5訓練開始
「さぁ今日から魔力の訓練をするわよ」
ママはだいぶ張り切っているようで、さっきから尻尾が左右に揺れております。ママちょっと興奮しすぎじゃない?
「特訓って何をすればいいの?私、ママみたいにはできないと思うよ。」
「最初は簡単よ。巣の中心で寝そべって体の中に流れている力を感じるだけでいいわ」
わぁ、すっごい分かりやすい。前世の記憶で知ってる!小説とかアニメで見たことあるわ。体内にある魔力を巡らせてーとか言うやつでしょ?
「魔力を体の中で巡回させればいい?」
「えぇ、正解。この森は魔力が濃いから、少しずつやってみて」
うーんと、私はすでに巣の中心に居るから、とりあえず集中する。目を瞑って、自分自身の体に意識を向けると、温かい何かが流れている感覚がする。流れてるけど、途中で詰まってる?流れが悪いし、この温かいやつ一気に流してとっちゃうか!
魔力の流れをもっと正確に把握して、自分で流れをコントロール出来るようになるために、さらに集中する。
お?少しづつ流れをいじったり、出来るようになってきた!次はこの魔力を、一気に流す!私は勢いに乗って実行しようとする。
「愛しい子、そこまでで良いわ。ゆっくりでいいから落ち着いたら、周りを見てみなさい」
私は、ママに言われるまま周りを見渡す。
(え?風景変わってない?)
ママが作ったであろう巣は半壊。周囲の木々も倒木していたり、一部燃えて炭になっていたり、カチコチに凍っていたりしていた。天変地異でもありましたか!?
「何があったの!?」
「コントロールが甘かったから、あなたから漏れ出た魔力が暴走しただけよ?ドラゴンなんだからこのくらいは大した事ではないわ。」
いや、マジか。私、化け物じみてませんか?しかも、こんなに荒れ果てた状態にしちゃったのに、大した事では無い?もしも完全に暴走しちゃったら、どうなっちゃうの!?
「魔力のコントロールが甘いだけで、こんなふうになるとは思わなかった。」
私に大切な人が出来きた時、もしも、魔力が暴走しちゃったら、傷つけちゃうかもしれない。こんな恐ろしい力なんだもん、最悪殺してしまう事だってあるかもしれない。
「あなたは優しい子ね。大きい力を持っているからこそ、使い方を間違ってはいけないし、しっかり自分の物にしないと、自分を傷付ける事にもなる。だから一緒に練習しましょう?」
「私ちゃんと練習する!だからもう少し教えて欲しいの」
野生の生き物には、巣立ちの時期が絶対に来るから、ママがいるうちに、ちゃんとこの力を使いこなせるようにならなきゃ
ママは私を見つめてから、私の体を大きな翼で、ぎゅっと包み込んだ。
「魔力が暴走したせいで、あなたの体の中がダメージを受けているわ。だから今日はもうお休みしなさい。」
「でも!もう少しだけ練習したいの!」
「ダメ。今はママの魔力で、あなたの傷を癒しているから平気なだけよ」
(えっ?ママが癒してくれてたの気づかなかった。それにさっきママが言った、自分を傷つけることになるって、こういう事なんだ。)
「あとちょっとでいいの。ほんの少しだけ」
(自分の意思じゃなく傷つけるなんて嫌だよ)
ママは大きなため息をついて、私を、さらにぎゅっと抱き寄せる。
「ごめんなさいね。」
「えっ。ね、むぃ。」
私は唐突に強烈な眠気に誘われた。これ、絶対ママが魔力で何かやってると分かった。抵抗しようとママを見ると、とても複雑な表情をしていたので、何も言えず、そのまま目を瞑った。
次の日から、5ヶ月間ずっと魔力の訓練をする事になった。ママは何かに焦っているようで、かなり急いで教育されている。何度も、なぜそこまで焦っているのか聞いたが、毎回はぐらかされてしまう。
魔力の訓練をしてからさらに1ヶ月が過ぎ、ようやく魔力を現象として扱って良いと許可がおりた。
「最初は癒しの力を使いたいの。どうやればいい?」
癒しの力は自分にも必要だし、大切さなものができた時、その力で助けることが出来たらとても素敵な事だと思ったから、ずっと前から癒しの場所は絶対使いたいと思っていた。
「癒したいと思う物に対して魔力を飛ばしながら傷を治したいと考えるだけで良いわよ」
思ったより簡単。要はイメージと願いが合っていれば、癒しの力を使えると言う事。つまり他の力を使う時も、しっかりイメージしながら魔力を使えば、他の現象を起こせるって事か。
実験したいけど、近くに傷付いている生物が居ないなぁ。あ、自分の体を使うか!魔力を使って、自分の腕に擦り傷が出来るようにイメージする。
ザシュッ。
(痛ったぁい!ちょっと深くやり過ぎた)
すぐに癒しの力を使う為、魔力を出して、イメージして。するとみるみるうちに傷が治っていく。
「あ、やったぁ!出来たよママ!」
「えぇ、上手ね。でもね、自分を傷つけるのはおやめ。ママが悲しくなってしまうわ。」
それはそうだよね。流石のママも焦ったのか、自分に傷をつけた時、ママの魔力が少し漏れ出て、慌てたように魔力を散らしていた。少しだけ、ママの新たな一面を見れた気がする。