4.愛しい我が子 〜親視点〜
私はドラゴンの中でも上位の存在として、他のドラゴンたちから崇められている。順位としては第2位の位置を賜っている。第1位は私の夫で、夫婦2人で先祖から続く純血を守っている。我一族の血統は中々子を成せないので、子を授かるのも大変だ。
今回、夫との交尾でようやく1つの卵を授かることが出来た。実に300年ぶりの我が子だったので、夫婦で大喜びし宴を開いたくらいだ。
「これで、ようやく我が一族を増やすことが出来ますね。今から我が子に会うのが楽しみです」
「あぁ、念願の我らの子を産んでくれたこと感謝する。この子が生まれてくるまでしっかりと守ってやってくれ。本当はずっと見守っていたい所だが、私は、一族の墓を守りにまた戻らねば。」
我が夫は一族の第1位として、墓守りの役割を担っている。墓はドラゴンにとっては聖域なので、同族以外の侵入を許してはならない。それゆえ常に魔力を使って墓の場所を隠し、もし見られてしまった場合は、その命を刈り取る事で守っている。
「えぇ、あなたは戻って下さい。この子は私がしっかり育てますので、安心して墓を守っていて下さいね。」
夫が去るのを見届けてから、私は卵を温め始めた。我らの子は祖先の血を色濃く受け継いでいる。普通は卵から出た時に魔力が溢れるものなのに、我が子は卵のうちから魔力を放っていた。
(我が子ながら末恐ろしいわね。王の素質が表れているのかしら。ともかく、しっかり守らなくては)
素質のある子は人間に見つかりやすい。卵から漏れ出た魔力を嗅ぎ分けて、狡猾な人間どもは卵を盗みに来る。その為、漏れ出た魔力は、私の魔力とぶつけて相殺し、人間の目を欺かなければならない。ドラゴンの卵は雛が孵るまで1年はかかる。その間、ドラゴンは我が子からひと時も離れることはしない。
卵を温め始めてから7ヶ月経ったある日人間の気配を感じた。今の所危険はないが、気を抜くわけにはいかなかった。人間は狡猾な生き物だ。多種多様な種類の人間たちは互いに協力し、新たな技術や知識を生み出している。
そんな事を考えていると、人間にやられたであろう傷を負った氷鹿が、私の巣まで逃げてきた。見ると、数箇所から出血していた。かなりの深手を負った氷鹿が突然錯乱し、周囲を凍り付かせてきた。
私は慌てて氷鹿にテレパシーを使って止めるよう伝えたが、混乱した状態では意味がなかった。
我が子を見ると氷鹿の放った魔力のせいで、卵の温度が下がり始めていた。
よく見れば、巣の周辺も凍りついてしまっていた。
(このままでは我が子が弱ってしまう!この子を守らなければ!)
私は魔力を使い、周囲の状況を調べると、遠くから複数の人間がこちらへ向かってきていた。この巣の場所を知られる前に人間を遠ざけなければ、我が子を守れない。
「愛しい我が子、敵を遠ざけてくるから少しの間待っていてね。すぐに戻るわ」
我が子に声をかけ、近づいてくる人間のもとに向かった。人間にはドラゴンブレスで威嚇すると馬に乗って逃げていった。追い払った事を確認して、我が子の元に帰ると、巣の中から我が子がいなくなっていた。近くには人間が居たであろう痕跡が残っていたのを見てすぐに悟った。
人間の罠にかかったのだと。その結果我が子が人間に連れ去られてしまったのだと。私はすぐに行動した。
(すぐに我が子を探さねば!)
何日も何日も探したが、我が子を見つけることができなかった。私は、少しでも我が子から離れてしまった自分を責め続けていた。
我が子を失ってから、さらに5ヶ月ほどが過ぎたが、諦めきれず森の上空を飛んでいた。たまたま獲物を狩ったので、食事をしていると、人間と共に生活している同胞の気配を感じた。
(この森までやってくるのは珍しいわね、少し見に行くとしましょう)
同胞の気配が去った後、私はそこにあったものをそっと抱き寄せた。
「すぐに見つけてあげられなくてごめんなさい。おかえり愛しい我が子!」
我が子は強い。それゆえに人間の手には負えなかったのだろう。だが、その強さが功をなし、我が子が戻ってきた。嬉しさの反面とても心配した。
我が子を見つけた時には、呼吸も弱く、ぐったりとしており、魔力不足で瀕死の状態だった。上手く魔力を扱えず、自身の生命力を使っていた。その為すぐに自身の巣へと運び、魔力を我が子に注いだ。
今度こそ一度離れずひたすら魔力を注ぎ2ヶ月。ようやく我が子が目覚めた。
「愛しい私の子、ようやくお目覚めね」