カトリーヌ
はじめて婚約者である王太子殿下にお会いしたのは互いに10歳の時。
所謂妖怪や妖精の血を引く亜人の国には珍しい、他国から嫁いで来た王妃様とおなじ人間の王太子殿下は頭ひとつ小さいわたしを見てため息をついていた。
そして、「他にドレスは無いのか?」と言った。
まさか、王族で、同い年の王太子殿下が座敷童子について知識が無いとは思わず「どういう意味でしょうか?」わたしは聞いた。
「黒い服なんて、喪服みたいじゃないか」
王太子殿下は呆れた様にそう言った。
付き添いに来て居られた王妃様がさ、と顔を青くして「顔合わせまでに、婚約する相手の種族の特性を把握する様に伝えた筈ですよ」と窘めていた。
座敷童子は、いるだけで繁栄を約束する。
身に纏う衣装で与える幸福に違いがあり、国に従事する座敷童子は全方面の幸福をカバーする黒の衣装を着用する事が王命により義務付けられている。
わたしの友人達は、わたしが黒いドレスを好き好んで着用している訳ではない事も、王命である事も知っているし、「いつも国の為に尽力してくれてありがとう」と言ってくれたりしていたので、まさか、王族である王太子殿下からそんな風に口にされるとは思わなかった。
もしかしたら、この時から、わたしは王太子殿下に対して何の期待も抱いていなかったのかもしれない。
だから、彼がわたしと言う婚約者のある身で浮き名を流している事を王家の影から報告されても、「正式な婚姻を結ぶ前に関係を清算するのであれば問題ない」と黙認していた。
「...さすがに、8股をしておいて。その全員に『真実の愛を見付けた』と宣って手を切る、だなんて...」
さてどうしたものか、と考えたわたしは、屋敷に呼び出した全員が納得する王太子殿下への復讐の為に
『絶対に着用してはならない』
と両親から固く言い聞かせられてきた真っ赤なドレスを見るのだった。
王太子殿下
自分がプレイしていたギャルゲーの世界に転生したと思っている阿呆。