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土下座から始まる魔王軍改革 〜魔王軍初の勇者は30代!?戦争は書類で止める〜  作者: 那由多
第1章 土下座からはじまる異世界転移 

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第24話 四時間の壁


 救護所の膜は、礼拝堂の賛歌を「遠い音」にしてくれていた。


 それでも、完全に消えるわけじゃない。耳の奥で、しつこく波打つ。


 ナディアが淡々と宣言する。


「四時間。守りました。起こしませんでした。起こしに来た人も追い返しました」


 昨日の“搬送”を止めた条項は、夜に一回さっそく試された。試されたけど、踏ませなかった。


 神谷悠斗は、まだ顔色は悪いものの、目だけは昨日よりはっきりしている。起き上がるのはつらそうで、上体を少し起こすだけで肩が上下した。


 そこへ、トルストンが入ってくる。紙束を抱えて。


「睡眠は確保したな。では同意を取る」


 速い。速すぎる。紙で縛った瞬間、紙で殴り返す。


 聖別官エレナも入ってきた。神殿治癒官マリナ、研究医療卿ユーリ、法務卿アシュ、軍務卿グランも揃う。


 立会人が揃いすぎて、救護所が会議室みたいになった。


 トルストンが紙を机に置く。


「医療搬送の同意書。王都へ移せば安全だ。署名しろ」


 悠斗の指が胸元の学生証を握る。喉が鳴る。痛みが出る前兆。


 俺は短く言った。


「言い方を変える。『行きたくない』じゃなくて『ここで休む』」


 悠斗は一度だけ呼吸を整え、棒読みを挟む。


「……女神様すばらしい……」


 肩の震えが少し落ちる。


「……ここで、休みたい……」


 通った。詰まらない。


 トルストンが即座に言い換えてくる。


「休ませるための搬送だ」


 屁理屈が速い。


 だからこちらも速くする。言い換えの戦いじゃなく、記録の戦いに落とす。


 アシュが黒い紙を机に置いた。


「同意取得の手順に基づき、本人意思の記録を先に作る。署名はその後だ」


 ユーリが淡々と追撃する。


「環境変化は悪化要因。搬送は治療ではない。今は“ここで休む”が医学的に妥当」


 マリナが唇を噛みながら頷く。


「……神殿医療としても、同意します」


 エレナが結論を置く。


「技術的に妥当です。搬送は現時点で不要。必要なら再評価」


 トルストンのこめかみが動く。四方から「妥当」で囲まれると、監察官は動けない。


「……なら、本人意思を記録しろ。逃げ道は残す」


「残します」


 俺は淡々と言う。


「再評価は手順の中。今は、本人の意思が先」


 悠斗の前に紙が置かれる。署名欄じゃない。“意思記録”欄だ。


 短い文が二行。


 私は本日、救護所での休養を希望する。

 王都への搬送は希望しない(再評価は別途)。


 悠斗が震える指で、でも自分の意思で頷いた。


「……書く」


 名前を書こうとして、喉が詰まりかける。


 悠斗は自分で棒読みを挟む。


「……女神様すばらしい……」


 そして、書いた。


 神谷悠斗。


 その瞬間、場の空気が一段落ちる。紙に落ちた名前は、命令より強い。


 トルストンは歯を食いしばって署名した。王印も押した。エレナも、神殿も、立会人として署名する。


 医療搬送は、今日のところ消えた。


 消えたというより、紙の引き出しに押し込めた。


 悠斗が小さく息を吐く。


「……紙って……勝てるんだ……」


「勝てない時もある」


 俺は正直に言った。


「でも、今日みたいに“逃げない形”は作れる」

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