表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/5

外の風景

二人はゆっくりとペースを合わせて道を進んだ。すれ違う人からは、たまに「ピピッ」という小さい音が聞こえる。おそらくは近年流行りのセルフメディケーションシステムだろう。数秒おきに人間ドックを受けているようなもので、何か病気があれば応急措置をし、即座に救急機関に連絡がとられる。最も、医療が進歩して病院に行く機会がある人は、もうそう多くないだろう。今や一定の知能までの仕事は機械が完全に代替している。知性の蓄積は寿命がある人間よりもデータベースの方が得意だったようで、知性的な仕事はほぼ完全に機械に奪われた。代わりに人間に求められたのは一握りの天才と、肉体労働に従事する労働者としての役割だった。AIは、そもそも生存する本能を持っていない。知識や知恵は蓄えているものの、それは人間の思考をトレースしているだけで、あくまで知識として問いに返答している。そのことが浮き彫りになった今、人間に求められるのは、一言で言えば生存であった。人々は健康の度合いで競争心を燃やし、競争に疲れて健康をすり減らすという悪循環に陥っている。また、それなりの芸術ならAIが一瞬でアウトプットするため、人々は芸術を作り出さず、享受するだけとなっている。一部の狂人を除いては。

「私は、生存することもできないのね」

「それには触れない約束ですよ」

気味が悪いほど静かに走る車を横目に、二人はそんな会話をしながら、やがて都会の雰囲気は薄れてきた。ここ一体は局地的な開発が断続的に行われており、高いビルがあると思ったらすぐ田舎に出たりする。あのアンバランスさが、少女の意志の強さと朽ちてゆく身体に重なって見えた。

やがて風が土臭くなり、地元に砂埃が舞い始めた。

政府のセルフメディケーションシステムは当初全国民に普及する予定だったが、それを拒否する人間のちらほらいた。特に田舎にはそういった人たちが多かった。

「なんでだろうね、都会の人の方が管理されて健康なはずなのに、幸せに見えるのは田舎の人たちだよ」

「昔あった自由の形が失われましたからね。健康を損ねる自由が失われたことが、人にとってはダメージなんでしょう」

やがて少女が土煙でむせ始めたため、二人は教会へと帰った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ