第26話 渉外卿候補
夕方、城に戻った。
魔宰会議の部屋に入ると、ヴァルがいた。いつもの圧。いつもの疲れ目。
五卿も揃っている。
俺が報告を始める前に、ヴァルが短く言った。
「救護所は維持できたか」
「維持できました。搬送は条項で止めました。召喚者受け入れ手順も、仮で合意を取れました」
財務卿リリアが指を鳴らす。
「戦費は減る?」
「短期では増えるかもしれません。手順の運用コストが出る。でも中長期では確実に下がります。事故が減るので」
リリアが満足そうに頷く。怖い。
軍務卿グランが穏やかに言う。
「人間は嫌がるだろう?」
「嫌がります。だから“成果”で縛りました。王宮も神殿も古神殿も、逃げにくい」
諜報卿セラがにこにこする。
「噂も変わるよ。『背教の勇者』だけじゃなくて、『国境救護所』が噂になる。噂が増えると、単純なラベルが薄まる」
法務卿アシュが短く言った。
「ラベルは消せない。薄めるのが現実だ」
研究医療卿ユーリが時計を見て言う。
「ミキト。睡眠を守れ。摩耗が進んでいる」
「はい」
ヴァルが、少しだけ目を細めた。
「お主のやっていることは、渉外だ。交渉ではない。戦争の形を変えている」
俺は肩をすくめる。
「仕事です」
ヴァルが頷いた。
「なら、肩書きを与える。魔王直轄、渉外卿候補。まずは候補でいい」
場の空気が少しだけ動いた。肩書きは、紙より速い時がある。
俺は一拍置いてから答えた。
「受けます。枠の中で、やります」
ヴァルが小さく笑った。
「よい。枠の外には出るな。お主はまだ、削れる」
削れる。寿命の話だ。
笑えないけど、ヴァルの言葉は正しい。
会議が終わり、俺は廊下を歩きながら、耳の奥のノイズを抑えるために録音札を押した。
「女神様すばらしい」
棒読みは祈りじゃない。生存手順だ。
そして、思う。
救護所ができた。搬送が止まった。仮の規程もできた。
たったこれだけの“止まる時間”を作るのに、どれだけ紙が要るんだ。
でも――止まる時間ができたから、次がある。
悠斗を弾にさせないための次。
女神OSの仕様を逆に取るための次。
背教の勇者という呼び名を、処刑の理由にさせないための次。
廊下の先で、ゾルドが走ってきた。
「特命官殿! ……いえ、渉外卿候補殿! 国境より伝言です。古神殿が……上位者を寄越すと」
上位者。
大神官か、初代の誰かか。
胃がきゅっと縮む。次の相手は、トルストンより面倒な可能性がある。
俺は息を吸って、吐いた。
テンポよく行くしかない。
紙で。
枠で。
旗の内側で。
第一章 終
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