【3】
「はい、マルゲリータ」
ぶっきらぼうに言って、ピザを出してきた。あかりは少しカチンときて言い返す。
「せっかく来たのに、何よ、その態度は」
「まだ開店時間になってないんだよ」
あかりの幼馴染の久保広人は腕時計を見せてくる。
「うちは昼から営業しているんだよ」
「いいじゃない、少し融通をきかせても」
「ワガママなやつ」
広人はお盆を胸にあてると、ため息をついた。黙っていればカッコイイのに、口が悪いのがたまに傷だった。
「はい、ジンジャーエールとパフェ」
とりなすように、広人の奥さんの久保千代がやってきて差し出してきた。ジンジャーエールは手作りで、パフェも美味しそうだった。
「甘やかすな。太る」
「失礼な。太ってなんかいませんよ」
あっかんべーをすると、広人は目を細めてくる。
「早く彼氏でも作って、結婚しろ」
「大きなお世話よ!! 本当に性格が悪いんだから」
「誰が?」
「あんたに決まってるでしょ」
そう言うとあかりはピザに手をつけた。チーズが濃厚で、生地もパリッとしていて美味しかった。
「焦らないほうがいいわよ。ゆっくり探せば」
千代が仲をとりなおそうと声をかけてくれた。目鼻立ちがくっきりとした美人だった。とても同じ30代には見えない。
「いいんだよ、こいつには何を言っても良いんだ」
「大切なお客さんじゃない」
「そうよ。私はお客さんなんだけど」
「へいへい、そうですか」
適当に流すと、広人はカウンターの奥に消えた。開店準備で忙しいのかもしれない。
「ごめんなさい、早く来て」
千代には素直に謝ると、彼女は柔らかく微笑んだ。
「いいのよ。美味しい、美味しいって食べてくれるから」
「だって、本当のことだもの」
ジンジャーエールを飲んだ後、素直に言った。千代は嬉しそうに笑う。
「パフェ新作だから、後で感想を聞かせてね」
「そうなの!! 嬉しい。私で良ければ何でも言うからね」
スプーンを持ち、パフェに手を伸ばす。栗の季節だからか、モンブラン仕様に見える。
「美味しい。栗の甘さがちょうどよくて、ケーキを食べているみたい」
「そう? なら良かった」
千代は胸を撫で下ろすと、あかりに言ってくる。
「開店準備があるから、ごめんね」
「…いいわよ。私が早く来すぎたんだから」
「じゃあ、後で」
千代は一礼すると、カウンターの奥に引っ込んだ。1人になったあかりは少し淋しくなったが、マルゲリータを口に運ぶ。ここのカフェは美味しいと評判で、行列も出来ることもあるらしい。
「幼馴染の特権よね」
手についたトマトソースを拭い、ジンジャーエールを飲む。本当はアルコールを飲みたかったが、時間帯を気にして止めた。
「そうだ。帰りにビールを買って帰らないと」
ここには車で来たので、ケース買いするつもりだった。
「確かに男手が必要かも」
ケース買いは安いが、重いのが難点だった。
「あー、満足。今日はいい日だ」
そう言うと、1人で料理をたいらげるのだった。