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少し悲しい話になります。飛ばして読んでいただいても話は繋がります。
「───お母様ッ」
「フィーネ……、エドガーも。
……そう……知ってしまったのね」
そう言って二人の母は困ったように微笑んだ。
最後に会った時よりも、随分とやつれてベッドに横たわる母。既に起き上がることも難しいようだった。
クレール侯爵一家との話し合いの翌日、フィーネとエドガーは母が入っているという療養所を訪れていた。
「お母様……」
「どうして本当の事を言ってくれなかったの? お母様と、ずっと一緒に居たかったのに……!」
エドガーは立ったまま母をただ見つめ、フィーネは母の側まで駆け寄り手を握り涙して言った。
「……フィーネ、貴女は貴族の令嬢として一から学ぶべき事がたくさんあったでしょう。エドガーも、すべき事はたくさんあるはず。……それにこれは私の闘いなの」
「お母様の、闘い?」
「……そうよ。この闘いは私が1人で負うべきもの。
───それに、私はずっと罪を犯していた。奥様がいると分かっている方を愛してしまった。あなた達を授かった事は後悔していないけれど、私の犯した罪はとても大きいわ。
……それなのに、奥様はエドガーを家の後継としてくださりそして私にはフィーネを残してくれた」
「……? 私が残されたのは女の子だったから、でしょう? エドガーは子供の居ない家の後継が必要だったから……」
「……いいえ。あの時2人を伯爵家の子供として引き取る事も出来たはずよ。けれどもそうすると私が子供達と引き離され1人になってしまうから───。
その証拠に私たちへの援助を奥様に止められる事はなかったし、あの人とエドガーが定期的に私達の元を訪ねるのを止められることもなかったわ」
……そう言われてみれば、確かにそうだ。ずっとフィーネ達母子は伯爵家から手厚い援助を受けていた。
それは父が上手くやっているのだと思っていたが、夫人がそれの邪魔をしようとしたなら出来た筈だったのだ。
───夫人はフィーネを引き取らなかったのではない。母からフィーネを#奪わなかった__・__#のだ。
「……フィーネ、エドガー。
私は奥様のお心遣いのお陰で、今まで幸せだった。2人の立派な姿も見られて、本当に……本当に幸せよ。
……今の私はこれまでの報いを受けて……自分自身と闘っているの。そしてこんな私の最期の願いをも叶えてくださった奥様には心から感謝をしているわ」
母は、まるで聖母の如く柔らかな笑顔を見せた。
フィーネとエドガーはそれ以上何も言えなかった。2人は生涯母のその微笑みを忘れる事はないだろう。
……そして、その後は3人で取り留めもない話をして帰った。
───それから暫くして、母が亡くなったと知らせが来た。
伯爵とフィーネとエドガーが駆けつけると、母は安らかな顔をして永遠の眠りについていた。




