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「───なんというか……、その、……シルビア様はとても落ち着いていらっしゃるのね」
そう言われたシルビア……フィーネは一瞬顔が引き攣った。
王立学園の教室で。……フィーネはシルビアとしてクラスメイト達と話をしていた。その時ふとした時のフィーネの対応に対しての、1人の女生徒の感想だった。
たまに陰でフィーネの事をそんな風に言われている事は知っている。見かけも然り、その行動も然り……、なのだろう。いや実際には4歳もサバを読んでいるのだからそれは仕方がないのだが。
……が、しかし。
そんな事は断じて認める訳にはいかないのである。
……『落ち着いてる』?
そりゃあ、そうでしょうね。
「あら、……よく言われますの。やはり長く病で床についておりましたので、死を目の前にした私は若さというものが足りないのでしょうか……」
悲しげに俯くフィーネに、相手は慌てて取り繕う。
「……まあ、そのような! 申し訳ございません。私そのようなつもりでは……!」
シルビアは将来の侯爵夫人と周囲は認識している。高位貴族となる相手と対立するつもりでの発言でなかったようだ。
「……良いのですわ。……慣れて、おりますから……」
そう言ってシルビアは悲しげに目を伏せた。
周囲の生徒達もそれとなくこの会話を聞いていたようで、フィーネに同情的な雰囲気が広がる。
そして不味い事を言ってしまったと顔色を悪くするご令嬢に、フィーネは『気になさらないで』と弱々しく微笑んだ。
……本当に、気にしなくて良いのですわ。むしろそんな風に直接言ってくださる方がこのように周りに言い訳を聞かせる事が出来て有り難いのですから……。
───それに、『落ち着いている』?
そりゃあ、そうでしょう!
……だって私は本当は貴女方より4歳も年上なのですからね!!
そして、同級生達を見ると15歳とはこれから大人の女性に成長する前の蕾のような瑞々しさで溢れている。……そして20歳は一般的には大人の女性として身体が完成している。
そんな身体的な違いをかなり心配していたのだが、フィーネの体型はよく言えばスレンダー。悪く言えば凹凸が無……ゲフンゲフン。
とにかく家族からもその辺りは心配ないだろうと言われた。若干複雑な気持ちになったが……。
そんなこんなで学園入学から早半年が経った。20歳のフィーネはシルビア16歳として学園生活を順調に送っていた。
今ではもうすっかり開き直って本来の年齢では過ごせなかった学園生活という青春を謳歌している。
そして平民時代通っていた教会の学校でも優秀だったフィーネ。平民用と貴族用でかなりの違いはあるとはいえ勉強自体は軽く一度は習った内容であるというアドバンテージ。そして今勉強する事がとても楽しい。今のシルビアは学年で1.2を争う成績優秀者だ。
そしてこれまでのシルビアは『体の弱い令嬢』として世に出ていなかったので、フィーネは日々『でしゃばらず常時控えめ』で儚さを醸し出すように心がけて過ごしている。
……『今まで体が弱く外に出られなかったからその間お勉強をしていたの』と儚く笑って言うと、周囲もそれに納得してくれた。
「シルビア様は、お身体がお強くないのに大変努力家ですのね。流石は将来の侯爵夫人ですわ」
……と、なかなかの評判だった。
───しかしながら、その肝心の婚約者ヴィルフリート クレール侯爵令息には未だ一度も会っていない。
この学園の隣の大学部の敷地にいるはずなのに一度も会ったことのない婚約者の存在。
フィーネはこの婚約を解消される事を切に願っているのだが───。
この学園には、婚約者クレール侯爵令息の学友の弟妹や彼に近い貴族も在籍している。
そんな生徒達からはフィーネは少し遠巻きに見られていたりもする。おそらくクレール侯爵令息側から不仲である話を聞いているのかもしれないが……。
特にその内の女子生徒の何人かはその悪意のある態度が顕著で、フィーネは彼女らに突っかかって来られる事が何度かあった。
「貴女、体が弱いそうだけどクレール様に本当に相応しいのかしら?」
と責めてこられた。
……しかしこんな事はフィーネからすれば想定内だった。
「───あの方に迷惑をかけて、本当に申し訳なく思っていますの……」
と儚く微笑んでみた。
立場を悪くするような事は言うつもりはないが、侯爵令息がこの話を聞いて婚約を解消してくるとしてもそれは仕方がない。
するとそれを聞いていたフィーネの友人達は『こんなに頑張っているシルビアを悪く言うなんて!!』と嫌味を言って来た相手をボコボコに口撃して彼女らはあえなく撃沈していた。
まあそんなこんなで、『シルビア マイザー伯爵令嬢は病弱だが努力家で成績優秀』と評判で、そんな彼女を守ろうとする優しく強い友人達に囲まれフィーネは学園生活を謳歌しているのである。




