3-6
そこは大衆酒場だった。
シンさんに案内されて入ると、
沢山の料理を囲って、老若男女問わず色んな人たちが酒を飲んだり、大きな声で笑ったり、音楽に乗って踊っていた。
これケルト音楽って言うんだっけ。
皆んなそれぞれとても楽しそうだ。
ここの雰囲気好きだなあ。
「シンさん、ここはいつもこんな感じなの?」
話しかけてみたけれど、シンさんは他のお客さんに声をかけられていた。
「よお!坊主!初めて見る顔だな!酒飲むか?」
いきなり後ろからガバッと僕の肩をくんできた男性。
50代くらいだろうか。
体格が良く、口から酒の匂いがぷんぷんする。
「いえ!僕高校生なので……」
「コウコウセイ?なんだそりゃ。飲めねえのか、じゃあこれ飲め!ここの店自慢のジュースだ!」
そう言って飲み物を渡してくる。
強引な人だなあ。
「ありがとうございます」
おじさんは僕をニカニカ笑いながら見ている。
僕は少し不安になりながら貰った飲み物を口にする。
「!!」
「美味しい!これ、凄く美味しいです!」
オレンジジュースに近い味で、それよりも濃厚なのにとても飲みやすい。
「そうかそうか!じゃあ、しっかり楽しめよ!」
おじさんは嬉しそうにして賑やかな人々の中へ消えていく。
「お前、いきなり知らない奴に貰ったものをよく口に入れられるな」
横でその様子を見ていた真咲。
何故か顔が少しこわい。
「真咲?なんで眉間にしわがあるの?何か怒ってる?」
あ、僕また心配かけちゃったのかな。
「いや、酒の匂いがきつい。俺この匂い苦手だわ」
そう言って鼻を押さえる。
「無理しちゃダメだよ、帰ろうか」
少し残念だけど、楽しめない真咲の方が辛いだろう。
ハナに帰ろうと声をかけようとして僕は驚いた。
ハナは泣いていた。
でも、どこか嬉しそうで目がきらきら輝いている。
…きれいだ。
「……帰るのはまだ後でいい。けど俺今回はパス。見て楽しむだけにするわ」
そういって隅に置いてある椅子の方へと歩いていく。
なんだかんだいって優しいんだよな、真咲って。
僕はまたハナの方を見る。
いつのまにか他のお客さんと一緒に楽しそうに踊っている。
そっか、ずっとひとりであの家にいたんだもんね。
僕が来るまでの間どれほど寂しい思いをしたのだろう。
気になった事も全部分かってしまう。
知らない方が楽しめる事だって全部。
良かった、全知を消してもらって。
「どうですか?楽しめていますか?」
シンさんが戻ってきて声をかけてくれた。
「はい、僕ここ好きですよ。きっとハナも」
僕は楽しそうなハナを見ながら答える。
シンさんはふふっと笑う。
「あの子の事好きなの?」
ん?なんでそうなった?
「いや!違いますよ!あの子はただの旅仲間ってだけで、むしろ僕は……」
シンさんは僕の目をまっすぐに見ている。
くそっ、なんて可愛いんだ。
言うか?今がその時なのか?
「お、シン!帰ってたのか、おかえり」
1人の男性が声をかけてきた。
僕はほっと安心する。
奥でお客さん達と一緒に演奏をしていた人だ。
背が高く、しっかりとついた筋肉にキリッとした顔立ちをしているけど笑顔が爽やかでモテそうだなというのが見て分かる。
「カイト!」
頬を赤らめて嬉しそうに男性の名前を呼ぶシンさん。
あれ、これってもしかして。
「来てくれてありがとう!貴方の演奏、今日も素敵だった!」
シンさんは男性の腕をきゅっと掴んで、はしゃいでいる。
「ははっ!ありがとなシン。俺はお前の作ってくれるジュースと、演奏を楽しみに来てるからな」
男性はシンさんの頭をポンポンと撫でている。
あれシンさんの手作りだったんだ。
そりゃ、美味しいわけだ。
てか、なんだこの気持ち。
凄い負けた気がする。
「あのね、あのね!今日も私の演奏で沢山の人達が喜んでくれたの!」
子どものように無邪気に話すシンさん。
僕の知らないシンさん。
2人は僕の目の前で楽しそうに話している。
僕はそっとその場を離れる。
別に泣いてなんかないし。
シンさんは憧れっていうか、かっこいいなって思ってただけだし。
その時。
「つむぎ!」
「わっ!」
ハナが僕の手を掴んで引っ張る。
「一緒に踊ろう!」
僕は何が起こったのかさっぱり分からないまま、踊っていた人々の中へ連れ込まれた。
僕の手を握って軽やかに踊るハナ。
なんだか顔が赤くないか?
!
ハナから酒の匂いがする。
いつもよりテンションが高いのは酔っていたからか。
凄く楽しそうだな。
……うん、来て良かった!
だってこんなに楽しいじゃないか!
仲良くなる事すらできず散ってしまった恋を忘れて、僕もハナと一緒に思い切り踊る。
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