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赤き日  作者: 溶接作業
二章

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65/107

新魔法

 オキタルが腰に掛けたカバンから何かを取り出そうと探っている。彼が腕を引くと、手には黒い球体が握られていた。

 そして、奴らの動向を探っていた彼は身を乗り出し勢い良く球体を投げつける。


 球体は弧を描くように飛んで行くと、吸い寄せられるように足元へ向かい、地面へ突撃した。


 小さな炸裂音と共に魔操志たちを灰色の薄い煙が取り囲む。その煙を吸ったのか、奴らは突然むせ返り、苦しそうに煙から逃れようと散り散りになった。


「今!」



 オキタルの囁き声にニッケランたちは剣を抜き去り飛び出した。足音なども気にせずに、とにかく敵に向かって向かってゆく。


 煙に巻かれないよう迂回しながら向かうと、最初に剣が届いたのはザザンだった。

 彼は取り巻きの一人の首を勢いよく切り飛ばすと、次の敵へとかけてゆく。


 ジョンは魔操志の最も近くに逃げた兵士を捉え、スティレットを突き刺すところだった。


 取り巻きは順当にいけば残り二人。ジョンとザザンが残りも始末してくれることを信じ、ニッケランは一目散に魔操志の元へと向かった。


 しかし、ここで彼の足取りは止まった。前回オキタルが投げたモノよりも持続時間が短いものだったのか、魔操志は平時を取り戻してしまったからだ。


 奴は途端に彼を睨みつけ叫んだ。


「貴様! 反乱軍だな!」


 すると、煙に目を赤くした奴が掌を向けてきた。同時に詠唱が始まる。


「ラウザルク・ヴァジュラ・ヴィダールヤ」


 掌からパチッと何かが弾け、次に閃光が飛びこんできた。

 ニッケランは魔法を避けようと全力で右横に飛び退く。しかし、剣から全身へと痛みが走り、突然力が抜けた。


「な、なんだ?」と転がる彼は慌てて立ち上がる。


 すでに体に痛みや脱力感は無い。しかし、走り抜けるような痛みが走ったことは事実だ。


「何が起こっ………」と後ろをチラリと見ると地面が少しえぐられ、小さな煙を上げていた。



 冷たい汗を流した彼は「魔操志だな? 貴様をここで沈めてやる」と吠える。


「チッ」


 奴は舌打ちをし、目を細めた。


「お前はあれか? ロ=ヴェルト様を殺した?」

「そうだといったら?」


 奴の威圧感が増す。どうやらニッケランは踏み込み方を誤ったらしい。


「あのお方は私を大切に扱ってくれた…それを貴様は…」


 苦しむように頭を抱えた奴の姿に気が付いた。

 女だ。少し派手な武装は鎧ではなく服で、華奢な体躯を隠しているのだ。その証拠に奴が動くたびにカーテンのように服が揺れ動いている。


「ヴァル=ラージャ…」

「詠唱! させるか!」


 反射的にニッケランは切りかかった。詠唱を途中でやめさせ、発作を起こさせようととにかく数で攻める。


 切り、叩き、突く。


 何度も何度も一太刀入れようと、剣を振り回す。


 しかし、敵は未来が見えているのではないかと思うほどに華麗にすべてを避けていく。頭を下げ、体をねじり、飛び退く。所作と服装が相まって演武のようだ。


 対し、ニッケランの内心はどんどんと荒れてゆく。

 詠唱を辞めさせないと、魔法が発動してしまう。詠唱の長さを考えると先ほどの魔法とはレベルの違う威力が容易に想像できた。


(本当にマズいぞ……このままじゃ……)


すると、何度目かの斬撃を避けた奴が微笑む。


「…ダラ・ヴァーン=フリュムル!」


 とうとう詠唱が終わってしまった。奴の手から閃光が走り、また、あの魔法が飛び出すかに思えた。


(何でなにも………)と剣を握り込む彼。


 すると、頭上で耳を壊してしまいそうなほどの轟音が鳴り響いた。ニッケランは何が起こったのかを確認する前に、敵とは反対に走り出す。背後から奴に攻撃される可能性も考えられたが、魔法よりはマシな攻撃なのは確かだ。とにかく、必死に走る。



 突然、全身に痺れが走り、地面に強く打ち付けられた。

 軽い痛みが全身を支配し、どうしてか剣を握れない。しかも、体の毛という毛が逆立ち、魔法が落ちてきている場所を向いている。


 すると、背後で地鳴りが起こった。その瞬間、衝撃が周囲に走り、ニッケランを紙吹雪のように吹き飛ばしてしまった。


「な、なんて威力だ」


 吹き飛ばされ、木に叩きつけられた彼は雑草の上にうつ伏せになっている。背中からは鈍痛が鳴り響き、息を吸いづらい。


(骨に問題は無さそうだが………奴は今どこに)


 魔法が落ちた場所には白煙が立ち昇り、ジュウジュウと音を立てている。さらに、先ほどのものとは比べ物にならないほどに大きく地面がえぐられていた。


 「くそ…今度は雷かよ…」と着弾点の周囲の木は時折、パチッという音を立てては、静電気を発している。


 前回の魔操志と比べると確かに弱いらしい。しかし、雷と言う特性上、威力が弱くとも直撃してしまえば簡単に絶命することは容易に想像できた。


 ニッケランは自分を落ち着かせようと大きく息を吸う。しかし、焦げた匂いが全身に広がり余計に気分が悪くなってしまった。


 落雷死体気分だ。


 すると、垂れ幕の隙間から現れるようにして、奴が煙から姿を現した。


「貴様…これを避けるなんて…本当に殺したのね…」


 女魔操志は続ける。


「ヴァジュラ・リンド=ヴェス」


最後までお付き合いいただき感謝いたします。

評価やコメントをいただけると、物語をより良くしていく大きなヒントになります。

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