたという。
しかし彼は一切興味を持った様子は無く、その全てを断っていた。
そんなクレール様が婚約したと聞いた時には、てっきり『氷の貴公子』にとうとう愛する方が出来たのだと思った。……しかしそうではなかった。
学園に入学して暫く経つと、シルビア嬢とクレール侯爵令息とは不仲だという噂が流れていたのだ。
王立学園とその大学部は隣接しており渡り廊下から許可さえとれば気軽に行き来する事が出来る。普通の婚約者達はそれで交流しているのに、彼らは一切交流している様子がなかったかったからだ。
───クレール様は婚約者と一切会おうとしていない、つまり蔑ろにしている、……という事は、自分たちにもチャンスはまだある!!
……と考える残念な人達が、クレール様の婚約者であるシルビアの所へやって来て攻撃しようと現れるようになった。
そしてシルビアをよく知らない人でクレール侯爵令息を好きな人達が、彼女に辛く当たってきた。
───だがしかし、そんな事は私達クラスメイトが許さないのである。
シルビア自身もやんわりと彼女達をやり込めてはいるけれど、私達もそれに加勢する。
シルビアにマウントを取ろうとしていた令嬢達は本人とその友人である私達にコテンパンに言い負かされ、涙目で去っていく。
「皆さん……。余り言い過ぎては彼女達も可哀想ですわ。
───ですけれど……ありがとうございます。味方してくださってとても嬉しかったですわ」
そう微笑んでくれたシルビアを見て、私達は大きな喜びを得るのだ。
───こうして私達はまるで姉のようなシルビアと共に素晴らしい学園生活を謳歌している。
フィーネはやはりお姉様的要素があるようです。




