表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
赤き日  作者: 溶接作業
一章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

43/55

忍耐力

 すると、ザザンとオキタルが驚愕した顔をニッケランに見せた。ジョンから発せられる匂いに勘ぐったようだ。


 尋問官は鼻で笑うとニッケランに笑顔を向けた。


「そう思うかね? まぁ、無理もない。この男の惨状を目にしてしまったら、何もかも悪い方向へ想像してしまうだろう……しかし、安心しろ。薬の類は一切使用していない」


 ニッケランの闘争心は再び勢いを失ってゆく。


 尋問官の言葉は信用できないが、それを証明できる証拠などどこにも無かった。


「最早打つ手は何も残されていない。ジョンは無罪として処理する。おい、尋問官。ジョンをロヴァニアの元へ連れていけ」と突然ルートが自分の膝を叩き言った。


 尋問官は一瞬、嫌な顔を見せたが、すぐに素直にうなずくとジョンを縛っている手枷と足枷を解き始めた。


 ニッケランは心底馬鹿にされた気分だった。尋問官に対してはもちろん、ジョンを探すふりをしながら拷問を計画したルートにも腹が立っていた。


 すると、隣のザザンが立ち上がり尋問官を責め立て始めた。


「おい、尋問官。ジョンをロヴァニアの元に連れて行くのだろ? 俺にも同行させろ。貴様は信用ならん」


 尋問官は冷たい笑顔を見せると、うなずいて見せた。


 ザザンは尋問官の様子に睨みつけ、腰を勢いよく椅子に落とした。

 オキタルは絶望した様子でジョンを心配そうに見ている。


「ニッケランよ。私の信頼は地に落ちたかね?」


 ルートが突然話しかけてきたため、ニッケランは拒絶を含んだ目で見た。


「ええ、正直、裏切られた気分ですよ。まさか、ジョンを探す目的が拷問を行うためだとは」


 嫌味を目一杯含んだ言葉に、ルートの従者が反応を示した。


「貴様、その言葉、訂正しろ」


 従者は一人だけ声を荒げたが、他の者たちは表情で訴えかけてきている。


 しかし、それにニッケランは反応を示さず、彼らを無視をする。


 すると、従者は火に油を注いだように、怒涛の勢いでニッケランを責め立てる。


「貴様! ルート様を愚弄したことを訂正せぬのならこの場で…」


 まさに一触即発。いつ乱闘が始まってもおかしくない空気で天幕の中は満たされていた。

 しかし、従者が言葉を並べている途中で、ルートが話を遮った。


「ニッケランたちよ、落ち着いて聞いてほしい。確かに、ジョンを尋問…いや、拷問するように命じたのは私だ。正直言って、この私もお前たちの立場であれば同じことを思い、声を荒げていただろう」


 ルートの声は暗く、何かを悟ったような落ち着いた口調だった。


「しかし、私は王国の騎士であり、国王に魂を捧げているのだ。いざとなれば、家族だろうと拷問し、情

報を引き出すだろう…。ニッケランよ。こんな私の言うことなど聞く耳を持たないかもしれない。しかし、頼む! 王国を救ってくれ!」


 またも、彼は額を机にぶつけ、懇願してきた。


 その姿は、ニッケランたちを陥れることが目的には一切見えなかった。 


 正直、答えに困ってしまう。彼をこんな姿にした男の言うことなど聞きたくなかった。しかし、不思議と脳内にジョンの言葉が響き、迷いが生じてしまう。


(王国を救うために戦うか…)


 今回の戦でジョンは王国を救うために奮闘した結果、拷問されてしまった。ならば、王国を助けるか否かを決めるのは自分ではないだろう。


 ニッケランはそう考えつき、ジョンに判断を仰ぐ。


「ジョン、大変な時にすまないな。俺は正直、王国のために戦いたくないと思っている。しかし、これはジョンに対してひどい仕打ちをされたというエゴから来る感情だ。やっぱり俺はジョンに判断してもらいたいと思ってるんだ。できるか?」


 その言葉に静かにうなずいた彼は、考え込むように目を閉じた。


 ジョンの様子にギョッとした。まさか、息絶えたのではないかと疑ったからだ。

 しかし、心配とは裏腹に彼は目をすぐ開け、小さい声で囁いた。


「…戦う」


 ニッケランはため息をつくと、ルートを睨みつけ話始めた。


「ジョンに感謝しろ。そして帝国とキリがついたら一発殴らせろ」


 ニッケランの言葉は従者たちの逆鱗に触れたのか、殺気を纏った目で見つめてきた。


 それとは対照的にルートは安心したような顔になり、ニッケランたちとジョンに頭を下げた。


 そして、頭を上げると話始めた。


「ジョンよ。こんな仕打ちをした私を許せとは言わない。しかし、王国の民を代表して感謝を伝えることを許してほしい。」


 再度、深々と頭を下げたルートをジョンは薄目で見つめ、少し微笑んだ。


 その様子にニッケランは内心呆れていた。


(ジョンは優秀で頼れる奴だ。だが、人が良すぎるぜ…)


 このままなんでも受け入れて、自分でなにもかもを背負っていく生き方を続けたら、ジョンは確実に壊れてしまう。それを許せるほど、ニッケランは寛大ではなかった。


「おい、ジョン。お人好しなのは良いが、それは今回限りにしてくれよ? もう自己犠牲とか考えるな」


 その言葉に何かがおかしかったのか、力なくジョンは笑い、口を開いた。


「……常に俺は自分自身のために行動しているさ」

「――どこがだよ」


 その言葉にオキタルが静かに呟いた。


 彼の言葉は明らかに矛盾していた。どこにも自分のために行動している所などないではないか。


 ニッケランは憐れみの目を向け、静かに目を閉じた。


 やはり、神を信じることは出来ないがジョンのためなら祈ってもいい気がした。


(もし、神ってのが居るとしたら、ジョンには最大限の祝福を与えてやってくれ)


 ニッケランは自己流で祈りを捧げたのち、尋問官に早くロヴァニアの元へジョンを連れて行くように促した。


 それに慌てたように立ち上がったザザンがジョンの肩を支えながら天幕の外へと歩いていく。しかし、その目線の先には尋問官がおり、何かするつもりなら攻撃する意思が見え隠れしていた。


 それに尋問官は不適な笑みを浮かべると、ザザンたちの前に立ち、道案内をしていくようだった。

 彼らが出ていくと、天幕の中は静まり返り、血とお香が混ざったような匂いが立ち込め、空気を濁らせていた。


 すると、ルートがニッケランに対して口を開いた。


「すまないな、昨日の今日でこんなにも大変な思いをさせて…」


 ニッケランの内心はすっかり冷え込み、ルートの労いも偽りのものとしか感じられなかった。


 しかし、反応しないわけにもいかず、適当にうなずき反応を示した。


 ルートは苦笑いをみせる。


「では、今日はお開きにしよう。ニッケランたちが潜入するのは少し先になるだろうから、それまでに用

意したいものがあれば、我々に言うがよい」


 そう言うとルートは立ち上がり、天幕の外へと逃げるように動いた。

 逃げられる前にニッケランは、気になる事を質問する。


「待ってください。 なぜ、ジョンはあんな甘い匂いを発していたのですか? やはり、拷問の際に薬を使用したのでは?」


 その言葉に、ルートは困った顔を見せた。


「すまないが、尋問官は本当に使用していないと私は考えている。なぜなら、奴は薬でごまかすような方法で敵を尋問するは好かないのでな」


 そう言うとルートと従者たちは外へと出ていった。


 ニッケランは何か後味の悪さを感じ、誰かに怒りをぶつけたくなった。


 しかし、この場にはオキタルしかおらず、どうにか感情を抑え込み、静かに椅子にもたれかかった。


 一気に緊張感が抜け、椅子に全体重が乗っかる。脳裏に椅子を汚してしまう未来が映ったが、仮に汚してしまったとしてもルートたちへの軽い嫌がらせになるかもしれないと期待し、そのまま体勢を維持する。


「これからどうなるの?」


 オキタルが静かに聞いてきた。


 ニッケランは脱力しきった状態で、静かに唸り始めた。

 これからの事を色々と予想し、何を話そうか考えたが確証がなく、口を開けては閉じてを繰り返してしまう。


 しかし、一つだけ確証していることがあった。


「少なくとも…帝国に潜入して魔操志と戦うことは確定しているな…」


 自分で説明して自分でげんなりした。また、あの死闘が待っていると思うと騎士になる夢が途絶えたように感じる。


 しかし、反帝国軍に力を貸すことを決めたのはジョンなのだ。そのジョンについていくと決めたからには覚悟を決めなくてはならない。


 ニッケランは頬を叩き、気合を入れた。同時に、魔操志との戦闘を思い出し、魔操志の弱点がないか思

慮をめぐらす。

 すると、オキタルが質問をしてきた。


「ジョンのあの匂い、なんだったんだろ?」

「さぁな…尋問官が何かをしたとしか思えないんだがな…」


 オキタルは何かを熟考し始めた。


 その様子を横目に、ニッケランは再度、魔操志との戦いを再現する。


 対峙し、戦い、決着がつくまでの流れに疑問点がないかを探し続ける。すると、魔法を打たれた時の記憶に引っかかりを覚えた。


 (なぜ俺が触れたら魔法が消えたんだ?)


 ニッケランは打たれた肩を触りながら考え込んだ。


 何か、法則性がある現象のように感じた。たまたま、消えたとは思えない。

 足は考え込むほどに落ち着きが無くなり、天幕の中に等間隔のリズムを響かせている。


「聞きに行くしかない!」


 ニッケランはいきなり席を立ち、叫んだ。オキタルは意表を突かれたようで、ニッケランを注視し固まっている。


 少しの間をおいて、オキタルの口が開いた。


「誰になにを?」

「反帝国軍のミャアドに魔操志についてだ」


 オキタルは少し考えるような素振りを見せた後、「ついていく」と言ってきた。


 それにニッケランは了承し、天幕の外へと向かっていく。


珍しく長文ですね。(キリが悪いからだ!)



最後までお付き合いいただき感謝いたします。

評価やコメントをいただけると、物語をより良くしていく大きなヒントになります。

ぜひ皆さまの声をお聞かせください!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ