【8】
「ーごちそうさまでした」
そう言い、店を出る。冷たい空気にヒヤリとして、襟元をおさえる。日中よりもかなり気温が落ちていた。
「後、もう1軒行こうかなあ」
家に帰っても1人だし、時間もまだ余裕があった。腹減り具合もまだ足りない気がする。
「何しよう?」
立ち止まり、顎に手をあてる。ラーメン、お茶漬けなどの料理が浮かぶ。
「甘いものも美味しそうよね」
千代のパフェを思い出し、ごくりと唾を飲み込む。ここはオシャレなお店に入るか、それとも気楽に入れるお店に悩みどころだった。
「…悩むなら」
ヒールから足を浮かせて、放り投げる。運試しだった。横たわったらオシャレなお店、まっすぐなら居酒屋をもう1軒まわるつもりだった。
「ー結果は…」
足を片方浮かせながら、ヒールを見る。それは横たわっていた。
「オシャレなお店か。この近くだと…」
頭に浮かんだお店を想像する。スイーツの専門店だった。今の時間帯なら混み合うこともないだろう。
「パンケーキ、食べたい」
ヒールを履き直すと「よし」と拳を作る。目的が決まったなら、行動は早かった。カツカツとヒールを鳴らしながら、歩いていく。今日は月夜が明るいので1人でも平気だった。