五分の三
「では、私から……」
ハーマンによると、シュバイツ家の家督は先代の遺言で、次男のコーネリアスに譲られる予定だった。
それに異議を唱えた長男のライオネスが傀儡政権と通じて、簒奪を目論んでいるという構図。
「俺が仕入れた情報も同じだ」
ヴィクトールとの間で裏付けが取れた。
順当なら、その時点でライオネスが当主に就くものと思われた。ところが、彼の資質に疑念を抱いた臣下が相次いで造反。コーネリアスに下ったことで、お家騒動が表面化した。
「現在の状況は、六対四で次男がやや優勢のようですが……」
「どっちの陣営も固まり切ってない。今暫くは、手綱の取り合いが続くだろう」
団長が締めて、一先ずハーマンの報告が済んだ。
「その資質って何が問題なんです?」
オットーは素朴に感じたままを尋ねたのだが、それを耳にしたキグナスの表情が曇る。
「お前、冗談だろ? 忘れたって言うのか、ロンダルを堕とした『鮮血卿』のことを……」
キグナスの言葉で、オットーの顔が真っ青に変わった。
「えっ、『ロンダル平原の大敗』……じゃ、ライオネスってのが『鮮血卿』?」
「そうさ、あんな馬鹿な戦闘を指揮するヤツが領主なんて絶対無理さ!」
「二人とも出張ってたのか? ロンダル平原……噂じゃ、相当酷い戦いだったって聞くぜ」
顔の腫れもすっかり引いたメセナが同情するように尋ねた。
「数に物言わせて力任せに押すだけ、挟撃や伏兵のことなんか無視して敵将の首級しか狙わないんだ」
オットーは感情を殺して語った。
「戦況が不利な敵に近接で殲滅戦なんて仕掛けるか? 向こうが必死で抵抗するに決まってるだろ! 素人の指揮なんて話じゃない。敵も味方も関係無く、人が死ぬとこ見たいだけなんだ!」
反対に、キグナスは感情を剥き出して語る。
忌まわしい記憶の受け止め方は二人の間で、それぞれ両極端に分かれた。