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サバ読み令嬢の厄介な婚約  作者: 本見りん


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「申し訳ございません、シルビア様……」


「いいえ、お気になさらないで。お母様をお大事になさってくださいね」



 昨日カフェに行く約束をしていた友人の母が倒れたと連絡があり、友人は慌てて帰って行った。

 フィーネは友人を心配しつつ見送った後に考える。


 

 ……今日は友人と約束があるからとエドガーに先に帰ってもらって馬車の迎えまで2時間ほど時間はある。……久しぶりに1人で少し街を歩いてみようかしら。


 そう考えフィーネが校門へ向かって歩いていると、後ろから声をかけられた。



「……フィーネ! 今帰りかい?」



 その艶のある低い声に振り向くと、そこには昨日自分に愛を告白した婚約者が急ぎ足で駆け寄って来ていた。

 しかし彼は今のフィーネがシルビア、つまりは自分の婚約者である事を知らない。


 そして今周りにたまたま人が居ないとはいえ『フィーネ』呼びされ万一他の人に聞かれしまってはと焦る。



「───ヴィルフリート様。……ええ帰りですが急ぎますので!」



 そう言って立ち去ろうとしたのだが、相手もさるもの。



「令嬢が一人では危ないよ。……見れば馬車も無さそうではないか。私が送ろう」


「いえそんな! 私は一人で大丈夫です」


「いや、貴女を一人で行かせるのは心配だ。家まで送るよ」


「私はこの先寄るところがあるのです。お忙しいクレール様のお手を煩わせる訳には……」


「それなら尚更一人では危ない。私も共に行こう」


 ……うわぁ……!


「いえ、本当に、……なんと言いましょうか街をぶらぶら当てもなく歩くだけのつもりなのですよ?」



 本当について来てもつまらないですよと困ったように言ってみたのだが。



「ああ。それは良い。貴女と一緒に街歩きとは」



 とても嬉しそうに微笑みかけられた。


 ……久々の、気楽な街歩きだと思ったのに。


 勿論友人達との街歩きも楽しいのだが、本来平民として暮らしていたフィーネはたまに昔に戻って気ままに過ごしたい時もある。


 フィーネは思わずため息を吐いた。



「───どこへ行くつもりだったの?」


「……急遽友人に急用が出来て時間が空いたので、少し近くを気ままに歩こうと思っただけですわ」


「そうか。……では行こうか」



 そのまま何故か2人で街歩きをする。

 あちこちウィンドウショッピングをしている内に最初はぎこちなかった雰囲気がどんどん自然になり、なんなら笑顔で会話するようになっていく。


 そしてフィーネが気になった文房具店を覗いているとそれに気付いたヴィルフリートに『入ろう』と連れて入られた。

 案外強引なのねと思いながらも店内を気ままに周っていると可愛いペンを見つけた。フィーネが思わず手に取り見つめているとヴィルフリートは『良さそうだね』とそれらの色違い二つを買って店を出る。

 少し歩いて近くの公園に着いた辺りで、先程買ったペンの一つを笑顔で差し出された。



「……いただく理由がありませんわ、クレール様」


「せっかく一緒に来たんだ。今日の記念にもらってくれると嬉しい」



 そう言って決してその手を引こうとしないヴィルフリートの意志の固い真剣なブルーグレーの瞳に、フィーネは戸惑いつつそれを受け取った。



「……ありがとう、ございます」



 礼を言うとヴィルフリートは心底ホッとしたように破顔した。


 黙っていると冷たく見えるヴィルフリートだが、笑うと年相応の……いや年齢よりも幼い少年のように見えた。



 ……あら? 私、この感覚を前にも感じた事があるわ。


 妙な既視感にフィーネはもう一度ヴィルフリートの顔をよく見る。


 笑っていたヴィルフリートはフィーネの探るような視線に気付いて少し戸惑った様子で見つめ返す。


 二人は暫く見つめ合っていた。



『───君はもっと強くなれるよ』


 フィーネはヴィルフリートのブルーグレーの瞳を見ながら不意に子供時代が浮かび上がっていた。


『───これからも一緒に鍛錬して欲しい』


『───僕はヴィル。君の名前は?』



「……『ヴィル』……?」



 思わず呟いたフィーネの言葉にヴィルフリートはパッと表情が明るくなった。



「思い出してくれたのかい!?」



 ヴィルフリートのその喜色満面な様子に、今度はフィーネがハッと自分の言葉に驚いた。



 彼は……『ヴィル』。子供の頃剣を習っていた時、一時一緒になった少年『ヴィル』だわ!


 ……けれどそれを認めたら、『フィーネ』が『シルビア』だとバレた時……、彼が私を婚約者『シルビア』だと認識したら、マイザー伯爵家がウソをついていたと露見してしまう!


 ヴィルフリートが#消えた__・__#幼馴染だったと気付いたフィーネだったが、秘密を抱えるフィーネはそれを認めるわけにはいかなかった。



「いいえ、私は何も……」


「いや、君は今昔の呼び名で呼んでくれたではないか。……そうだ、僕は『ヴィル』だ。あの時は身分を隠す為にカツラをしていたので黒髪だったんだ」



 そう言われてフィーネは思わず彼の髪を見て納得する。


 ……そうだわ。だからピンと来なかったんだわ。10年以上前だし黒髪の少年のイメージが強かった。

 当時『ヴィル』が急に来なくなって寂しくて、先生にも尋ねたけれど答えてはもらえなかった。



「……いいえ私は───」


「フィーネ。前も話したがあの頃私は突然自由が無くなり連絡さえ出来なかった。そしてやっと来れるようになった時には今度は君の行方が分からなくなっていた」



 フィーネはドキリとした。当時母に剣の友人が居なくなった話をすると、『貴族にはそういった事が多いから、なるべくもう関わらない方がいい』と言われて……、暫くして私も道場を辞めたんだった。



「……ずっと探していたんだ。両親にどれだけ言われても君を探し続けた。期限は学園卒業までと言われたけれど見つからず、それでも抵抗する私に両親は『仮の婚約』をする事を条件に大学部の間は君を探す許可をくれたんだ。

───そして見つけた。……やっとだ。

そして再会したフィーネと話をして、この想いは間違いじゃなかったと確信したんだ」



 フィーネはヴィルフリートの話を聞いて胸が熱くなる自分と、伯爵家の為にもそれを認める訳にはいかない立場との狭間で大きく気持ちが揺れ動いていた。


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