祠破壊のその後で。
短編のかくして祠は破壊された。の後日談。
王太子は廃嫡され、精神錯乱を理由に幽閉された。
「人間だから、と甘やかし過ぎた。よもや愛しき妻を傷付けた人間の国の王子と同じ、愚かな真似をするとは...」
謝っても許されない事だ、と陛下はカトリーヌを含める令嬢達に頭を下げた。
「陛下、そちらの魂は?」
「―――これは我が息子、セリムの魂だ」
妖霊熱で倒れた元王太子がセリーヌの治療により快復した折り、国王の寝所に現れた魂。紛れもなく息子の魂。しかし、病弱だった事が嘘の様に元気に城を駆け回っている息子の姿。
「疑問に感じ、魂喰いに確認させた」
妖霊熱に侵された人間の魂が肉体から離れてしまう事は知っていた。そして、その後遺症で肉体が別の人間の魂に奪われてしまう事がある事も。
息子の身体に入っていた魂は、ニホン生まれの四十路の男の魂だった。名前を、「イトウ マコト」と言う。
「後遺症の快復手段として入り込んだ魂の欲を満たす、と言うものがある。だが、同年代の子供の魂ならばともかく、成人した人間の魂相手だ。
こちらとしても、どうすべきか悩み、妻が最愛の息子が肉体を奪われて魂だけになっている真実を伝えるべきか熟考しているうちに、今日を迎えてしまった」
最早、元の肉体に戻すよりも、新しい肉体を造り魂を定着させる方が早い、と国王は判断した。
「それを、せめて我がドヌーヴ公爵家に伝えるべきだったのでは?我が娘、カトリーヌの受けた傷を、どう責任を取られるおつもりです」
カトリーヌの父、ドヌーヴ公爵は憤慨を表には出さずに静かに伝えた。
「我が息子可愛さに後回しにし過ぎたな。面目ない」
怒りの余り、災厄を招くとされる赤に変質していたカトリーヌの瞳の色は、今は穏やかな黒に戻っている。
「セリム様の肉体はいつ頃完成しますの?」
「カトリーヌ?」
カトリーヌは、肉体の不自由に縛られずに国内で見聞を広めていたセリムの魂に幾度か出会い、魂喰いを通じて会話し、交流を深めていた。
「アレはともかく、セリム様は博識で、魂のみのお姿で直接関わる事は出来ずとも、国民の為に行動をする事が出来る御方。
わたし、幼い頃からセリム様を慕っておりますわ」
諸悪の根源は、セリムの肉体に入り込み好き放題したマコトでありこの国そのものは嫌いでは無い。
「セリム様と共に、この国をより豊かにする為でしたら。わたしは座敷童子として、王家の為、国民の為に尽力しますわ」
「人造人間の肉体を用意してはいるが、魂が身体に馴染むのは20年はかかる試算だが、それで良いか?」
「あら、20年で済むのなら寧ろ早い方ですわ」
恋する座敷童子はそう言って微笑み、宣言通り20年後にセリムと結婚し、新時代の国王夫妻として亜人の国を今まで以上に発展させるのだった。
亜人達は平均寿命500~800歳前後なので、20年などあっという間です。