四分の二
「実は最近、うちの人手が急に余り出してるんですよ」
何となくそんな気はしてたが、改めてハーマンの口から聞かされてヴィクトールは耳が痛い。
「ですが、どの村も人手不足は相変わらずだと言うんです……」
「ん? じゃ、減ってるのは俺達の食い扶持だけなのか?」
「気になって少し調べてみたんですが……ちょっと面倒な連中が絡んでるようで」
「何だ、その話。初耳だぞ!」
「確証が無かったので報告には上げてません。でも、この件でハッキリしました」
「……シュバイツ男爵家?」
ハーマンが告げた――シュバイツ男爵家と言うのは、この辺り一帯を納めている領主一族のこと……。
と言っても、ヴィクトールの知っている情報はそこまで。言葉を交わしたことは愚か、遠目に姿を見たこともない。狙われる理由が判らない。
「貴族連中が、どうして俺らにチョッカイ掛けてくるんだ?」
「どうやら、火種を抱えてるようですね。最近になって、後継者争いの噂が派手に出回ってるようで……」
「はぁ……馬鹿どもってことか!」
ヴィクトールが憤るのも無理はなかった。
敗戦後のグランドール帝国に発足した政権は、三国同盟軍による傀儡。
誰の目からも明らかな、その傀儡が掲げた戦後処理の第一弾は支配者層の弱体化だった。貴族に対する転封や減封、いわゆる領土の移転削減を進める口実として、積極的な当主交代を促したのだ。
これが後継者争い(内紛)を誘発させる為の計略なのは、メセナですら判る。
ただでさえ領土の三割が焼失して食糧難の、この時期に跡目争いを始める統治者など居ない方がマシだ。