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"女神様がお怒りだ"と音痴を理由に聖女をクビになりました

作者: 水瀬月/月


「リ、リリティア……? こんなところでいったい何をしているのです?」


 私の姿に戸惑いを見せる金髪碧眼の男性と視線が合う。

 この国の聖騎士団長であるルシアン・クロイゼン公爵だ。

 

 ルシアンの整った顔立ちが、困惑の表情で歪んでしまい申し訳なくなる。


 そして私も今、非常に戸惑っている。


 なぜなら私が今いるところはルシアンが守らねばならない皇宮の壁――、その壁をよじ登ろうとしているところだからだ。


 そして私の頭の上には可愛らしい猫が一匹乗っかっている。

 ちなみに名前はハル。ハル、と呼び捨てにしたところ爪を立てて怒られたので"ハルちゃん"と呼んでいる。


 普通に考えて侵入者、不審者にしか見えない状況だ。


 私は気まずくなりルシアンから視線をそっと逸らした。


「あ、その……これには深い事情がありまして」


「深い事情……」


 ルシアンはそう小さく呟いた。

 少しの沈黙。


 あまりの恥ずかしい格好に、なぜこんなことをしたんだろうと急に冷静になってしまう。


「うぅ、すみません。えっと、降りるのをちょっと手伝っていただけないでしょうか……」


 一人で降りられなくなった私にルシアンはクスッと笑った。


「さぁ、こちらへ」


 そう言いながらルシアンはひょいっと簡単に私を持ち上げて地面へと下ろした。私の上に乗っていたハルは、猫だからか簡単に地面へと跳んで下りていた。


「あ、ありがとうございました。それとお見苦しいところを……」


「いえいえ、大丈夫ですよ。相変わらず可愛らしいお姿で。それでリリティア、お変わりないですか? ハル様もお元気なようで」


 ルシアンは初めて会った時からハルのことハル様と呼んでいる。もしかしてハルのことで何か気付いたのかな? と思ったけれど、特にそういった素振りは今のところない。


 ハルが"にゃぁ〜ん"と少し面倒くさそうにルシアンに返事をしている。あまり仲が良くないのかな……?


「ははっ、ハル様は私の言っていることがわかっているんじゃないかと思う時がありますね」


 その言葉に心臓の鼓動が早まり、少しの焦りが出てしまう。


「いやいや、そんなまさか〜。ははは……」


「ははは、そうですよね。ところでリリティア、深い事情とは何かあったのですか? それにもうすぐ聖女たちの祈りが始まってしまいますが、こんなところにいていいのですか?」


「あぁ、その、実は……私……聖女の職をクビになりまして……」


 私が気まずそうにポツリと呟くと、その言葉にルシアンは"は?"と眉を寄せた。


 ルシアンのいつもと違う表情に驚くと、"こほん、失礼しました"と微笑んで私から視線を逸らして何やら考え込んでいる。


 ハルが怪訝そうにルシアンを見つめている。尻尾が地面をタン、タン……と打っている。機嫌が良いのか悪いのか。


「クビとはいったい……これから祈りの儀式があるというのに。リリティアをクビにするなど神殿の者たちは正気か?」


「私もよくわからないのです。今日、いきなりクビだと言われてしまって……」



◆◆◆



——少し時間が遡ること二時間前、神殿にて。


「リリティア、お前は今日でクビだ」


 え、クビ? クビって言いました?


 頼まれていた用事を終えて神殿に戻って言われた一言目がこれってひどくないです?


 私の仕事ではない用事、いや雑用をいくつも処理して戻ってきたというのにあんまりではないか。


 私をクビだと言ったのは、この神殿でそこそこ高い地位についている大神官だ。その後ろには数名の聖女が私を見つめていた。


 うーん、なんだか嫌な予感が。いや、クビだと言われた時点で察するところですが。


 聖女の一人、マリアベルは美しい外見には似つかわしくない皮肉めいた笑みを浮かべている。


「あの、大神官様。それは私の聖女としての資格を剥奪する、ということでしょうか?」


「あぁ、そうだと言っているだろう。まったく、一度で理解できんのか?」


 大神官は適当に返事をし、それを後ろで見ている聖女たちはくすくすと笑っている。


「理由は何でしょう? 私が何か失態を……」


「失態だと? そんな一言で済ませられるものではない。聖女マリアベルが女神様のお声を聞いたのだ」


「え、そんなまさか——」


「なんだ、嘘だとでも言いたいのか?」


 マリアベルが女神様のお声を聞いただなんて、そんなことあるわけないのに。


「女神様のお声を聞けるのは大聖女様だけのはずです。……あの、マリアベルにその素質があるとは思えませんが……」


「こら、なんてことを言うんだ! 聖女マリアベルはこの国の大貴族、公爵家のご息女なのだぞ。その資格は十分にある」


「爵位は関係ないのでは……」


 そう言いながらマリアベルを見ると一人だけ身なりに違いがあるのが嫌でもわかる。


 わかりやすく言えば、お金をかけてるな、と。


「あら、リリティアはなぜわたくしに資格がないなどと決めつけるのかしら?」


「それは……」


 "あ、大神官様。あとはわたくしたちに任せてくださいな"とマリアベルが声をかけると、大神官は厄介ごとは御免だとばかりにそそくさとこの場を離れた。


 私は足元にいるハルをちらりと見た。

 毛を逆立ててご機嫌が非常に悪いということだけはわかる。


「それはそうと、その汚らしい猫はなんですの? あなたとずっといるけれど神聖な場所にそんなものを入れるのはやめていただきたいですわ」


 マリアベルは猫のハルのことを汚らしいと吐き捨てた。その言葉を聞いてハルは"なぁん?"と威嚇した。


「まぁ、変な鳴き方ですこと」


 この言葉にハルがマリアベルに飛び付きそうになったので急いで抱き上げるも、じたばたと暴れて腕の中から逃げようとする。


 今手を離せば間違いなくマリアベルに飛び掛かってしまうだろう。

 

「マリアベル様、見てください。なんて凶暴な猫なんでしょう!」


「マリアベル様、大丈夫ですよ。リリティアはもうここを出て行くのですからこの猫を見ることもなくなりますわ」


「この素養のなさ、飼い主そっくりですよ!」


 マリアベルの取り巻きたちのお口は今日も絶好調のようだ。聖女は爵位に関係なく平等な立場のはずだけれど、貴族出身である彼女たちはそうは言っていられないのだろう。


「ねぇ、マリアベル。なぜあなたが女神様のお声を聞くことができたの?」


「あら、なんだか含みのある言い方ですわね? わたくしはただ、今日の祈りの儀式が何事もなく終えられるように歌を捧げていただけですわ」


「マリアベル様のその美声に感動された女神様がお言葉を残されたのよ!」


「光に包まれるマリアベル様はそれはそれはお美しかったわ……」


 そんなことあるわけないないでしょう、と思っていると腕の中のハルが"ふんっ"と大きなため息をついた。


「あぁそうですか。それで女神様はなんと仰ったの?」


「ふふ、女神様はあなたのことが不快でお怒りなんだそうよ?」


 マリアベルは面白いことのようにほくそ笑んだ。


「はい? 女神様が私のことが不快、ですって……? それはどういう意味なの?」


 すると聖女たちは声を上げて笑い出した。その笑い方が私を馬鹿にするものだというのが嫌でもわかり、怒りが込み上げる。


「あははっ、不快なんですって、あなたの歌声が」


「は、え……?」


 歌声が不快だと言われて、一瞬ぽかんとしてしまった。


「だから、あなたがあまりにも音痴だから女神様がご不快なのよ。毎月毎月、祈りの日にその歌声を聞かされるのが相当苦痛だったみたい」


「な、そんな、こと……」


 そんなことないと、はっきり言いたいところだけれど……正直あるかもしれない。

 認めたくはないけれど、そう、私は音痴だ。


 もうこの際はっきり言うが、私は自他共に認める音痴である! そう、音痴なんです!


「確かに私はちょっと、いや、少し音痴かもしれないけれど、女神様を不快にさせるほどでは……ない……わよね?」


 そう言ってハルを見ると、ハルは気まずそうに私から視線を逸らし、"に、にゃぁん"となんとも微妙な鳴き方をした。


 え。え? ちょっとハルちゃん!?

 そんなにひどかったの? 私の歌……。


「マリアベル様の歌声に比べたら天と地の差ですわ〜」


「あなた、知ってた? 聖女の中に音痴がいるって人々の間で噂になってるのを!」


「リリティアってば、聖女としての能力もないのに音痴な歌で周りだけでなく女神様まで不快にさせるなんて、すごい才能だわ!」


 "聖女としての能力がない"という言葉は受け入れることができない。私も聖女の一人として誇りはあるのだから。


「私は歌うことが苦手だけれど、祈りの日は心を込めていたわ! それに、音痴と聖女としての能力は関係な——」


「それは嘘よ。だって女神様はこうも仰ったのよ? 意味がないからやめさせるように、と」


「女神様がそんなことを言うはずがないわ!」


「あら、なぜ?」


「なぜって、大聖女様しか……」


 女神様が私にそんなひどいことを言うわけがない。それに、何かあればそんな回りくどいことなんてせずに私に直接言ってくるはずだもの。


 腕の中のハルをぎゅっと抱きしめる。


 下を向く私にマリアベルが、ずいっと一歩こちらへと踏み込んできた。


「どうしてリリティアは、女神様のお声が聞けるのが大聖女様だけだなんて決めつけるのかしら?」


「それは……」

 

 大聖女様は高齢なため、最近は表に出てくることさえ難しくなってしまっている。そのため、表向きはもう女神様の声を聞ける他の聖女はいない。 


"他に聞ける人がいないということを知っているから"と言ったところで誰も信じないだろう。どうしてそんなこと知っているの? 理由は? 証拠は? となるだけだろう。


 言い返すことのできない私を心配してか、腕の中のハルがまた"にゃぁん……"と今度は悲しそうに鳴いた。そしてマリアベルたちを鋭い目で睨み付けている。


 ハルちゃん、その姿で睨んでも可愛いだけなんだけれど。


「そういうことだから、あなたはもうただの嘘つきなの。女神様が仰ったんだもの、あなたはもう聖女ではないわ。早くここから出て行ってくださらない?」


「嘘つき聖女はさようなら、ですわ」


「あなたのような偽物なんかより、マリアベル様こそ大聖女にふさわしいのよ」


 聖女たちが、出口はあちらです〜と神殿の裏門がある方へ視線を送る。


 けれど、今日は大切な祈りの日だ。私だけ参加しないわけにはいかない。今日なんとか乗り切って、次のことはまた後で考えればいい。


「マリアベル、せめて今日のお祈りだけでも参加させてもらえないかしら?」


「あなたが祈ったところで何の意味もないわ。わたくしがいるのだから、能無しのあなたは必要ないの」


「そんな、だめよ! 女神の涙が底をつきかけているのを知っているでしょう!?」


 女神の涙とは、王宮にある大きな魔石のことだ。何百年も前に気まぐれでこの地に降りた女神様が、気まぐれで人々を救った時に、これまた気まぐれで残したものだ。


 月に一度、この女神の涙に聖女たちが祈りを捧げると力の源である神聖力が貯まるようになっている。


 そこから各地にある結界石や治癒石に力が移るようになっており、使用される度に女神の涙から神聖力が減っていくという仕組みだ。


 聖女がその場にいなくても、石さえあれば誰でも使えることができるすぐれものだ。


 欠点は決まった日にち、時間にしか神聖力が貯められないということだろう。

 

 これまでは女神の涙に貯めている神聖力には余裕があったけれど、今月は急な魔物の襲撃により神聖力が底をつきかけているのだ。


 こんなことは今までに一度もないほど、危機的状況だといえる。


「マリアベル、今の状況が理解できないわけではないでしょう?」


 そう問いかけるも、マリアベルは表情一つ変えない。


「リリティア、マリアベル様を困らせないでくれる? そもそもあなたは聖女としての能力がないのだからいても意味ないって言われたでしょう?」


 聖女たちはくすくすと笑っており、私の話など聞いてはくれない。


「リリティア、正門から騎士たちに引き摺られて追い出されて恥をかくのと、裏口から静かに一人で出て行くのとどちらがいいかしら? さぁ、選びなさい」


 マリアベルにそう言われてしまい、私は裏口から追い出されることになってしまった。


 マリアベルが最後に"今だからこそ、あなたがいると邪魔なのよ"そう言ったのを私は聞き逃さなかった。


 ハルが"にゃん、にゃーん!"と何かを言いたげにしているが、残念ながら今はハルが何を言っているのかわからない。


 ただ、怒っているのだけはわかる。

 ハルと言葉が通じないことがこんなにもどかしいなんて。


「ここで考えてても仕方ないよね?」


 私がそうハルに話しかけると"なぁん……"と悲しそうに返事をした。


「よし、王宮に忍び込もうと思うの」


"に、にゃんっ!?"


 ハルが私の言葉に驚いたようで先ほどよりも強めに鳴いている。


「あら、危ないから気を付けてねって?」


"にゃーーん!!(ちがーーう!!)"


 

◆◆◆



「という事が二時間前にありまして……」


 私は神殿であったことをルシアンに話した。


 話を聞き終えたルシアンは手で顔を覆いながら盛大にため息をついた。


"あいつらは馬鹿なのか?"


「ルシアン、今何か言いましたか……?」


「ははっ、何も言っていないですよ。それよりも急がなければいけませんね」


「え?」


「祈りの儀式ですよ。あなたがいなければ近いうちに大変なことになるかもしれませんから。さぁ、私について来てください」

 

 どうやって中に入るのだろうと不安になっていると、まさかの正面から堂々と、だった。


 入り口で待機している神殿の聖騎士たちは私を見て驚いている。


 やっぱり大神官やマリアベルたちが手を回していたようだ。


「団長、これ以上はいけません! その者を中に入れるなと上から言われております!」


「いくら団長でもここをお通しするわけには!」


  必死に止める騎士たちを無視してルシアンは私の手を引っ張って歩き続けた。


「だ、大丈夫なんでしょうか……?」


「問題ありません。上、といってもまさか皇帝陛下より上の存在などいませんから。だから大丈夫です」


「えっと……そう、ですね?」


 扉を開けて王宮で一番の広さを誇る大広間へと入ると、ちょうど祈りの儀式が行われている最中だった。


 それにしてもいつもより儀式を見にきた人たちがどこか浮き足立っているようにも見えた。


「やはり次の大聖女はマリアベル様でしたか」


「ほら見て、あの美しさと綺麗な歌声を! まさに大聖女様に相応しいお方だわ」


 そんな、まさか次期大聖女がマリアベルだと正式に発表されたの?


 中央に置かれている、遠くからでもその存在がよくわかる女神の涙を見れば予想通り、神聖力がほとんど貯まっていなかった。

 

 すぐ近くで儀式を見守っている皇族や貴族たちの表情は固い。どこかおかしいと気が付いているようだ。


 マリアベルはかろうじて表情には出ていないものの、内心とても焦っているに違いない。


 マリアベルは、"どうして貯まっていかないの!? あなたたち、わたくしのためにもっと必死に歌いなさい!"とでも思っているのだろう。


 マリアベルの様子に気が付いてか、他の聖女たちもいつもより必死に祈りを捧げていた。マリアベルの取り巻きではない聖女たちはただただ混乱しているように見える。


 焦りからか、徐々にその歌声の調和が乱れ始めた。

 この祈りの儀式で調和を乱すことは許されない。


 ハルの様子もいつになく機嫌が悪そうだ。こんなにも調和の取れていない祈りを聞くことは、ハルにとってとても不快なはずだ。


 祈りが終わりに近付くにつれ、人々も様子がおかしいことに気が付き始めた。


「ねぇ、なんか……あまり……」


「そうねぇ、今日は何だか心が落ち着かないわ」


「不安な気持ちになるのはなぜかしら」


「おい見ろよ! 女神の涙、変わりないんじゃないか……?」


「大丈夫なのか?」


 そうして結局最後まで調和が取れないまま祈りの儀式は終わってしまった。聖女たちはほとんど変わりのない女神の涙をみて言葉が出てこないようだ。


 シン、と静まったこの大広間に突然入り口から大きな声が聞こえた。


「へ、陛下! 大変です!」


 何事かとこの場にいた大勢の人が声のした方へと視線を向けた。それは領地からの伝令だった。


「魔物の襲撃です、東の領地に現れました!」


「また、結界域が徐々に縮小しているとの情報があります!」


「西も、西からも援軍の要請がきております!」


 陛下が被害の確認をすると、魔物はどうやら近隣の村や人には目もくれず真っ直ぐ王都へ向かっているとのことだった。


「なぜここへ……?」


「まさか女神の涙が目的なのでは!?」


「王都に向かってるって、ここから離れた方がいいのかしら!?」


「いや、陛下のいるここが一番安全だろう!?」


 祈りの儀式という大切な日に、突然の魔物の襲撃が起きてしまい人々は混乱し始めた。


 その混乱からの戸惑い、不安の矛先は聖女たちへと向けられてしまった。


「なぜ神聖力がたまらないんだ!?」


「何か問題があったんじゃないのか!」


「女神の涙があるのだから結界が機能しているはずだろう!?」


「見ろよ、だからそれが貯まってないんだよ!」


「マリアベル様! なんとかしてくださいよ!」


「聖女様、助けてください!」


 あの時のマリアベルの様子から、何かよくないことでも考えているのではと思ったが、このような事態は想定していなかったようだ。


 女神の涙が貯まっていかなかった理由も、襲撃を受けたせいで急激に神聖力が使われたせいだろう。


 貯めてはなくなり、貯めてはなくなり、その繰り返し。そして今も減り続けている。


 焦りの表情を見せていたマリアベルが私がこの場にいることに気が付いた。視線が合うと、マリアベルの口角が上がったのを私は見逃さなかった。


 嫌な予感がした。


「あ、あの者のせいですわ!」


 マリアベルが一言、私を指差しながら叫び声を上げた。


「あ……あそこにいるリリティアが女神様のお怒りを買ってしまったのです!」


 マリアベルはとんでもないことを言い出した。この状況でそんなことを言えばどうなるかわかるだろうに。


「マリアベル、なんてこと言うのよ!?」


 みなの視線がこちらへと向けられるが、"あれは誰だ?"と私が誰かはわからないようだ。


 マリアベルのように聖女としての人気があるわけでもなく、これといって目立つようなこともなかったから。


「あれ、あの子ってちょっと歌が下手な聖女じゃない?」


「あぁ、そういえばそんなのがいたか?」


「音痴の聖女か」


「聖女なのに音痴なのか、かわいそうに」


 いや、少しはみんなから認知はされていたようだ……。

 なぜか心に傷が残りそうな覚えられ方ですが。


 音痴の聖女だなんて!


「リリティア、あなたは自分のことを聖女だと嘘をつき、その音痴……いえ、不快な歌声で女神様のお怒りを買っただけではなく、逆恨みから大切な祈りの日にここへ邪魔しに来るなんて! あぁ、女神様が大変お怒りなのだわ……私たちの祈りが届かないほどに!」


 マリアベルはすらすらと、先ほどまで女神様に祈りを捧げていたその口で平然と嘘をついた。


「女神様の怒りを買っただと?」


「それで神聖力が貯まらないのか!」


 私の肩の上でハルが"シャー!"とマリアベルを威嚇していた。


 そうね、たしかにマリアベルの言うとおり、女神様はそれはそれはお怒りだわ。


「それにその猫! このような神聖な場所には連れてくるなとあれほど言ったではありませんか!」


 ちょ、やめてやめて! これ以上ハルを刺激しないで!             

 あなた、この後大変なことになっても知らないよ!?


「リリティア、あなたこの責任をどうとるつもりなの!?」


 その時、王宮の真上で大きな雷が鳴った。落ちてはいないだろうが、この建物の中まで響くほどの衝撃だった。


「あぁ、ほら! 見なさい、リリティア! 女神様がお怒りなんだわ!」


 だから本当に怒っているんだってば! 


 我慢できなくなったハルがマリアベル目がけて飛んでいった。それはそれはもうとても俊敏に。


 そしてハルはマリアベルに張り付き、引っ掻いて大変なことになっている。


「な、何よこの猫! い、痛い、痛いわよ、ちょっと離れなさいよ!」


「ハルちゃん、だめよ!」

 

 マリアベルが"この〇〇(規制)猫!"と言ったところでハルがマリアベルから離れ、今度は女神の涙に向かって飛んでいった。


 マリアベルはハルに髪も服もあちこち引っ掻かれ、いつもの美しさは見る影も無くなっていた。


 次期大聖女だと思われていたのに汚く罵った言葉を発したマリアベルと、なぜか猫が女神の涙にベシッと張り付いたことで人々はさらに困惑していた。


「大聖女様がなんて汚い言葉遣いを……」


「あの猫、女神の涙に張り付いてないか……?」


「そんなまさか、近付くことさえできないのに!?」


 女神の涙は、大聖女や認められたものしか触れることができないものだ。そんな女神の涙に猫が張り付いたとなれば大問題だろう。


 私は急いでハルの所までいき、女神の涙から引き剥がすようにハルを抱き上げた。


「お、おい……あの子もあんなに近づいたぞ?」


「いやいや……あれもう女神の涙に触れてるんじゃ……」


 あれ、そういえばここまで近付いたのは初めてかもしれない。女神の涙に弾き飛ばされなくてよかった〜!


「もう、ハルちゃん! どうしたの?」

 

"ふぅ、ちょっと力をもらったにゃん〜"


 そう、ハルが喋った。

 え、驚かないのかって? 


 いやまぁ、実はハルって人語を話すんですよね。今はたまたま力がなくなりかけてて普通の猫のように"にゃ〜"しか鳴けなくなっていただけで。


"もう我慢の限界なんだけど!? あのマリアベルとかいう女、嫌いだにゃーーーん!"


 ちなみに、語尾に"にゃん"を付けるのが最近のお気に入りらしい。たまに忘れて普通に話しているけど。


「ねねね、猫がっ! 喋った!?」


「まさか魔物か!?」


「いやいや、魔物だったら女神の涙に触れないだろ!」


 さすがに私以外の人たちは驚いていた。ただ、ルシアンだけは表情が変わらないでいた。やはり感付いていたのだろう。


 いきなり猫が話せばそうなるよね。でも魔物なんて言ったらハルが怒ってしまうよ。


"魔物だなんて失礼しちゃうわ! 私の名前はハルモニアよ! あ……にゃん!"


 ハルが話すと頭の中に響くように聞こえるから不思議だ。


「ハルモニアって、女神様と同じ名前じゃないか?」


「そんなまさか……」


「いやでも、女神様がこの地に降り立つ時は仮の姿になられると聞いたことがあるぞ?」


「そういば、以前は鳥の姿で人々の前に現れたこともあったとか……」


「なら今回は猫のお姿で……?」


"そうそう、そのハルモニアなんだにゃん〜"


 ハルはそう言いながら、前足……手? で顔をくしくしとさせており、女神ハルモニアだと明かすも、ただ可愛い猫にしか見えなかった。


 その場にいた人々は最初は不信に思っていたけれど、ハルが喋ったこと、そして何より女神の涙に触れたことで本物の女神様だと信じたようだ。


「ハルちゃんっ、話してしまってよかったの!?」


"しかたないわ、だって緊急事態なんだもの! リリティア、早く祈りを捧げて! 今ならまだ間に合うから!"


 ハルが語尾に"にゃん"をつけ忘れるほど切羽詰まった状態なんだろう。


「うん、わかったわ!」


 私はそう言って女神の涙の前に跪こうとしたが、この事態をまだ飲み込めずに邪魔をする者がいた。


「リリティア! あなた何をしようとしているんです!? そこから離れなさい!」


 それは案の定マリアベルだった。


 いつの間にか直したのか、ハルにぐしゃぐしゃにされた髪の毛が綺麗に戻っていた。


 マリアベルに続くように、大神官まで声を張り上げた。

 いい加減やめてほしいのですが!?


「リリティア! これ以上女神様のお怒りを買う気か!? 余計なことはするな! お前は自分の歌がどれほど下手なのかわかっているのか!?」


 大神官がこちらへと来ようとするも、ルシアンがとめてくれた。


「リリティア、早く祈りを!」


 私一人だけでは、神聖力をいっぱいにするには時間がかかってしまう。できればいつものように、みんなにも一緒に祈ってもらいたい。


 他の聖女たちを見れば、どうしたらいいのかと戸惑っていた。


「みんな、お願い。もう一度祈って!」


 私が声をかけると、マリアベルとその取り巻き以外の聖女たちが女神の涙を囲むように跪いた。


"あ、リリティア! いつものじゃダメよ、"ちゃんと"祈ってね!"


 そう言われた私は、周りに集まってくれた聖女たちに一言伝えた。ハルに言われたように"ちゃんと"祈りを捧げないとね!


「ねぇ、前に話した祈り、覚えてる?」


 すると聖女たちは戸惑いながらも小さく頷いた。みんなが私の話を覚えていてくれたことが今はただただ嬉しい。


 そうして私たちが聖女の祈りを始めると、すぐに女神の涙が貯まり始めた。


 きらきらと光を放ち、今まで見たことがないような綺麗な光景だった。


「なんだかいつもと歌が違うわね……?」


「音程が……はずれている……?」


「でも、とってもきれいだわ」


「そうね、この歌、なんだか心が温まるわ……」


「あれ、腰の痛みがなくなったぞ?」


 聖女の祈りを静かに見守っていた人々はその美しい光景に感嘆し、先ほどまで不安で取り乱していたのが嘘のように落ち着きを取り戻していた。


 すぐに各地の伝令から結界が元に戻り、魔物も消滅したと連絡が入ったことで、人々は歓声をあげた。


 が、この場をまだ乱す者がいた。

 まだやるのか。


「リリティア! なんですの、その不快な歌は! 音程がめちゃくちゃじゃない!」


 またも懲りずにマリアベルだった。


「そんな下手な歌ではまた女神様のお怒りを買うわよ!? ちょっと、あんたたちも何一緒に歌ってるのよ! 公爵家が怖くないの? 家門がどうなってもいいの!?」


 マリアベルが何やら権力を振りかざして一人で喚いているが、今はもう誰も賛同する聖女も神官もいなかった。


 女神の涙を見れば何が正しいことなのか一目瞭然だからだろう。それなのに、マリアベルは受け入れたくないのか本当に理解ができないのかまだ喚き続けた。


「リリティア、あなたいったいどんな小細工をしたのよ!? 他の聖女まで巻き込んで、急にあんな神聖力が貯まるわけないじゃない! こんなの嘘に決まっているわ!」


「マリアベル、いい加減にして」


 冷静に向き合おうとするも、そんな私の表情が気に入らないのか、後に引けなくなったマリアベルはますます取り乱していった。


 そんなマリアベルの姿に、儀式のために集まっていた人々は困惑していた。


「ちょっと、大神官はどこにいったのよ!?」


 そういえば大神官の姿が見えないな、と気が付いたところで「あぁ、大神官ならここですよ」とルシアンが大神官の首根っこを掴んだまま私たちの目の前へと放り投げた。


「逃げようとしていたので捕まえておきました」


 いつもの爽やかな笑顔のまま人を放り投げるルシアンの姿に少し驚きながらも、さすがだなと感心してしまった。


「あなた、わたくしを置いて逃げようとしたの!?」


「なっ、人聞きの悪い! 元はと言えば……!」


 マリアベルと大神官が言い争いを始めようとしたところでハルが降りてきた。


"いい加減にしてほしいんだけど〜"


「あ、ハル。もう調子は大丈夫?」


"リリティアたちのおかげで絶好調よ! こんなに心地の良いハーモニーは久しぶりなんだにゃん〜"


 調和のとれた祈りにハルは満足そうな表情だ。


「それはよかったわ」


"リリティア、そいつらさっきからうるさいんだにゃん"


「あ、ごめんね? すぐにルシ……公爵様が追い出してくれるから大丈夫だよ」


「ちょっと! どうしてわたくしが追い出されないといけないのよ!? わたくしは大聖女なのよ!?」


「そんなふうにうるさいからじゃない……?」


「なんですって!?」


"あ、追い出す前に一言いいかにゃん?"


 ハルが楽しそうに尻尾の先をゆらゆらと震わせている。

 うわぁ、これは相当怒ってらっしゃる。


 でも、なんだかすごくご機嫌そうだけど、だからこそ嫌な予感がする。


"あなた、私のこと汚らしいとか変な鳴き方とか言ってたわよね〜?"


「……あ」


 マリアベルはハルに今までどんな言動をしてきたか思い出したようで、みるみる顔色が悪くなっていた。


"女神の……私の声を聞いたとか?"


「いや……いえ、それは……」


"私、いつリリティアの歌声が不快って言ったのかしら〜。たしかにすこ〜し、音痴だとは思うけれど"


 え、ひどい。


"女神の声が聞けるのは大聖女とリリティアだけなんだけど? おかしいなぁ、あなたが聞いた女神の声って誰のことなのかしら〜"


 ハルは尻尾をふりふりしながら、マリアベルの周りをくるくると回っていた。


 いつもの可愛らしい話し方も、語尾に"にゃん"をつけることもなく、成人女性のような話し方をするハルに少し戸惑いながらも、本来の姿は女神様なんだなと実感する。


"それと、あなた自分の歌声に相当の自信があるようね? まぁたしかに声は綺麗だと思うわ"


「あ、ありがとうございま……」


"でもあの歌詞はないわ〜"


「……え?」


"何勝手に歌詞なんてつけてるのよ? 音程も変えたわよね?"


 そう、祈りの儀式の歌は本来は歌詞などついていないのだ。音程も違う。ハルが"ちゃんと歌って"と言ったのはこれが理由だ。

 

 いつからか、音程が気に入らないと変えられてしまったのだ。そこに、自分勝手に歌詞をつけて酔いしれて歌っていたのがマリアベルだ。


"聞いてるこっちが恥ずかしいのよ。えっと、なんだったかしら〜? そうそう、我ら女神の愛しき子……花のような……可憐な……汚れを知らぬ清き心が……他はなんだっけ?"


 どこからか"ぷはっ"と吹き出す声が聞こえた。"笑ったら可哀想よ"など、ヒソヒソと話す声が耳に入ってきた。


 マリアベルの顔が恥ずかしさでが真っ赤に染まる。


"あなた、リリティアのことを音痴で不快だと言ったわよね。あなたの自分に酔いしれた歌を毎回聞かされたことが私には不快なんだけれど?"


"大聖女ですって? 笑わせないでほしいわ〜。あなたにそんな神聖力なんてないわよ? 調和を乱すのはやめてほしいわ〜"


"それなのに大神官と手を組んで大聖女になって、女神の涙を自分たちのものにしようとするなんてだめじゃない?"


"叩いて破片がとれるか試したこともあったよね〜? 盗めるわけないのにね。女神の涙を破損させることなんてできないんだから"


「なんで、それを……」


 マリアベルも大神官も先ほどよりもさらに顔色が悪くなっていく。


 嘘でしょ、まさか女神の涙を盗もうとしていたなんて。


"それはもちろん、私が女神ハルモニアだからなんでもお見通しなのよ"


"すっきりしたにゃ〜ん。もう言いたいこと言ったから、早くここから追い出してほしいにゃん!"


 語尾が変わったことから、もうハルは言いたいことが終わったようだ。私の足元へときて、すりすりとするその姿は今はただ可愛らしい猫だ。


 そっと優しく抱き上げて撫でると、嬉しそうに鳴いた。


 ハルの言葉に従い、ルシアン率いる騎士たちが大神官とマリアベルを外へと連れ出していった。ついでに公爵家の一家も道連れのようだ。


 多分そのまま尋問されるんだろう。

 自業自得だわ。


「マリアベル・ベインズ!」


 と、ここで一人の若い男性が声を上げた。

 それはこの国の第二皇子、そしてマリアベルの婚約者でもある。


「あなたとの婚約は今をもって破棄させてもらう!」


 皇子のその言葉に、マリアベルはすべて失ったような表情のままここから連れ出されて行った。


 まぁ、そうなるよね……。


「リリティア、大丈夫ですか?」


 ルシアンが私の肩へとそっと触れた。

 触れられたその場所が熱く感じるのは気のせいではない。


「ありがとうございました、ル……公爵様」


「いえいえ、あなたのお役に立てたなら何よりです。それと、もういいのでは?」


「え? 何がです?」


「私のことを、ルシアンと名前で呼ぶことですよ」


「ですが……」


 平民の聖女……あ、クビにされているからもうただの平民か……そんな私が、ルシアンのことを人前で名前で呼ぶわけにはいかないと、ずっと"公爵様"と呼んでいた。


「いいじゃないですか、ねぇ? リリティア」


「ははは……」


 公爵様を名前で呼んだらどうなるかわからないほど馬鹿ではない。


 マリアベルが第二皇子から婚約破棄されたことにより、今度は別のことで騒ついているようだ。


「マリアベル様が婚約破棄されたのなら、新たな婚約者は誰になるのかしら?」


「それなら次の有力候補は侯爵家の……」


「あら、でも大聖女様と婚約されるのでは?」


「それならもういなくなっただろ?」


「でもほら、あの音痴の聖女様。女神様と……」


「女神様が音痴の聖女様を選ばれたってことなんじゃ?」


 待って待って。

 おかしな方向に話が進もうとしていませんか?


「あの、私は女神様に選ばれたわけではなくてただのお友だちなんですっ!」


 そう言ってみたところで、「まぁっ! 女神様と唯一のご友人ということ!?」「人間との新たなご関係を!?」とまた話が逸れていく。


「女神様とご友人の聖女様が皇子妃なら……」


「それはそれは安泰なのでは?」


「それなら身分など関係なくてもいいのでは?」


 貴族のみなさんまでおかしな話をし始めたところで、ルシアンの笑顔がみるみる消えていった。


 そんな空気を止めてくれたのは第二皇子だった。


「私は婚約破棄したばかりなんだぞ? そんなすぐに決めないでくれ」


 そう言いながら私とルシアンのところまできた。


「だからお前は女を見る目がないとあれほど言っただろう」


「いやだって、まさかあそこまでとは……」


 ルシアンと皇子は仲がいいらしく、お互い軽口で話す様子からその関係性がうかがえる。


「ルシアンは見る目があったということだな」


 皇子はそう言いながら私を見た。

 

「はい……?」


 ポカンとする私に、皇子は"ぷはっ"と吹き出した。


「なんだ、まだだったのか?」


「揶揄うな」


「なるほどなるほど。ルシアン、お前が皇室騎士団の団長の座を断って神殿を守る聖騎士団の団長になったのはそういうことだったのか。そうかそうか」


「守りたい人のそばにいたいと思うのはだめなことか?」


 ルシアンはそう言いながら、さりげなく私の腰をそっと抱き寄せた。

 

 ……ん?

 え、だ、抱き寄せた!?


「いやいや、悪くないぞ? 皇族である私よりも守りたい人、ねぇ? うんうん、そういうことだよな?」


「そうだ、悪いか? 私にとってリリティアを守ることが何よりも大切なことだ」


「そう、はっきり言われるとな……友人として悲しくなっちゃう」


「私の弟が皇室を守っていることが不満なのか? そうか、お前は我が公爵家に不満が……」


「いやいや、違うからな!? 弟君はよくやってくれてるよ!? いいや、もう……えっと、ルシアンのことよろしくね?」


 ルシアンに睨まれた皇子は気まずそうにそそくさとこの場から離れ、この大広間に集まった人たちへの対応に回った。


 残された私たちの間には沈黙が。


 先ほどの会話から察するに、ルシアンはもしかして……。


「リリティア、私が聖騎士団に決めたのはあなたがいたからです」


 ルシアンの言葉に心臓の鼓動が早まる。

 じんわりと熱を帯びている腰に回されているルシアンの手に心が落ち着かない。


 そんな私たちを邪魔するかのように――。


"こいつはだめなんだにゃーーーん!!"


 それは女神ハルモニアのハルだった。


"だめだめ! こんな胡散臭いやつ、リリティアには合わないんだにゃん!"


「ど、どうしたの、ハルちゃん?」


 私たちの間に割り込んできたハルに、ルシアンは微笑みながらも小さく舌打ちをした……ように見えた。


"こいつは受け入れたら執着するタイプなんだにゃん! いっつもリリティアのいるところに現れては私たちの仲を邪魔してたんだもん〜!"


「そんなことは……」


 ルシアンを見ると、さっと表情を変えて目を細めた。


「リリティアの居場所ならすぐにわかりますよ」


「え? もしかして、私が壁をよじ登ろうとしていた時も……」


「えぇ、すぐに見つけられてよかったです。でもまさかあんな風に壁を越えようとしていたとは思いませんでしたが。私以外の男に見られなくて本当によかったです。ね?」


「ははは……」


"ほらっ、ほらっ! だからやめたほうがいいんだにゃーん!"


「それは女神様がお決めになることではないかと」


"むきー! 初めから気に入らなかったんだにゃん! リリティアを見るその目が! よく聞きなさい、若造! 今ここでリリティアにプロポーズしようものなら……"


「え、プ、プロポーズ!?」


「だめなんですか?」


"ちょっと聞きなさい! だから、今はダメってこと! リリティアの価値に気が付いて手に入れようとしたとか言われてもいいの!? 周りからなんて言われるか! リリティアの名誉は守ってあげないの!?"


「なんかそれらしいことを言って誤魔化していますが、要はハルモニア様はリリティアを私に取られたくない、ということですよね?」


 ルシアンのその言葉にハルは恥ずかしそうに怒っているが、そんな二人のやりとりを見て私はただ微笑ましく感じた。


「わかしました。今はまだやめておきます、今はね。でも、リリティアの隣は私の場所ですから。いいですか? リリティア」


「え? はい?」


「あぁ、ありがとうございます。私のことを受け入れてくれて。あなたをずっと大切にします。他の言葉はその日のためにとっておきますね」


 ルシアンは私の手をそっと取り、手の甲にキスを落とした。


 顔を真っ赤にしておろおろする私に、ルシアンはただ微笑んで見つめてくるし、ハルは"消毒するにゃん!"と私の手を浄化したのには笑ってしまったが、こんな日が続くのも悪くない、かな?


ここまで読んでくださりありがとうございました★

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