生存は災厄か
「ああ、また朝が来てしまった」
そういうと、その中年の男は読んでいた本を閉じると、煙たそうな顔でカフェに入ってきた。
「なんだい、気苦労が絶えなそうな顔をしてるねえ。」
マスターはそういうといつものブラックコーヒーを出す。男がそれを飲むと、体内のセルフメディケーションシステムがカフェインの興奮作用を半ば打ち消したようだ。
「近頃は、この治療器のせいでカフェインで覚醒することもできない。睡眠薬で夢うつつを彷徨うこともできない。」
「ありがたいことじゃないですか。それが健康ってものですよ。」
「いや、私には朝が来るということ自体が恐ろしいのだ。また1日がやってきてしまった。」
そんな会話が2.30分続いた......
「おや、こちらへどうぞ」
「ここいらにもいい喫茶店があるものですね」
「そうね、意外だわ」
「生誕は災厄だ!」
小さな声で、しかし覇気のあるこえで彼が言った。
「芥川龍之介の河童でも語られていたじゃないか、生誕の被暴力性......自害こそが人生に対する剣のようなものだ。」
「そうかな。」
少女は動じない。
「仮に災厄だとしてしまったら、ここにいる意味も無くなるじゃない。生誕は祝福よ。生まれた瞬間から皆特別なの。」
「そう思えたら、どんなに良かったことか......」
そうつぶやいて、男はカフェを後にした。
あなたはどちらを選びますか?