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ヴィルフリートとエドガーが話をした日の学園帰りの馬車での姉弟です。
「ねぇ、エドガー。今日貴方大学部へ行っていたのですって?」
学園からの帰りの馬車で、フィーネはクラスメイトから聞いた話を問いただしていた。
「ああ、うん。よく知ってるね。……もしかして、クレール侯爵令息と一緒だった事も聞いた?」
特に隠す気もなかったエドガーはあっさりと明かす。
「エドガー、貴方クレール侯爵令息とは関わりないって言っていなかった?」
「うん。今日初めてきちんと話をしたよ。急に向こうから声をかけられてね。……何を話したか、知りたい?」
面白そうにそう言ったエドガーに、フィーネは少し不機嫌になりつつその話を聞いたのだった。
「───え!? クレール様はエドガーと私の関係を疑って声をかけたの!?」
フィーネはまさかの疑惑を持たれていた事に驚きつつ、そんなとんでもない勘違いをしているヴィルフリートに呆れてしまった。
「……姉様と僕、あまり似てないしょ? 知らない人が見たらそう見えるのかな。クレール様には昨日一緒の馬車に乗り込む所を見られたみたいだからそれで勘違いされたのかもね」
「そんな……。何を考えてるのかしら。それでエドガーを呼び出して問い詰めるなんて」
「……それだけ姉様を本気で好きって事じゃない?
……一つ聞きたいんだけど、姉様は本当のところクレール様のことどう思ってるの。このままじゃいずれ彼は姉様を婚約者と知らないまま婚約解消しちゃうんじゃない?」
「……私は……」
子供の頃、短い間だったけれど彼と一緒に過ごした。会えなくなってとても寂しかったのを覚えている。
けれどあれから10年以上経ったのだ。……けれど、彼はその間自分を思い続けていてくれた。
そして……。再会して話をして……。少しだけ、心惹かれたのは間違いない。そうほんの少しだけれど。
だけど今まで他の人には感じたことのない感情だった。
フィーネはそこまで考えてハッと我に返り、ふるふると頭を振る。
「……これは元々シルビアに組まれた婚約なのよ? 彼は本当の『私』の婚約者じゃない。それに両親の言う『契約婚約』だったとしても、一度もシルビア本人と会わなかったような方なんて……」
フィーネは必死にヴィルフリートの悪い所を探して言ったが、なんだかモヤモヤして胸が痛い。
「……ふーん? それなら良いんだけど。
あ、そう言えば聞いてる? 今日クレール侯爵夫妻がうちを訪ねて来るそうなんだよね。もしかして婚約解消の話なのかも……」
「───え!?」
……ヴィルフリートとの、婚約の解消。それはずっと望んでいた事のはずだったのに。シルビアに一度も会いに来なかった薄情な婚約者なんてあり得ないと思っていたはずなのに。
フィーネは何故かそれを、嫌だと思ってしまった。そしてその感情は分かりやすく顔に出ていたらしい。
姉のその顔を見たエドガーは肩をすくめた。
「もう、姉様。分かりやすいなぁ。……うん、今日は授業後すぐに学園を出たし、侯爵夫妻はまだ伯爵家にいらっしゃるんじゃないかなぁ」
……今なら、まだ間に合う?
迷いを断ち切ったフィーネはすくっと立つと馬車の窓に近付き、コンコンとノックし御者に声を掛ける。
「申し訳ないんだけれど、伯爵家まで急いでもらっていいかしら!?」
その素早い行動に感心したような少し呆れたような表情でエドガーは言った。
「姉様は一度決めたらまっしぐらだねぇ。……でも僕らじゃ当主達の決めた事は覆せないからね」
「───分かってる。ただちゃんと挨拶をして話もしっかり聞いておきたいだけ」
当主同士の話し合いに口を出す事はできない。
けれども、きちんと話を聞いて納得はしておきたい。
まだ自分の気持ちははっきりとは分からないけれど、このまま流されるまま婚約が解消されるのはいけないのではないかとフィーネは思った。




