そこそこ頭が良くて怠け者の宰相の息子が悪役令嬢を助ける話
おかしな時代になったものだ。国中が真実の愛に熱狂し。陛下も統制出来なくなった。
「アルフレート・ブッカー、真実の愛を邪魔し。あまつさえ反真実の愛にして殿下の元婚約者アルテシア・フォーゲンを逃がした罪により処刑とする」
今、俺は首を斬られるところだ。
つい最近まで真実の愛委員会のメンバーだったのだ。
俺は宰相の息子、殿下の側近候補だったのさ。
妙なことになったのは男爵令嬢のマリー・ストーンが学園に現れてからだ。
身分制度で窮屈だ。結婚相手もすでに決まっている。
がんじがらめの縛られた身分制度のオアシス、学園でつかの間の自由を満喫していたのだ。
まあ、最初はごっこ遊びだ。
しかし、マリーがある日、指を持って来た。自分の指だ。
『ああ、殿下、これが私の愛の証です。学園を卒業したらアルテシア様と幸せになってくださいませ』
『おい、マリー!どうした。サムリー、回復魔法を頼む!』
『はい、殿下!』
マリーは決してアルテシア様の悪口を言わなかったが、身分制度を批判した。
『愛があるのに身分で縛られるのはおかしい・・ですわ』
それが、身分制度打破の革命騒ぎにつながった。ついには学園を中心に真実の愛委員会を設置して、ごっこ遊びが本気になった。
下級貴族、上級市民対高位貴族の争いになった。
笑っちゃうだろ。貴族の総本山である殿下が身分制度はおかしいというのだから。
で、俺が何をしたのだって?
宰相の息子だ。
学園の高位貴族の子弟を捕らえて、反真実の愛派閥の裁判を行った。
頑張ったさ。
『アルテシアの取り巻きマルガリッタよ。アルテシアを慰め、婚約という因習に固執した罪、まことに許しがたい!証拠は証言により明白である!
よって、屋敷に謹慎三か月だ!』
『・・・えっ?』
口汚く罵って罪は軽くする。
三か月もすると嵐は収まると思ったからさ。
逆に密告する者に対しては罪を着せた。
『告発します。ブッカー殿、アルテシアのメイド、フラワはとらわれたアルテシアを助けようと奔走しています。平民身分のくせに反真実の愛分子です!』
『「助けようと奔走しています」と言ったな。ということは現場を見たのか?』
『はい、母の名に誓って目撃しました』
『なら、何故、止めなかった?よって、貴殿は労役場送りだ。フラワは下町の実家に戻り家業を手伝え。よって矯正とする!』
『そ、そんな馬鹿な』
ああ、アルテシア様には国外追放の判決を出した。
アルテシア様が出立するときに、殿下は耳打ちした。
『国境前で女狐を殺せ。いいな?』
『女狐とは?狩でございますか?』
『卿は成績が良いが鈍いな。目の前にいる女だ』
『ああ、なるほど、女狐とは比喩でございましたか?』
俺は剣を抜き。
『え、キャアーーーーー!』
殿下の隣のマリーを斬った。
そのどさくさにアルテシア様は逃げてくれた。
・・・・・・・・・・・・・・
こうして、俺は騎士団長の息子、マックスに斬られることになった。
「フフフ、アハハハハ、みん~な狂っている。だから俺も狂ったのさ!」
「残念だよ。アルフレート、もう、取り返しのつかない。斬るぞ」
「おお、斬れ!」
しかし、いくらたっても景色が変わらない。処刑台の地面が目の前にあるだけだ。
「ウ、ウグ」
見上げると、マックスの胸を矢が貫いている。
「公爵軍だ!」
「どうして、王都の見張りはどうした!」
どうやら見張りを任せた市民は素人、公爵軍の投石で簡単に逃げ出したらしい・・・
俺は命を長らえた。
公爵閣下からアルテシア様の近況を聞いた。
「ブッカー卿、アルテシアは無事に隣国の王家に保護をされた。礼を言う」
「公爵閣下、それは違うかもしれません。隣国が絡むことになります。また、戦乱が起きるかもしれません。俺は楽な道を選んだのです」
「それは読み違いですわ」
「アルテシア様・・・」
アルテシア様が来られていた。隣にメイドのフラワがいた。
二人とも熱い目で俺を見ているような気がする。
「隣国の王家からの婚約の打診断りましたわ」
「何故?」
「ブッカー卿、私を逃がすのと公爵軍が来る時間を計算されておりませんでしたか?」
そうだ。もしかして、俺は助かるかもとの打算があった。
そういえば、今日は、真実の愛委員会が出来てから三か月目だ。
「助かったら、何をする気でしたか?」
「はい、辺境に家と土地をもらってのんびり過ごそうと・・・」
「させませんわ」
「うむ、褒美にアルテシアをやる。この乱を収めて見せよ」
「無理です」
「頼んだぞ」
話聞いている?
かくして、俺は小知恵を働かせて乱を鎮圧することになった。
少しも面倒なことを避けることができないでいる。




