ミア
鳥人の自慢は船乗りを誘うと呼ばれる歌声と空を羽ばたく両翼。捕らえた獲物をガッシリと掴んで逃がさない、猛禽類に似た脚だ。
はじめて出会った時に王太子様はまるで他国の普通の人間の様に、「セイレーンと言えば人魚ではないのか?」と聞いて来た。
「自分の婚約者の種族の性質も覚えていない、だなんて、何の冗談かと噂話を聞き流していたけど」
先日、珍しくカトリーヌ公爵令嬢とデートしている様子を見た時に、「そんな辛気臭いドレス等辞めて、流行りのドレスを着たらどうか?」なんて勧めているのを見たら、「あの王太子が未来の国王で大丈夫なのか?」と不安になった。
ドヌーヴ公爵家の人々が王命で黒い衣装を身に纏っている事なんて、下町生まれ下町育ちのアタシでも知っている事なのに。
この国の王位継承権は女子にもあるんだから、王太子様の従姉にあたる宮廷魔術師のセリーヌが女王に即位した方が良いのではないか、と国中の話題になっている。
王太子様が妖霊熱で倒れた時に右眼を喪っているから、即位の際に求められる「五体満足の健康体」の条件からは外れてしまうけれど、自国の国民の種族を御伽噺で語られる程度の知識しか持たない人間が国王に即位するよりはずっといい。
「ミア、少し休みなさい。今の貴女の歌は、お客様を不安にするわ」
酒場のママに言われて、観衆の雰囲気がドンヨリと重苦しいモノになっているのに気付いた。
いけないいけない、歌姫が私情を歌声に乗せるだなんてあってはいけない。
酒場からお暇して2階の、自分の部屋に入って寝台に倒れ込む。ふかふかで気持ちいい。アタシお手製の寝台にはキラキラしたガラスや珍しい色の糸、むかしママに連れられて足を運んだ遊園地のキーホルダーなんかが転がっている。
「片付けられないのか?」
鳥人は鳥とおなじ習性があるのだと、何度説明しても王太子様は聞いていなかったっけな…
王太子「なかなか好感度上がらないな...」
地雷源をタップダンスで踏み抜いている様なものだからです。