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「シェンケル先生。……色々とありがとうございました」
ヴィルフリートと想いが通じ合い、両家で改めてその意思を確認した。その後母の不幸などで少しの間休学していたが、登校した日すぐにフィーネはお世話になったシェンケル先生に説明とお礼を言いに来た。……もちろん、フィーネがシルビアとなった話はマイザー伯爵家とクレール侯爵家だけの秘密だ。
「───きちんと話はまとまったようだね。何よりだよ」
シェンケル先生は穏やかに笑った。
おそらくは先にヴィルフリートからガスト教授経由で話を聞いていたのだろう。
「……はい。彼に会わせてくださって、心から感謝しています」
先生達が気を遣って会わせてくれていなければ、2人はお互いを知らぬまま婚約は解消されていた事だろう。
「……ふふ。この歳になるとこうやって若い者の想いが通じ合うのを見るのは良いものだ。こちらも幸せな気分になるね。
───さて、今日も大学部へ遣いに行ってもらえるかな?」
そう言ってシェンケル先生はウィンクをした。
───やって来ました、大学部。
そしてフィーネの目の前には、数人の女子生徒達。
う───ん……。大学部に来ると何故か彼女達は私をすぐに見つけてやってくるのね。
……後で聞けば学園部から大学部に来る通路は大学部のカフェからよく見えるらしかった。
「貴方。懲りもせずまたいらっしゃったの?」
「婚約者にまったく相手にされてもいないのに、よく恥ずかしくもなく来れたものだわ」
「今日もガスト教授への遣いって言い訳なのかしら?」
「ふん、病弱だったせいか若々しさもないものね」
クスクス……
……うん、そちらもまあ懲りもせず。
それに本当は20歳の私に16歳の『若さ』がないのは尤もなのだけど、多分あなた方と同じ年齢ですから、そちらにも同じ事が言えますけどね?
フィーネはそう考えながら、いつもの『儚げな笑顔』を魅せた。
「……いつもお会いしますわね。お忙しい中わざわざお越しいただいて申し訳ないですわ。今日はガスト教授への遣いではないのです。
そしてお姉様方は大人の魅力が溢れてらして流石ですわ」
『また来たの? 暇なの? そっちも若さはないわよね?』で、どーだ!
「んまッ!」
「なんですって!」
「生意気よッ」
女子生徒達はそう口々に言ってフィーネに手を伸ばそうとして来た。
フィーネは幼い頃剣術を習っている。運動神経は良いのだ。前回は後ろから不意に水をかけられたので不覚をとったが、目の前の令嬢の手から逃れる事くらいはなんて事はなく、ヒラリと躱す。
「ッ! この! チョロチョロと……!」
数人がかりでも捕まえられず女子生徒達がイライラしていると、後ろから声がかけられる。
「───何をしている?」
ヴィルフリートだった。
女子生徒達は一瞬顔を青くしたが、開き直ったのかフィーネを非難し始めた。
「ックレール様……!!」
「あのこれは……、この子が私達に失礼な事を……!」
「そうですわ! それに今日はガスト教授の遣いでもないのに大学部をウロウロしているのですよ!?」
どうせこの子はクレール様から婚約者として愛されていない。そう侮った女子生徒達は口々にフィーネを罵ったが、ヴィルフリートはスッとフィーネの隣に立った。
「───ああ。今日彼女は婚約者である私の所へ来てくれたのだ」
「───えっ!」
今までずっと、婚約者の事を口にした事がなかったヴィルフリートの言葉に女子生徒達は愕然とする。
「知らなかったのか? 彼女はシルビア マイザー伯爵令嬢。……私の愛する婚約者だ」
ヴィルフリートは皆の前で堂々と宣言した。
その隣で、フィーネは大いに照れていた。
……愛する婚約者! 真正面から言われると照れるわー! さぞかし彼女達も驚いてるんでしょうね?
フィーネは顔を赤くしながらも女子生徒達を見ると、彼女達は口をあんぐりと開けて固まっていた。
するとダメ押しとばかりにヴィルフリートはフィーネの腰を抱き微笑みかける。
「シルビア。……今日も美しい。会いに来てくれて嬉しいよ」
「「キャーッ! イヤーッ!」」
「クレール様は婚約者と不仲なのではなかったのですか!?」
女子生徒達の金切り声のような絶叫が渡り廊下に響く。周囲にはその声を聞いて他の生徒達も集まって来た。
フィーネはヴィルフリートに腰を抱かれた状態で人々の目に晒され恥ずかしくて身悶えているのだが、ヴィルフリートはとても満足げだ。
……そして周囲にそれなりの人数が集まった時。
「丁度良いから紹介するよ。彼女はシルビア マイザー。私の愛する婚約者だ。私達は彼女が学園を卒業次第すぐに結婚する」
ヴィルフリートは皆の前でそう宣言した。
騒つく人々。
悲鳴を上げる女子生徒達。
……しかし先程フィーネに絡んで来た女子生徒達以外は最初は驚いた様子だったものの、その内笑顔になって拍手が巻き起こった。
「……おめでとう!」
「婚約者と上手くいってないのかと心配してたんだよ、良かった!」
概ね好意的な反応にフィーネは胸を撫で下ろす。
「……ありがとうございます」
「皆、ありがとう」
ヴィルフリートは皆に礼を言った後、フィーネの手を取り口付けた。
フィーネは先程までよりも、更に真っ赤になった。
ヒューッ!
その後はてんやわんや。
一部を除いた生徒達から冷やかされ温かく祝福されたのだった。
……皆の前なのに、ヴィルったら! でも皆に好意的に思われたみたいで良かった……。さっきの女子生徒達も渋々っぽいけど手を叩いてくれてる。不仲説が消えたらこれまでのような事はなくなりそうね……。
もしもあったとしても受けて立つけれどね!
さて、病弱設定で華麗に立ち回るにはとイメージトレーニングをするフィーネだった。
その後はガスト教授にも2人で挨拶がてらお礼を言いに行った。かなり心配していた教授は実際に仲の良い様子の2人を見てとても安心して喜んでくれたのだった。




