おまけ話 可哀想な女の子
私には好きな人がいる。
今そこで体育祭で使う看板を作っているあの人だ。
同じクラスの長野真咲君。
3年間ずっと同じクラス。
クールで頭が良くて気が利いてかっこいい真咲君は、とてもモテる。
彼が消しゴムを落とすと、クラスの女子ほぼ皆んなが拾おうとして奪い合いになる。
彼がお弁当を忘れようものなら、クラスの女子のお弁当全てが彼の前に出される。
ただ、これだけアピールされているのに彼は誰の気持ちにも気づいていない。
それが理由で儚く散っていった乙女心を私はいくつも見てきた。
だがしかし!この体育祭という絶好の機会を利用して、私は告白すると決めたのだ。
けれど私はクラスの中でも1番地味で目立たない。
おさげの髪に黒縁眼鏡、お昼休みはいつも屋上で1人で食べている。
休憩時間も全部授業の復習か、本を読むだけ。
そんな私を好きになって貰えると思えない。
だから私は今日から体育祭に向けて、日々少しずつイメチェンをしていこうと思っている!
待っててね!真咲君!
私の心はメラメラと燃え上がっていた。
「すずめさん」
名前を呼ばれて顔を上げると、なんと真咲君が私の前に立っていた。
「はい!?な、なんでひょうか!」
……緊張して思わず噛んでしまった、最悪。
「ふっ、ひょうかだって。面白いなすずめさん」
爽やかな笑顔の周りには、キラキラと輝くハートが散らばっている。
てか、私の名前知ってくれていたんだ……。
私は息を吸うのを忘れそうになり、急いでほっぺを叩き現実に戻る。
「大丈夫?」
真咲君は目をパチパチしている。
「大丈夫です!」
「でさ、ここの部分だけど、何か派手にバーン!と絵を入れたいんだよね。良い案ない?」
看板には山と校舎が描かれている。
上の方にぽっかりと隙間があるから、気になるのだろう。
「そうですね、龍……とか?」
チラッと真咲君を見る。
「龍!良いじゃん、それに決めた。ありがとな、すずめさん」
うっ、またキラキラの笑顔を見せてくる。
この人、さては自分の魅力に気づいているのでは……?
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翌日、私はおさげをやめてポニーテールにして学校へ行った。
クラスに入ると、ザワザワと皆んなが私を見る。
う、やっぱりおかしかったかな?
私はなるべく皆んなと目を合わせないように、席に座る。
「どうしたの?イメチェンってやつかな?可愛いじゃん!」
隣の席のつむぎ君が褒めてくれた。
この子は真咲君といつも一緒にいる2人のうちの1人だ。
「ありがと」
この子のせいで真咲君に近寄る隙がなくて困っている女子は多い。けど、慣れない手で頑張って結んだポニーテールを褒めてくれたから、私は許してあげよう。
「あ!真咲おはよー!ねえね、すずめさんイメチェンしたんだよ。可愛いよね?」
!!!?
ちょ、ちょっと、何言ってるのこの子は!
私どういう顔していれば良いの?!
「……おー、似合ってるじゃん」
?
朝だからか、少しぶっきらぼうな感じがした。
いつもあんなに爽やかなのに。
ふふ、朝苦手なんだなあ。
そして、次の日も私は見た目を変えた。
長かったスカートを短くしたのだ。
でもこれ凄いスースーして嫌だ!
そして、休憩時間は本ではなくお洒落な雑誌に!
……意外と読んでみると色んな服が載っていて面白い。
「あー!それファミキュンの新しいやつ!私も一緒に見させて!」
良いよと言う前に、つむぎ君の席から椅子を動かして隣に座る女の子。
この子は小泉ハナちゃん。
つむぎ君と同じで、いつも真咲君と一緒にいる残りの1人だ。
いつも元気で先生とも仲が良い。
そしてなにより、顔がとても可愛い。
ずるいでしょって思うくらい整っていて、可愛らしい顔をしている。
そのくせ真咲君と仲が良く、たまに肩を組んでいたりするからクラスの女子からは妬まれている。
「なになにー!何読んでるの?」
ああ、また1人増えた。
この子達はいつも一緒にいないと生きていけないのだろうか?
「つむぎ、この中だったらどの子がタイプ?」
ハナちゃんが、雑誌に載っている女の子達を見せる。
「んー、そうだなあ。強いて言えばこの子かな」
色黒でスタイルの良い、かっこいいお姉さんタイプを指差す。
「へー!つむぎってこんな感じが好きなんだ?意外!」
「そうかな?なんか、凄く魅力的じゃない?」
つむぎ君、分かる。
私もこの中だとその子が1番好みだった。
「真咲にも聞こー!」
そう言って真咲〜と呼ぶハナちゃん。
待て待て待て待て。
いや、ありがたい。私も真咲君のタイプはとても気になるんだけど、緊張するから呼ばないで〜!
授業の準備をしていた真咲君は、なんだなんだとこっちへやって来る。
わー、来ちゃったよ〜。
「この中でね、タイプの女の子を教えてよ」
「なんだそれ?」
真咲君がペラペラと雑誌を見る。
「この子」
あれ?意外とすんなり答えた。
真咲君が選んだ子は、栗色の髪でふわふわ巻き髪のふんわり系女子だった。
「この子?!つむぎよりも意外〜!」
ハナちゃん、同意!
しかも、全然私と違うし。
そりゃあ、クラスの子達にも振り向かない訳だ。
「意外かな?可愛くね?リスみたいで」
リス?小動物が好きなのかな?
「リスってよりライオンじゃない?」
「つむぎ、お前分かってないわ〜」
「あ!そろそろ次の授業始まる!」
そう言って3人ともバラバラと散っていく。
この3人本当に仲良いのね。
てか、私告白するタイミング見つけられるのかな?
その日の昼休み。私はいつものように屋上へ来ていた。
「ん〜!美味しい!」
お母さんの作るふわふわの卵焼きが私は1番好きだ。
ふわふわ……。
つい、真咲君の事を思い出す。
流石に茶髪の巻き髪は先生に注意されちゃうよな〜。
私は頭を抱えて悩む。
ガチャッ
ん?誰か来た?
この屋上あまり人が来なくて気に入ってるんだけどな。
私は陰からこっそりと覗く。
あれ?真咲君と……誰だろうあの女の子。
他のクラスの子かな?
「えっと、話って?俺めちゃくちゃお腹減ってるんだけど」
「ご、ごめんなさい!体育祭の前にどうしても伝えたい事がありまして……」
「なに?」
「ずっと前から好きでした!私を彼女にしてくれませんか?」
!!!!!!
告白だ!
盗み聞きしているみたいでなんだか申し訳ないな。
真咲君、どうするんだろう。
私は胸がドキドキする。
私も体育祭の日はあの子と同じ立場になるんだ。
「……ごめん、俺実はつむぎが好きなんだよね」
「え!?そんな……」
女の子はショックを受け、フラフラと校舎の中へ戻って行った。
その現場を見ていた私もショックを受けていた。
そんな……なんか凄い仲良いなとは思っていたけど、好きだったなんて。
私、一体どうしたら良いの?
流石につむぎ君にはなれないよ……。
あれ?でも好きなタイプってふわふわ系じゃないっけ?
ふわふわ系……つむぎ君だ!
全てが一致して私は膝から崩れ落ちる。
そんな、私の儚い恋もここまでなのね。
ガチャッ
「あ!ハナー!真咲いたよ〜!」
つむぎ君だ!!
ハナちゃんもすぐにやって来た。
「ここで何してたの?遅いから弁当持って来ちゃった」
つむぎ君が真咲君の弁当を渡す。
あー、そりゃあ好きになるか。
だって、つむぎ君凄く良い子だもん。
「お!ありがと。もうここで食べるか」
そう言って3人は私に気づかないままその場に座る。
「どうせ告白でもされてたんじゃないの?」
ハナちゃんは何か察したみたいだ。
「え?!真咲が告白!?まさかとは思うけど真咲ってモテるの?」
「知らなかったの?」
つむぎ君が倒れる。
「そんな!馬鹿な!真咲がモテるのに何で僕はモテないんだ!」
「おい、どういう意味だよ」
「本当にねー。こんなに口悪いのに」
「お前ら以外にはなるべく丁寧に話すように気をつけてるんだよ」
え、そうだったんだ。
「そんな事してるから女の子に勘違いされるんでしょ」
「そうだよ、僕はありのままの真咲の方がカッコいいと思うよ?」
やめてー!真咲君にそんな甘い言葉言わないでー!
真咲君は無表情で黙々と弁当を食べている。
ポーカーフェイスなのかな?
「それより最近すずめさん変わったよな」
!?
真咲君の口から突然私の名前が出る。
「やっぱり?私もそう思ってた!スカートの丈短くなってるし、なんか少しずつ可愛さ増していってるんだよね」
「でも眼鏡はしたままだよね?僕イメチェンってとりあえずコンタクトにするイメージがあったや」
「馬鹿ねえ、眼鏡をかけたままの方が色気が出るのよ」
「色仕掛けしてるって事?」
パコンッ!!
つむぎ君がハナちゃんにスリッパで叩かれる。
「とにかく!好きな人でもできたんじゃない?」
「好きな人か……」
え、何その反応。
真咲君、つむぎ君が好きなんだよね?
……そんな反応されちゃ、期待しちゃうよ?
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体育祭当日。
学校全体が盛り上がっている。
キラキラ光る飾りに生徒達は皆んな胸を高鳴らせる。
校舎の壁には真咲君達が作った看板が掛けられている。
その看板には龍がデカデカと描かれている。
うまっ!!!!
真咲君って絵上手だったんだ……。
私はというと、今回出る種目は綱引きと玉入れだ。
どちらも集団で出られるやつ。
個人プレーなんて私には絶対あり得ない。
どんどん競技が終わっていく。
次は私が出る綱引きだ!
綱の場所へ行き、私は腰を下ろす。
「よーい!」
パンッ!!!!
そーれそーれと皆んなで声を出して引く。
あと少し!あと少しで勝てる!
パンッ!
「そこまで!」
どうなったの?
「2組の勝ち!」
………負けた!
もう少し時間があればいけたのに!
手のひらがジワジワと痛む。
けど次の種目は玉入れだ。
休んでいる暇はない。
次こそは勝つ!
……………負けた。
また、負けた。
え、これもしかして私のせい?
すみません、地味な上のろくて。
意外と落ち込むもんだなあ。
体育祭ってこんなに盛り上がれるものだったんだ。
1、2年生の時は風邪で休んだり、交通事故にあったりで全く記憶にないからなあ。
こうして思い返してみると私の人生散々だなあ。
……喉が渇いた、買いに行こう。
自販機に行くと、真咲君がいた。
「すずめさんも休憩?」
「まあ、はい」
「ん」
真咲君が私に向かって何か投げたのをキャッチする。
「?」
オレンジジュース……。
「俺この後借り物競走なんだよね。それで絶対勝つから、あまり自分責めない方が良いよ」
「真咲君……」
私がしょんぼりしていたのに気づいたんだ。
う、これ以上私をいじめないで欲しい。
「すずめさん、今回初めての体育祭でしょ?」
「え?」
「2年連続で休んでなかったっけ?」
覚えていてくれてたんだ。
「はい、今回が初めてです」
真咲君は自分の飲み物をガッと一気に飲む。
「じゃ、絶対勝たなきゃだ」
そう言うと、ニコッと笑って去って行ってしまった。
……あれ私の事好きなんじゃないの?
期待してしまいますよ?良いんですか?
つむぎ君に勝てるか分からないけど
告白、しちゃいますよ?
戻るとちょうど競技が始まるところだった。
「それでは、位置についてよーい」
パンッ!!!!
皆んな一斉に走り出す。
お題の紙はそこかしこに隠されている。
それを見つけて、尚且つお題に合った物も持って行かないといけない。
結構大変そう……。
あ!真咲君紙見つけたみたい?
それは、教頭先生のポケットの中に入っていた。
豪快にポケットの中を漁る真咲君は色んな意味で凄い。
真咲君がお題の書かれた紙を開く。
なんて書いてあるんだろう……。
私までドキドキしてしまう。
!?
真咲君が真っ直ぐにこっちに向かって走って来る。
「へ?!なになになに?!」
「ごめん!来て!」
そのまま私の手を取り走りだす。
胸がはち切れそうだ。
真咲君が1番に着いた。
スタッフの生徒がお題を確認する。
「お!お熱いねえ!」
?
そのまま通されて1位になった。
「急にごめんね。ありがとう、助かった」
「……えっと、なんて書いてあったんですか?」
「ん?あー、最近気になってる子」
「へ?」
「お、終わったみたいだな。ほら、戻ろう」
私の顔はスイカのように真っ赤になっていた。
体育祭が終わり皆んな解散する。
ぞろぞろと帰って行く生徒達を横目に、私は真咲君を探しに行く。
教室に行くと真咲君の声がした。
「なんだよお前らニヤけんなよ。気持ち悪い」
真咲君?なんか、口悪い?
「だあって〜、気になる子ってねえ?ハナさん」
「ねえ?アツアツですわよね、つむぎくん」
あの2人の声もする。
気になる子って、私の事話してる?
私はつい隠れて盗み聞きしてしまう。
「そんなんじゃないって」
「なによー、私たちにくらい教えてくれても良いんじゃないのー?」
「そうだぞー!僕たち親友でしょー!」
「だから、気になるってのは、つむぎに似てるからだよ」
え????
「へ?僕?」
「そう、なんかさ、すずめさんって大人しいのに話してみるといつもオドオドしてて変な事言うし、急に変わった事しだす所とかつむぎに似てんな〜って気になってただけなんだよ」
「でもこの前屋上ですずめちゃんの好きな人を気にしてなかった?」
「つむぎに似てる子が好きになる人ってどんな奴だろうなって思っただけだ」
……………………。
「えー、最低ー」
「気になる子ってそういう意味じゃないと思います〜」
「え、そうなのか?」
……………………。
私は踵を返し、そのまま帰る。
そっか、私の事を気にしてくれていたのってつむぎ君に似てたからなんだ。
好きなんだもんね。
私が眼鏡だけ残してた理由、貴方と1つでも共通点を持っていたかったからだよ?
良いもん、私口悪い男の人嫌いだから!
私の目から涙が溢れ出す。
そのまま走って学校を出て行く。
もう、体育祭なんて嫌い!!!
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「そういえば、真咲って告白された時なんて言って断ってるの?」
「実はつむぎの事が好きなんだーって言ってる」
つむぎとハナが驚いた顔をする。
「あ、えっと大丈夫だよ。僕真咲なら全然アリだと思うから否定したりしないよ!」
「まあ、恋は人それぞれよね」
「おい、何勘違いしてんだよ。体よく断る為の嘘だよ」
「なんだあ、嘘かー。日頃から僕にくっついてるから納得したのに」
「ね、私もなるほどねって思っちゃった」
「くっついてんのはお前だろ。まあ、そう言った方がキッパリ諦めてくれるから楽なんだよな」
「あらまあ、モテる男は大変ですねえ!」
「僕だって、僕だってモテたいのに!」
「はいはい、そろそろ帰るぞ」
3人は体育祭の余韻の残る校庭を通って、いつものように騒ぎながら帰る。
罪な男って恐ろしいですよね
なんだかおまけの方が長くなってないか?と思っちゃってますが、楽しんで貰えると嬉しいです。




