天災
突然のニュースだった。
「巨大隕石が地球に接近していることが分かりました。衝突すれば甚大な被害が予想されます。政府の発表によりますと——」
人々の話題は隕石のことで持ちきりとなった。当初は希望的観測も多かったが、その時が近づくにつれ事態が深刻であることが確実となる。
「巨大隕石は直撃コースにあり、予想される災害の規模からして人類の50〜80パーセントが死亡すると考えられます。また、仮に運良く生き残ったとしても、現在の文明の維持は絶望的です。どうかその点を理解し、残された時間を有意義に落ち着いてお過ごしいただくよう国民のみなさまにはお願い申し上げます。」
政府発表への反応は多種多様だった。家族と共に最後の時間を過ごそうとする者、シェルターに籠る者、読みたかった本を手に取る者、自ら死を選ぶ者。あるいは、このような時でも最後まで社会を維持するために仕事に精を出す者から自暴自棄を起こす者まで。
そして運命の時。
隕石は海に落下して巨大地震を引き起こした。揺れは建造物という建造物を薙倒し、少しの時間を置いて廃墟となった街を津波が攫った。
文明は滅んだ。
「もう終わりだ。何もかも」
僅かに生き残った者の多くはそう考えた。
しかし、異なる考えの者もいた。
「いや、まだだ。一度俺たちは文明を築き上げたじゃないか。ならもう一度やってできないはずがない」
「そうだ。とにかく生き残るんだ。生きなければ」
「人類の祖先は氷河期だって耐え抜いたんだ。このくらいの困難、切り抜けられるさ」
誰かが言い、賛同する者が現れた。心の奥底から湧き上がる「生きなければならない」という意思に突き動かされ、呆然としていた数少ない生き残りたちは少しずつ手を動かし始める。
人間だけではなかった。荒野には草木が芽吹き始め、生き残った動物も殖え始める。
生きなければならない。その生命誕生以来の一貫した原理に突き動かされ、灰の中から蘇る不死鳥のように地球生命はゆっくりと、しかし確実に再生してゆく。
それから幾星霜。ある山頂に石碑が建てられた。人類復興の碑と呼ばれるその碑は有名な観光名所となっていた。
「大昔、大津波から逃れた人々はこの場所から文明の復興を始めたと伝えられています。全てを失ったところから、生きるために立ち上がった先人の不屈さを称え建立されたのがこの石碑です」
案内の説明を聞き、観光客らは石碑を見る。石碑は長い間雨風に晒されたために丸みを帯び、元の形や刻まれた文字を見いだすことはできない。しかし、彼らは一様に当時の人々の生きようとする強い意思を感じ取り、心動かされた。
※※※
一連の様子を嬉しそうに宇宙から眺める者たちがいた。
製品を実演販売するセールスマンと顧客だ。
「素晴らしい。これだけの衝撃を与えても壊れないとは」
「ありがとうございます。弊社の情報記録システムは物理的媒体としては宇宙最高の耐久性を有すると自負してございます。秘密はDNAという物質の配列に情報を保管する独自の方式です。自己保存と増殖を最優先するよう設計された各ユニットがあらゆる環境に適応いたします。その結果、数億年間にわたり情報を保管でき、ご覧いただきました通り冷却や衝撃への耐久性も——」
セールスマンは長年の経験から後一押しという感触を得ていた。
「さらに本製品は耐熱性にも優れるのです。次は恒星を肥大させ、表面温度を上げて耐熱性能を——」