五分の四
「こっちです、団長!」
村外れに辿り着く頃には雨足が急に弱まり出した。蹄の音を聞きつけたオットーの出迎えが無ければ、うっかり通り過ぎるところだった。
「ハーマンは?」
「直ぐ近くの納屋に」
「メセナは? 無事か?」
「まぁ、生きちゃいます……」
「案内しろ」
納屋の明かりに照らされた、ヴィクトールの姿を見て全員が言葉を失った。
全身から真っ白い湯気が煙のように立ち昇っている。
それは、戦場で敵が目にし、恐れ慄いた『鬼神』そのものだった。
「何があった?」
ヴィクトールがハーマンに尋ねた。
「民家で女を襲っていたそうです」
「一人でか?」
「はい。目撃者の証言ではそのように」
「殺しは?」
「それは未だ……」
「そうだよな! 『未だ』だよな! で、ことが済んだら全員殺すんだろ?」
ヴィクトールがメセナに詰め寄る。
見違えるように腫れ上がった顔をグッと引き寄せても、メセナは目を合わすことを拒んだ。
「よし、朝になったら俺が殺る」
「そ、それだけは勘弁してくれ」
「巫山戯るな! 命乞いして許されるとでも思っているのか?」
「そうじゃねぇよ! 俺はアンタだけには殺されたくねぇんだ! 他のヤツにしてくれ!」
展開が予想の裏目に出てしまった!
(こっちは助けに来てやってるのに、お前が覚悟を決めてどうする!)
だが、言い出した以上はヴィクトールも簡単に引けない!
「誰が殺ったって同じだろうが!」
「そうさ、アンタ以外なら誰だって同じさ! だから団長以外にしてくれ!」
「ダメだ! もう決めたことだ! 今更、変えられん」
(馬鹿かコイツ! 命乞いしろ、本気で殺されるぞ!)
「それはダメです! 変えて下さい」
ここにきて、何故かハーマンがメセナに同調する。