内情
「大型の都市で魔操志が幅を利かせているのは分かるとしてだ…小さな村だとか、規模の小さい町だとかでもそう言ったことが起こっているそうなんだ
将軍は続ける。
「ミャアドからも個人的に聞いた話でな、一応お前にも共有しておこう。お前が戦った魔操志は完全に戦闘向けの能力を持って生まれてきた人間らしいんだが、魔操志の中にも階級と言えばいいのか…戦闘向きじゃない魔法しか使えない魔操志の方が多いらしいんだ」
「戦闘向きじゃない?」
「ミャアドの話だと、湯を生み出すとか、小さい火を起こすとか、そういったものになるらしい。」
確かに戦闘向きではなさそうだ。小さな火を生み出す程度では致命傷は与えられないだろう。
「魔操志が力を付ける前までは、そういう人間とも仲良く生活できていたらしいんだが…奴らが力を付け始めたあたりから、魔法が使える人間に対して帝国が、特別扱いを始めたらしい。それが今回の火種だ」
「特別扱い?」
「税金の免除や、魔法使い専用の階級まで用意されたとか」
「確かにそれは完全に反感を生みますね」
ルートは一つ息を吐き、言葉を詰まらせた。何やら、この先の事はあまり話したくは無さそうだった。
「…それで奴らは調子に乗ったらしい。帝国国内は魔法を持たざる者は完全に人間以下の扱いを受けるように制度化されはじめたそうだ」
ニッケランは絶句した。権力を持ってしまった人間と言うのはこうも醜くなるものなのだろうか?
「その制度と言うのは?」
「帝国国王が制定したそうだ。詳しくは聞かなかったが、完全に魔法を使いない者は魔操志の下であると法律で定めてしまったらしい」
「なぜ、国王自身が?」
一瞬、考える素振りを見せたルートだったが、すぐに辞めてしまった。
「さぁなぁ…魔法と言う力に魅せられたのかもしれんなぁ。もしくは、かしずいたか…」
ニッケランは得も言われぬ違和感を覚える。国王であるものがそんな簡単に権力になびいてしまうものなのだろうか。しかし、これは国王にしかわからない事だった。
「それで、不満を持った帝国兵たちは王国兵になる素質があると?」
「そうだ」
確かに条件としては十分に感じた。もちろん、十分に教育を受けさせる必要はあるだろうが、帝国を魔操志の手から奪い返したいと思っている者は多そうだ。
「それで、悲報の方は?」
なぜか、将軍がバツの悪そうな顔を見せる。
「それがだな…当初、反帝国軍にお前たちを送り込む際、少しでも多くの仲間を入団させようと考えていたんだ。しかし、国内の状況が芳しくないそうでな…」
「国内で何が?」
将軍は目頭を摘まみ、息を吐き始めた。かなり参った様子だ。
「国内でとうとう餓死者が出始めたのだ。この戦にすべてを賭けていたからな…金も資源も食料も」
「それで、畑を耕す人手が居ると?」
ルートはうなずいた。
「王国は度重なる戦で多くの命を失った。そこに無理をして今回の戦だ。最早、帝国を攻めることすら本来は不可能なのだよ‥‥」
「つまり、支援は得られないと?」
「…そうだ」
将軍は頭を下げる。その光景は何度見ても慣れない。
「謝らないでください。我々だけで、帝国に大きな打撃を与えて見せますよ」
「…」
ルートは頭を下げたまま、黙ってしまった。
ニッケランには、その理由が痛いほど伝わっていた。戦で活躍した、本来であれば報酬が渡されるであろうニッケランたちを死地へと追いやってしまう。それを将軍は許せないのだ。
「報告は以上ですか?」
「あぁ…」
ニッケランはそれを聞くと、立ち上がろうと動いた。すると、ルートが慌てたように言葉を飛ばす。
「まて、何か用意してほしい物は無いのか? なんでも用意するぞ?」
「あぁ、すっかり忘れていました。えーと…仲間たちがこういうものを用意してほしいそうで…」
ニッケランは覚えている限り、仲間たちが欲しがっていた物を伝える。
オキタルの目つぶしの原材料や、味方を補助できる武器。ザザンの武器のアップグレード。ジョンの装備一式。
伝え終えると、今度こそ外へと移動してゆく。
「お前は欲しいものはないのか?」
正直、聞いて欲しくなかった。自分の中で決めかねている葛藤があったからだ。
「あるにはありますが、まだ決めかねています」
ルートは意味が分からないという顔を見せた。
しかし、それ以上は何も言わず、「失礼します」とだけ言うと天幕を後にする。
そのままの足でジョンのテントへと向かっていく。
しかし、その足取りは妙に重く、のろかった。それは、彼の思考の何もかもを支配するものがあったからだ。
(ハーフソードか‥‥)
反帝国軍として戦い続ければ確実に魔操志とぶつかることになる。そうなれば、またあの死闘だ。次はあんなにも上手くいくとは思えない。
ハーフソードは嫌になるほど手になじむ。それを考えるとロングソードではなくハーフソードを持っていく方が正しいだろう。しかし、ニッケランにとって、あの忌まわしい記憶は魔操志に匹敵してしまう。
足取りはどんどんと重くなり、とうとう止まってしまった。
騎士たちの足音、鉄と鉄が重なる稽古の音、身分の高い騎士の気取った会話。それがニッケランの周囲で鳴り響いていた。しかし、それをニッケランの脳みそは認識できない。
(切羽詰まれば何とか…)
魔操志の時に握れたのは、父との稽古並に追い詰められたからであった。刃走りとの戦いを思い出しても、握れるかどうかは怪しいものだ。それほどにニッケランにとってあの記憶は重たいものだった。
少しの間、そのことを考え、立ち止まっていた彼だったが、これ以上それを考え続けても意味がないことを悟り、再び目的地へ向かってゆく。
歩いている間は、ジョンに何事も無かった事を喜び、オキタルが戦場に立ってしまったことを悔やんだ。そんな事をしている間に、気が付くとテントの前へと到着していた。
テントからは小さくはない話し声が聞こえる、ロヴァニアはすでに帰った様で、彼女の声は一切聞こえない。
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