五分の一
「団長、メセナの野郎が暴走した!」
浅い眠りのヴィクトールを、ロイドの濁声が引き戻した。
「隣村で略奪まがいの事して捕まったって連絡が……」
(何?)
「それを聞いて、副団長がすっ飛んで行きました」
濁声に告げられた状況が……。
(最悪だ!)
「このままじゃ、アイツ殺されますぜ!」
(クソッタレ!)
血の結束と謳われた『ノックス傭兵団』も、今や風前の灯だ。
一年半前の敗戦以来、傭兵稼業は開店休業状態。
行き当たりバッタリで地方の村々を転々としながら、復興作業を手伝ったりして食い繋いできたが……、最近では人手も余り出している。
「このままじゃ、野盗にでも堕ちるしかねぇぜ!」
ひと月前まで笑い話で済ませてたことが、現実に起こった!
「場所は何処だ?」
ベッドからヴィクトールが上半身を引き摺り出して靴を探す。
「ホギ村です」
「直ぐ支度する! 馬を用意して下で待機してくれ」
「了解!」
(全く、悪い夢でも見てるようだ)
悪い夢……確かに一年半前の同盟軍による大侵攻は、帝国臣民の間で『感謝祭の悪夢』と呼ばれ、忌み嫌われている。帝都グラノーラは陥落、この戦いで帝国全土の、実に三割近くが焦土と化した――忌まわしの記憶。
常勝無敗で他国を震撼せしめた大グランドール帝国の一強時代は、この日終焉を迎えた。