老紳士の主張
彼は何を語る?
個室から出ると、あの白髪の老紳士がちょうど立っていたので、話しかけることにした。
「セルフメディケーションシステムを使わないの?」
「ああ、使わないね。あれは人間を人生から切り離すシステムだと思っている。」
「でもあなたの方が早死にしそう」
そう言うと、彼は口元を緩めた。
「そもそも、長く生きることによって人生が肯定されるシステムがおかしい。傷つかぬようにすればするほどどんどん人生がうちに引きこもって、まるで寝たきり老人のようになってしまう。生を内に篭らせるような仕組みは変えねばならない。内にではなく、外に拡充するんだ。何かをやりたいという気持ち、それが人生を拓くと私は信じているよ。」
「そう......それは素晴らしい思想ね。でも、私にはあと1ヶ月しかない。体も日々朽ちていく。それでも可能性が拓かれていると?」
「......もちろんだ。何かを残したいという意志がある限りは。人は生まれた時点で完全な姿をしている。成長するにつれて不完全になっていく。寿命にとらわれることに意味はない。まあ、私はその成長した歪みを面白がっているのだがね」
「......そう。」
暫し沈黙ののち、用事があると言って彼は帰ってしまった。