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フィーネは父であるマイザー伯爵から『シルビア マイザー伯爵令嬢』として生きる話をされた日に、すぐに実の母アンネに入れ替わりの話をした。
……母は父から既にこの話を聞いていたようだった。
そして母は意外なほどあっさりとフィーネが伯爵家に入る事を認めた。
母はエドガーを伯爵家に渡した事でフィーネをただ1人の子としてとても大切にしてくれていた。だからもっと酷く悲しむか父の事を恨んだりするのではないかと心配していたフィーネは少し意外だった。
そして母は今後は実家の田舎でのんびりと暮らすからそれまでの住み慣れた2人で住んだ王都の家を出て行くという。
突然の話にフィーネは驚き動揺した。母の実家の領地は馬車で5日はかかる距離なのだ。
「そんな……どうして? お母様……!」
「少し前から考えていたの。……故郷が懐かしくなったのよ」
「お母様が居なくなったら、私はどうしたらいいの……。時々は戻ってお母様と一緒に過ごしたかったの。色々話も聞いてもらいたかったのに……」
そう言って泣くフィーネに母は優しく見つめて言った。
「フィーネ。貴女は強く前向きな子だわ。貴女のこれからを信じてる。……愛しているわ」
そう言って母は優しく娘を抱き締め、フィーネも母に抱き付き2人は別れを惜しんだ。
───そうして母子は別々に生きることになった。
───『シルビア』として生きる事が決まったフィーネはマイザー伯爵家で暮らし始めた。
しかしそれからも、フィーネは『シルビアの婚約者』と会う事はなかった。こちらも出来れば会いたくなかったが、侯爵家も『多忙』との事で殆ど音沙汰はなかった。
フィーネとしては、まだ婚約者と会う自信もなかったのでかなりホッとしたのは仕方がないだろう。
……だけど侯爵家側から希望されての婚約だったはずなのに、こんなに放置だなんて。もしかして入れ替わりがバレたのではないかとフィーネはビクビクする日々だった。
そして月日は流れ、フィーネは『婚約者』と会うことのないままとうとう『シルビア』として王立学園に入学する日がやって来た。
「……この日までにシルビアが帰って来ればと思っていたんだけど……」
朝食を食べながらつい深いため息を吐いてしまう、シルビア15歳ことフィーネ19歳。
「失踪してから一月後には隣国で療養しつつ結婚出来る年齢になれば結婚すると手紙が届いたし、シルビアはもう帰っては来ない」
父はため息混じりにそう答えた。隣国は我が国より格段に医療の進んだ国だ。体の弱いシルビアが愛する人に大切にされ幸せに暮らしているのなら致し方ないとの考えに至っているようだ。
「往生際が悪くてよ。お前は義妹の幸せも願えないのかしらね。
……仮にもシルビアとして生きるのですから、恥ずかしくないよう振る舞いなさい」
伯爵夫人は横目でチラリとフィーネを見てすぐに視線を外し紅茶を飲んだ。
シルビア失踪からのこの数ヶ月、フィーネは夫人に徹底的に伯爵令嬢としての礼儀作法を叩き込まれた。元々男爵令嬢だったフィーネの母から基本は仕込まれてはいたのだが、義母の求めるレベルは高かった。今は義母を見ると鬼教官にしか見えなくなっている。
厳しい態度を崩さない夫人に父はフィーネを庇うように言った。
「……フィーネはよく頑張っている。それ程キツくしなくてもいいのでは……。そもそもシルビアは病弱で貴族の令嬢としての所作などはそれ程……」
「貴方は黙ってらして! ……この子の行動は全て我がマイザー伯爵家の恥になりますのよ」
夫人と父は事あるごとに言い争うのでフィーネとエドガーはその度に止めに入る。
しかし同居してから、夫人はただキツいだけの人でないとフィーネは感じていた。外では娘として大切にしてくれるし、家でも理不尽な事などされた事がないからだ。
「大丈夫ですわ、お父様お義母様。……ただ、もしもシルビアが戻って来たら居場所が無くなってしまわないかと……」
「相手の先生の家族からも責任を持って大切にすると侘びの手紙も来ていたし、それは無いと思うな」
姉に申し訳なく思いつつ、もう逃げ道はないのだと突き付けるしかないエドガー。
そんな弟を少し恨めしく見つつ、フィーネは決意して前を向いた。
義母も父も苦い顔をしつつ、そんなフィーネを見る。
今日からフィーネは15歳シルビアとして王立学園に通う事になるのだ。
───もう、やるしかない。
フィーネは決意も新たに進み出した。




