生存と諦観と希望と
「私は生存することすら許されないのね」
儚げに少女は語る。生存こそが至上命題となって近未来で、少女はどんな境地に至るのか。
夕日が教会のステンドグラスを通過して、眩い光が足元を照らし出す頃。教会の中で、パイプオルガンの音色が響いていた。音が教会の中で反響して、音を重厚にしている。粒の揃った音を出していたシスターは、近づく車椅子の音に気づいて演奏を中断した。
「あなたでしたか」
少女は機械によって制御された車椅子で、ゆっくりとシスターの所へ近づいてゆく。静かな教会の中で、機械のピピッ...... ピピッ......という音が響いている。
「演奏、止めなくてもいいのに」
「そういうわけにはいきませんよ」
「......車椅子、昔は自分の手で車輪を回してた時代もあったらしいわね」
「そうらしいですね。今はもうその面影もないですけど」
「そうだ、一緒に買い物に行かない?欲しいものがあるのだけど」
意外だった。この子の寿命は長くない。大抵の病気なら即座に治せる最新鋭の医療ですら敵わない難病。もってあと1ヶ月だろうと、私たち一人一人に貸し付けられた内在型健康維持装置が告げている。当然、彼女はそのことをわかっているはずだ。
「秘密。」
少女は答えてくれない。
「わかりました。行きましょうか。」
今どき珍しいアナログ式の扉。一気に力を入れないと開かない重苦しさが、少女の病状と重なって見えた。
風が吹き込むと同時に街の様子が目に入ってくる。道路では、コンピュータで制御された車が乗客を運んでいる。
答えのない小説です。