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赤き日  作者: 溶接作業
一章

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52/61

容体

 気が付くと、体はすっかり落ち着いたようで、いつもの冷静さが戻っていた。


「よし、戻るか」


 自分には仲間が居るし、生きる目的も手に入れた。これ以上、何を求めるというのか。

 しかし、どうしても父親の事が頭から離れない。そもそも、父は何者だったのかもよく分かっていないのだ。


 もしかすると、無意識にまだ、父のことを追いかけているのかもしれない。騎士になれば分かると。戦が終わり、旅に出れば何かが分かると思っているのかもしれない。


 しかし、それを認めるわけにはいかない。認めてしまえば、まだ父に囚われてしまっていることになってしまう。それだけは嫌だ。


 騎士になる夢、美しい姫を娶る夢。これは現実を誤魔化すための幻想なのかもしれない。しかし、それしかないのだ。誰しもがないかに酔って生きているのだから。


 父について考えることを辞め、とにかくひたすらに天幕に帰ることに集中する。

 足を踏みしめるたびに、乾いた土の音が鳴る。冷えた空気に触れるたびに痛みを感じる肌。ニッケランはひたすらに五感に集中し、生きていることを実感した。


 気が付くと、見慣れた門番二人が見えた。

 門番はこちらに気が付いたようで、小さくお辞儀をする。すると、右側の方が近づいてきた。


「ニッケラン様。先ほどロヴァニア様から伝言を承りました」

「こんな朝早くから?」

「はい」

「で、伝言ってのは?」

「ジョン様が目覚めたそうです」


 その後は早かった。

 話を聞くやいなや寝ている仲間たちを叩き起こし、川に飛びこませるような勢いで顔を洗わせた。顔を洗わせた後、肩に傷を負っていることなど微塵も気にしない勢いでジョンが居るテントへと駆け出す。


 テントはそこまで分厚くない素材で出来ており、中でランタンか何かが光っているのが見える。


「本当にジョンが起きたの?」


 オキタルはまだ寝ぼけているのか、テントに向かう道中、そればかりを何度も確認してくる。


「あの護衛いわくな! もし違っていたら蹴り飛ばす」


 興奮して情緒は不安定になっていた。それを二人も感じ取っているのか、少し顔が引いている。


 テントの近くのやって来た三人は走る速度を緩め、入り口の少し手前で止まった。

 いざ、入ってみようとすると、なぜだか緊張してしまう。


「ニッケランから行けよ」


 ザザンも緊張した様子で肩を押してくる。怪我をしているというのに手加減は無しだ。


「うるせぇなぁ、緊張するんだよ」

「なんで緊張するの!」


 オキタルが大きな声を出した。しかし、顔を見ると強張っている。


「お前こそ緊張してるじゃねぇか!」


 三人は興奮と緊張が混ざった感情に支配され、情緒は大荒れだ。


「なんだ、お前らか。とっとと中に入って来いよ」


 突然、テントの中から声が聞こえた。

 声は聴きたくてたまらなかった声だ。


 ニッケランは二人と一瞬顔を見合わせた後、歩みを進めた。


 入り口の目の前で止まると、一つ息を吸い、手で布をめくり上げた。

 顔をねじ込み、中にいる人物を確認する。


 所々に包帯は巻かれているものの、この前に見た時と比べれば幾分マシだ。

 顔を見ると、少しやつれているものの、まさしく会いたかった人物であった。


「ジョン! やっと目覚めたんだな! 本当に心配…」

「心配した」と言いかけたところで後ろからとてつもない力で押され、テントの中に転がる。

「ジョン! 会いたかったよ!」


 オキタルが思い切り押してきたようだ。


 入り口の隙間からザザンが心配そうにこちらを見ている。

 ジョンは驚いた顔をオキタルに向け、次の瞬間には笑っていた。


「ハハハ! あぁ、ほとんど回復したよ。皆に会えて本当に嬉しいよ」


 ジョンの笑い声が響く。それが本当に嬉しい。


 オキタルは少し涙目になっている。テントの中にいつの間にか入っていたザザンも安心したような表情になっている。

 ニッケランはその光景を嚙みしめた。


(やはり、仲間を手に入れたのは正解だったな)


 信頼における仲間の笑顔。これを見るたびにニッケランはかなり満足していた。

 老兵に言われた生きる目的を持つことを少しは実現できたのではないかと感じる。そう考えて居ると、記憶の片隅に浮かんでくるものがある。


「すまない、こんなタイミングで聞いていいものなのか」


 ジョンは不思議そうな顔を見せた。


「その、匂いの事なんだが」

「匂い?」


 ジョンは首を傾げた。今気が付いたが、匂いはすっかり無くなってしまっている。これでは何のことか

さっぱりわからないのは無理もない。


「その、なんて言えばいいんだろう…おい、ザザン。お前の口からも説明してくれよ」

「え? 何の話だ?」

「え?」


 ザザンはジョンが無事であることに安堵しすぎたのか、一切会話を聞いていなかったようだ。


「ジョンの匂いの事だよ! あの甘ったるい…」

「あぁ~! あれな! あれなんだったんだよ?」


 彼は投げやりのような質問をジョンに飛ばした。ジョンは質問の意味が余計に分からないものになってしまったのか、最早、目が点になってしまっている。


 ニッケランが言う。


「覚えてないのか? お前、将軍の天幕に連れてこられた時に、甘い匂いを発していたんだぞ? それもかなり濃いの」

「そうなのか? いや、あの時はかなり精神的にも体力的にも来ていたからな。正直そこまで気を配ることが出来なくて…」


 ザザンが口を開く。


「そうなのか…何か尋問官に薬を飲まされたとか・・・?」


 尋問官と言う言葉を聞いた途端、ジョンは顔をひきつらせた。


「……あの尋問官かぁ…二度と味わいたくないね。でも薬は盛られなかったな」


 ニッケランはその言葉を聞いて、少し安堵しているが、それ以上に怒りが湧き上がっているのを感じ取った。

 しかし、ここでどれだけ尋問官を罵ろうが意味がないことにも気が付いていた。喉元まで迫ってきている言葉をぐっと堪え、別の質問をジョンへと飛ばす。


「じゃぁ、帝国軍か?」

「帝国…あ!」


 ジョンが突然大きな声を発したことで、他の三人は驚いた。彼がこんなにも大きな声を出すのはあまりないことだからだ。


「そういえば、帝国軍に捕まって檻に入れられた時、意味の分からないお香のようなものを炊かれたなぁ」

「お香? 草とか固めたものか?」


 ニッケランの質問に彼は唸り始めた。少し、考え込んだのちに思い出したように語りだす。


「そんな貴族が使うような上等な物じゃなかったような…変な混ぜ物がされていたのか分からないが、酔った感覚になるような煙だったな」

「なんだよそれ。それじゃ詳しくわからないじゃないか」


 ザザンが難しい顔で言った。

 ジョンはそれに答えようと必死に頭を回しているようだが、詳しくは覚えてなさそうだ。


「まぁ、無事だったんだ。もういいだろう?」


 ニッケランはジョンにこれ以上負担を掛けたくなかった。また、寝込んだ姿は見たくない。


「それで、ここからどうなる予定なんだ?」


 今度はジョンが質問をしてきた。


「えーと、まだ詳しいことは何も。帝国に反抗している集団が居て、それに僕たちも参加するって言うことぐらいかな?」


 オキタルは自信がなさそうだ。それにニッケランが付け加える。


「あれだ。あと、ルート将軍が必要なものは揃えてくれるそうだぞ?」

「そういう流れか。大体わかった」


 そう言うとジョンは何かを考え込み始め、口を開いた。


「実は、帝国に捕まった時に装備品を全部奪われてしまったんだ。それで、新調しなくちゃいかんのだが…」

「将軍に言えば揃えてくれるだろう」


 ザザンがうなずきながら答えた。


「それじゃぁ早速、将軍の所に…」


 突然、ジョンが立ち上がろうと床に手を尽いた。足に力を入れたのか小さく唸り声を出す。

 しかし、次の瞬間、彼は寝具の上に転がってしまった。


「おい、大丈夫か!」


 ニッケランは寝転がっているジョンの顔を覗き込む。

 彼の額は変に汗ばみ、驚いた顔を見せている。


「いやぁ、参ったな。ここまで体がボロボロだったとは…」

「当たり前だ! お前ひどい状態だったんだぞ!」


 ザザンが声を荒げた。彼がジョンをロヴァニアの元へと連れて行ったのだ。そう考えると、この中で一

番彼の状態を知っていると言っても過言ではなかった。


 突然、テントが開いた。


最後までお付き合いいただき感謝いたします。

評価やコメントをいただけると、物語をより良くしていく大きなヒントになります。

ぜひ皆さまの声をお聞かせください!

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