五分の二
精鋭揃いだった傭兵団も、十三名が戦死。二十二名が再起不能の手傷を負い、団を離れた。それから今日まで、地方を転々とする間に十名が点在する村に残る決断をした。
現在、団員は三十二名。その食い扶持を探すのにも苦労が絶えない。
(勝手しやがって、メセナの野郎)
本来、素行の悪い連中が黙って範に従ってきたのは、偏に団長の人柄に依る。
他国から『鬼神』と恐れられた畏怖の存在――ヴィクトール・ノックス。
然して、その印象は戦場を離れた途端にガラリと変わる。
温厚で人当たりと面倒見が良く、何より兄貴風を吹かさない……。
酒を飲めば、あっという間に朝が来る。そのまま馬の早駆けに出掛ければ道中で魔物と出会し、死にそうになりながらも皆で討伐。そして、その話を肴に再び宴会が始まる……。
(兎に角、この人と居れば毎日があっという間に過ぎる!)
近くに身を置く程に知る、居心地の良さ……。
だが、それで済んだのも過去の話だ。
最近では、副団長のハーマンが注意深く目を行き届かせて、団員の足並みを揃えさせている。
「団長と違って、副団長は容赦がない!」
それは全団員の共通するところで、ハーマンに依る恐怖支配の側面は否めない。
実際、団長が野放図にやって来れたのも、副団長の支えあっての話。
「団長のためなら、どんな役回りだって、あの人はやってのける……」
そう言う意味で、副団長は恐ろしいのだ。
ロイドの心配は、ヴィクトールにも充分過ぎるほど伝わっている。
だから、腰の物ひとつ、ぶら下げるだけで部屋を出た。