表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
赤き日  作者: 溶接作業
二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

75/79

 彼は扉をノックして「おい! じーさん居るか?」と大声を出す。


 さすがに、この声量に驚いたのか周囲の住人が家の中から顔を覗かせている。やはり兵士は恐怖の対象なのか完全には姿を見せない。


 すると、小屋の中から「入ってこい」と擦れた、弱弱しい声が聞こえた。


 モヤトは扉を押し、入ってゆく。二人も中へと足を踏み入れる。

 暗闇に目が慣れてくると、痩せの老人の椅子に腰かけた姿が目に入った。


 背は低く、肌はシワだらけでよく焼けている。痩せているが不健康な痩せ方ではない。元々このような体格なのだろう。


「なんだ! モヤトか! とうとう腹をくくったのか!」


 声がかすれていることを本人も認識しているのか、声を大きくして、聞き取りやすいようにしてくれている。


「まぁ、そんなところだ」


 質問に彼が答えると、老人は満足そうに笑顔を見せた。そして「何しに来たんだ」と続けた。


「爺さん。鍵を開けられるんだよな?」

「ふん! どんな鍵でも開けられるわい」


 その言葉を待っていたかのようにモヤトは笑みを浮かべている。

 しかし、どうも想像がつかない。この老人があの堅牢な扉の鍵を開ける姿が。


「おじちゃん! 頼まれたモノ用意したけど…」


 突然、入り口が開き、誰かが入って来た。その声は聞き覚えのあるものだ。

 ニッケランは振り向き顔を確認する。


「オキタル! どうしてここに?」


 特に変わった様子もない姿に安堵しつつ、脳内は疑問で満たされた。彼が驚いた様子なことも余計に状況を不思議なものにしている。


「どうして二人が? それにモヤトさんも」


 ニッケランたちは困ったように顔を見合わせた。モヤトが自分たちの正体を知っていると知ったらどのような反応をするだろうか。あまりいい反応を見せないことは十分想像できた。


 すると「その話は外に出たらな」とザザンが言った。


 ニッケランはうなずき「そっちはなんでここに?」と聞く。


「鍵を開ける道具を作る材料を調達してたんだ。ほら」


 オキタルはそう言うと握っていた手を広げ、握られていた物を見せつけた。


 細長い金属片が大量に乗っている。それを誇らしげに見せつけている所から、かなり集めることに苦労したようだ。


 すると、後ろで椅子に座っていた老人が立ち上がり、金属片に飛びついた。


「盗むのが得意と言っとったのは冗談や無かったんやのぉ」


 老人は金属片を一つ摘まみ上げると「すべて寄こせ」とオキタルからすべてを受け取った。

 彼は椅子に腰かけ、金属片を吟味し始める。


「あれは何を?」


 説明もなしに始められ、たまらずモヤトに質問をする。


「鍵を開ける道具に適した金属片を探しているのさ」とモヤト。


 あの細い金属片が扉を開ける。

 弱弱しい老人と頼りない金属片の組み合わせが不安をかき立てる。


 しかし、不安に押しつぶされている彼を余所にモヤトは話を進めた。


「爺さん。どれぐらいかかりそうだ?」

「二日」と老人。


 彼は「悪くない」と言うと、そそくさと小屋の出口へと向かってゆく。

 まったく状況の飲み込めないニッケランは慌てて彼に着いてゆく。もちろんザザンも。

 オキタルは迷っているようで老人とモヤトの顔を引っ切り無しに見比べている。


「おい少年。話があるから着いてこい」


 モヤトのオキタルが慌てて後ろに着いた。

 外に出ると、たまらずニッケランは口を開いた。


「あの爺さん、本当に大丈夫なのか?」

「お前が心配するのも分かるが、信用してくれ。鍵に関してあの爺さんは、帝国一といっても良いレベルだぜ?」


 ここまで自信満々に言われると、余計に怪しく聞こえてしまう。詐欺師が雄弁に語っているようにしか見えない。


 しかし、彼を疑っても、あの爺さんを疑っても進展は起こりえない。ニッケランは喉元まで登った言葉を飲み込み、それ以上は何も言わなかった。


「とりあえず、テントに戻ろう」


 彼の言葉に全員が従った。

 来た道を戻り、モヤトのテントにたどり着くころには、足が泥だらけで、靴下の中にまで入り込んでしまっていた。


「あー…後で足を洗いに行こう」


 意外にも初めに発言した者はモヤトだった。ここに戻ってくるまでに頭が冷えたのか、さすがの彼も足の違和感に応えているようだ。


「で、お前は何をしてたんだ? あの爺さんの所で」とニッケラン。目線の先には、足に着いた泥に不愉快な顔をしたオキタルだ。

「お爺さんに頼まれたの。なんか、鍵を作るために金属片を集めてほしいって」


 目的はなんとなく予測していた。しかし、タイミングが良すぎる。爺さんに未来が見える能力がない限り、説明のつかない手際の良さだ。


 それに、モヤトと爺さんの会話も違和感が多い。事前に打ち合わせをしていないと出来ないようなスピーディーな会話だった。


「モヤト。疑うような事を聞いて悪いんだが、なんであんなに手際が良かったんだ?」

「え?」


 ニッケランの質問に彼は間抜けな顔を見せた。


「戦の前に、実は魔操志を殺す計画を立ててたんだ。まぁ、どんだけ頑張っても負けるし、勝てたとしても被害が大きすぎて頓挫したんだけどな」


 まさか、彼がそんな計画を立案するところまで行っていたとは思わなかった。ニッケランのイメージでは平和主義的な人物だった。

 確かに辻褄のあう説明だ。計画だけ進めて実行に移せていなかっただけなのだろう。しかし、オキタルが鍵の材料を集めることに関しては、まだ、理由がよくわからない。少なくとも、戦が始まる前から計画していたのであれば、鍵ぐらい用意できたはずだ。


「そうか…でも、なんで鍵は用意できてなかったんだ?」

「金属片を中々手に入れられなかったんだ。なにせ、あの爺さん、体が弱いからなぁ…それに下手に大きく動いてバレたら本当にやばいからな。殺されるのは確実だ」


 彼は続ける。


「ところでキルタだったか? お前の本当の名前はなんだ?」


 オキタルは顔を青くさせ、口をあんぐりと開けた。泥の事なんてすでに頭から吹き飛んでいそうだ。


「すまないがオキタル。彼に自己紹介を。彼は仲間だ」


 ニッケランの言葉にオキタルは余計に動揺してしまったようだ。潜伏して一日も経っていないにもかかわらず、身分がバレるとは思ってもみなかっただろう。もちろん、ニッケランたちもだが。


「オ…オキタル…」


 ひどく緊張しているようで、口がうまく回っていない。しかし、モヤトも平気な顔を見せてはいなかった。


 彼にとってもオキタルが信用してくれるかどうかは重要だ。下手に警戒され、計画が円滑に進まないことは避けたいだろう。


「そうか、オキタルって言うのか。よろしくな。俺たちはもう同士だ」


 彼は手を差し出した。それにオキタルも恐る恐る手を重ねた。

 その光景に、ニッケランはひどく安心した。オキタルがここで何か文句を言いだすのではないかと心配したからだ。


「じゃぁ、とりあえず、奴の暗殺計画を立てよう」


 モヤトは安心したような肩を落とすと、話始めた。彼は続ける。


「とりあえず奴の名前はーーAとでもしておこう」

「で、そのバヒことAだけどよ。家の中で殺すんだよな?」とニッケラン。


 彼はうなずくと、作戦の概要を話始めた。


「あぁ。そうだ。家は堅牢で侵入しにくい反面、中には奴以外居ない。夜になると、扉の前に衛兵が配置されるが問題ない」


「問題ない? もしかして、根回ししたのか?」とザザンの質問に、彼は強く頷き、続けた。

「まぁ、根回しってほどじゃない。結局は奴の配下も恐怖に支配されてるだけで、内心はこっち側なのさ」


 話を聞き、ニッケランは頭の中で流れを想像する。


(あの扉に関しては、オキタルと爺さんに任せるとして。問題は誰が奴を殺すかだな。音を出来るだけ立てずに、忍び寄れる奴が良いよな…)


 こうなると、オキタルが適任になってしまう。彼のおかげで魔操志を倒せている事を考えると、実力は十分だ。しかし、彼は不意打ちでの戦闘に長けている反面、面と向かっての戦闘は未知数だ。


 もし、忍び寄ることに失敗し、敵と対峙してしまった場合、彼が勝利することが出来るのが心配だ。


「結局は、家の中に忍び込んで、奴を始末するって考えでよかったか?」


 ザザンの言葉に、モヤトは強く頷いた。


「家の中に侵入することは正直、簡単だ。しかしーーここからが問題なんだ。奴に気づかれずに忍び寄ることが、難しいんだ」


最後までお付き合いいただき感謝いたします。

評価やコメントをいただけると、物語をより良くしていく大きなヒントになります。

ぜひ皆さまの声をお聞かせください!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ