セリーヌ
「負けヒロインだからと、諦めなくても良い」
王太子であり、従弟であるマコトはそんな風に言っていた。
いや、負けヒロインとは何だ?
気になって、物語に詳しい筆頭聖女のマルタに聞きに行った事が懐かしい。
「はぁ、そうですね...。恋愛小説等で序盤から登場していて、読者と言う第三者目線から見ると明らかに主人公の殿方に好意を寄せていて、ですが、メインヒロインと主人公の相思相愛の様を見て身を引く...、そんな立ち位置でしょうか」
「それ、私に当てはまると思う?」
いえ全く、とマルタは言った。
御伽噺の蛇女房は柔和で穏やかに描かれているが、そもそも、蛇は「蛇を殺せば数代祟る」と呼ばれる程に執念深い生き物でありその性質は蛇系統の妖怪全般に当てはまる。
マコトは母親の血を色濃く継いだのか、悪魔である父親には全く似ていない。
おじ様から、「人間は少しの怪我や病気で直ぐに儚くなる生き物だから」と言われていたから、あの子が妖霊熱で昏睡状態になった時に私は躊躇う事無く癒しの力を持つ目玉を抉り出してそれを口にさせたのだけど、それ以降、「隠しヒロインのセリーヌたんキター!!」と良く分からない事を口にしたりするので、人間に妖力の籠った食べ物を与えるべきでは無かったのかもしれない。
「セリーヌ様、先日の顔合わせにおいて、王太子殿下がカトリーヌ公爵令嬢に『黒いドレスは喪服みたいだ』と仰ったそうです」
いくら人間とはいえ、婚約者となるカトリーヌ公爵令嬢の家系の特性を理解していないのは、王族として有るまじき行為よ...。ドヌーヴ公爵家が国を出たらどうなると。
おば様は冤罪で人間の国を国外追放された後におじ様と出会って亜人の国にいらした頃から、この国の妖精や妖怪についてすべて頭に入れたと言うのに。
内紛が起こったらどうするつもりなのかしら、マコトは。
セリーヌ
王兄の娘。父親は身体が弱く、国王としての責務を果たせない事から臣籍降下し静養地で療養していたところ、セリーヌの母の蛇女房の癒しの力で快癒。
父親はセリーヌの母との生活を維持する為王族に戻るつもりは無く片田舎の山奥で愛する妻と
スローライフをしている。