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「……どうするんですか。つむぎ出て行きましたよ」
「困ったな〜」
先輩は頭を抱える。
「お前らが先に行ってしまった時にこうなる事は予想していたんだ。ただ、つむぎがここまで感情を出してくるとはな〜。あんな奴だったっけ?」
「それほど、あいつにとってハナは大切な存在なんですよ。もちろん、俺にとっても。あと俺たちこっちに来てからだいぶ変わりましたから」
先輩は確かにな、と言い俺の顔を見る。
俺は先輩の横に座る。
「てか、なんでハナを壊すなんて設定にしたんですか。それに何か意味でもあるんですか?」
先輩は腕を組んで悩む。
「いやな、ここまでデカいものを作ってしまったせいか、戻る方法だけは俺が決められなかったんだ」
「え、そうなんですか?」
「ああ、そりゃあ俺にとってもハナは大切で可愛いさ。もちろんこの世界全ても。なんたってここを作った本人なんだからな。だから、このゲームが完成した時もっとちゃんとした戻り方を決めようとしたんだが、勝手に設定されていたんだ」
「バグですかね」
「どうだろうな。こんなもの作ったんだ、想定外の事が起こってもおかしくはない」
先輩が決めた訳じゃなかった……。
「本当にすまん。お前らを傷つけない為に俺自身が責任を取れるようにしたかったんだが」
「先輩……」
俺は先輩の右頬をつねる。
「いたたたた!!!」
「これで許してあげます。俺も本当ならあいつらと逃げ出してしまいたかった。でも、先輩も辛いのは同じなんですよね?それに、帰らなきゃいけないのは事実ですから」
「真咲!!!」
先輩が抱きつこうとしてくるのを俺は華麗に避ける。
「あ」
俺はあの本を思い出す。
この事だったのか……。
つまり、つむぎも最後には。
「なに?今のあってなに?」
「なんでもないですよ」
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ブオンッ
…………………。
行った事のない場所に着く。
目の前には大きな湖と、それに囲まれた大きな大きな桜の木。
「つむぎ……」
ハナが心配そうに僕を見ている。
「ハナ見て!綺麗だよ!」
「そうね」
「きっとこの世界にはもっと綺麗で楽しくて素敵な場所が沢山あるんだ!絶対全部3人で行こうよ!」
ね!とハナに笑いかける。
「行きたいわよ……。行きたいけど……!」
その時、ハナがその場にへたり込んでしまう。
わあわあと泣くハナを僕はそっと抱きしめる。
「行こうよ。僕、帰らないから。だってこの世界もハナの事も好きなんだもん。小説だってここでも書けるし!」
僕の目からも涙が溢れてくる。
ハナは声が出せないほど泣いている。
……………………………。
ハナが泣き止んでから僕たちはボーッと桜の木を見つめていた。
これからどうしよう。
「ね、つむぎ」
「ん?なあに?」
「私ね、最初は貴方の事あまり好きじゃなかったの」
なんだと?
「それは、悲しいなあ」
ふふと笑うハナ。
「でもね、一緒にいて変わっていったの。面白くて変な人で鈍臭くて」
「それ、変わってる?」
「それに、優しい。凄く優しいの。つむぎはいつも真咲に守られてるようで、でも実は逆で私と真咲の事をよく見ていてくれた。困ってる時はいつもそっと助けてくれるし、かといってそれをわざわざ言ってきたりしない。そういう所がね、一緒にいてとても心地良かったの。私、1番に出会えたのがつむぎで本当に良かった」
………………………。
「だからこそね、貴方達には元の生活に戻って欲しいって思ってる。私みたいにつむぎを待ってる人きっと沢山いるわよ?だからお願い、この世界から出て行って」
………………………。
「つむぎ?」
「そんな、そんな事言われちゃったら余計に離れたくなくなっちゃうよ〜!」
僕の目からは滝のように涙が溢れている。
「本当、面白い人!」
ニッと笑うハナは今までで1番可愛かった。
「あ、もちろん真咲にも出会えて良かったって思ってるわよ?」
「初恋を教えてくれたからね?」
僕はニシシッと笑いおちょくる。
「うるさいっ!あれはもう遠い過去よ」
そして、その後も2人でお喋りをして、笑い合った。
「あー、そろそろ戻るかー」
僕は立ち上がる。
「……大丈夫なの?」
僕はまた目の前がボヤけそうになるのを腕で擦って抑える。
「大丈夫さ!任せて!」
「お願いね」
ハナは微笑んだ。
「2人でこうしてワープするの久しぶりね」
「そうだね。そんなに前じゃない筈なのに凄く懐かしく感じるよ」
「つむぎ」
「ん?」
「ありがとう」




