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もし君が醜くなっても、愛し続ける

 僕は近くメアリ・アーナーと結婚をする。だけど、彼女がそれを本心から望んでいるのかどうかは分からない。何故なら、彼女はちょっと前までは、村で一番の金持ちの家の三男と結婚する事になっていたからだ。それが破談になってしまったのは、彼女の容姿の変化に原因があった。彼女の顔の右半分は醜くただれ、瞼は腫れて長く伸び、唇はその反対に委縮したように小さくなっている。左半分は村で一番の美人として有名だった頃のまま、とても綺麗、けど、その対比が余計に歪さを強調し、憐みを喚起させた。

 そう。

 少し前までは、彼女はとても美人だったのだ。金持ちの三男が彼女を見初めたのもだからだった。ところがその所為で誰かの妬みや悋気を買ったのか、ある日彼女は呪われ、そんな醜い容姿になってしまったのだった。

 

 メアリと僕は幼馴染だ。彼女は姿形だけじゃなく性格も良い。ちょっといたずら好きだけど、それも含めて魅力的だ。小さい頃からよく一緒に遊んでいて、思春期を過ぎても仲が良かった。僕はそんなメアリをとても愛していたし、彼女もそれは同じであるはずだった。

 ――でも、それは僕の一方的な思い込みだったのかもしれない。

 ある日、彼女が金持ちの三男から見初められたと分かると、彼女は僕とは会ってくれなくなってしまったのだ。結婚相手の財産に目が眩んだ彼女の父親が、彼女に他の男を近づけさせないようにしているという噂を聞いた。

 「そんなのってない!」

 いくら何でも理不尽だと僕は思った。だから僕は彼女とこっそり会おうと、彼女の家の裏手から彼女の部屋を訪ねたのだ。でも、やっぱり彼女は会ってくれなかった。

 「帰って」と訴える彼女に、僕は窓越しに話しかける。

 「あの金持ちの息子は、君の姿を気に入っただけだよ。金持ちの家なら、そりゃ贅沢はできるだろうけど、堅苦しいし、それにきっと貧乏人の家の娘だって馬鹿にされる。あの息子は君を守ってはくれない。

 でも、僕なら違う。僕は君の姿形だけを愛したのじゃない。もし君が醜くなっても、愛し続ける!」

 それはほとんどプロポーズだった。それくらい僕も必死だったんだ。早くしないと彼女は奴と結婚してしまう。

 でも、駄目だった。彼女は「帰って」としか言わなかった。そしてそれからしばらくが経って、彼女は呪われてしまったのだ。

 

 村一番の美人が、村一番の醜女になってしまった。メアリの親は落胆し、「金持ちになれるどころか、これじゃ、嫁の貰い手も見つからない」と嘆いていた。

 彼女は酷く落ち込み、傷ついているだろう。何しろ、彼女が悪い訳でもないのに、実の親から理不尽に罵られているのだ。だから僕はそれを聞いて即座に彼女の家に結婚を申し込んだのだった。

 

 結婚式は明日だった。

 だけど、村のしきたりで、既に彼女は僕の家に来ていた。初夜。ランプの薄明りに照らされた部屋の中、彼女は静かにベッドの前に佇んでいた。

 ――まだ、彼女の本音は聞けていない。

 僕が近付くと彼女は言った。

 「キスをして」

 僕は頷く。

 薄明りに照らされた彼女の顔。わざとなのか偶然なのかは分からなかったけど、彼女は僕に醜い部分をさらしていた。

 もちろん僕は気にしない。

 僕はそのまま躊躇せずにキスをした。初めて味わう彼女の唇だ。たっぷりと楽しんでやる。僕が舌を入れると彼女はちょっと驚いていたけど、少しの間の後、彼女の方からも強く僕の唇を吸ってきた。

 そして、

 「フフフ」

 と笑って彼女は俯いたのだった。可笑しそうに。

 須臾の間、僕は彼女が自暴自棄になって笑ったのかと思った。ところがそれから直ぐに僕を見上げた彼女の顔を見て、僕は驚いてしまったのだった。

 何故なら、彼女の顔が、元の美しい顔に戻っていたからだ。

 「何を驚いているの?」

 彼女はいたずらっぽく言う。

 「王子様のキスで、悪い魔女の呪いが解けるのなんて常識でしょう?」

 幼い頃から知っている、可愛いいたずらが上手くいった時の彼女の嬉しそうな表情。

 「ど、どうして?」

 戸惑う僕に彼女は言った。

 「あなたが私の家を訪ねて来てくれた後に思い付いたのよ。あのお金持ちのおぼっちゃんは、私の容姿を好きになった。なら、醜くなってしまえば向こうから断って来るって。それでそれから私は自分自身に呪いをかけたのよ」

 まだ僕は戸惑っていた。

 「でも、折角、金持ちと結婚できるはずだったのに……」

 「あら? あなたが言ったのよ。金持ちの家に嫁いだって、堅苦しいし、それにきっと貧乏人の家の娘だって馬鹿にされる。多分、彼も庇ってくれないしね。ま、お金はちょっと欲しかったけど」

 「親父さんは怒るのじゃないの?」

 「大丈夫。手切れ金をたんまり貰ったから、文句は言わせないわ。向こうから“結婚したい”って言って来たんだからそれくらい貰って当然よね」

 それを聞いて僕は大きくため息をついた。

 「つまり、あのぼっちゃんを騙したのかい?」

 彼女はにっこりと笑う。いたずらっぽく。

 「だから、“悪い魔女の呪い”って言ったでしょう?

 もし、知られたら怒るかもしれないけど、言わなければ誰にもバレないわ。私があなたと結婚して呪いが解けたって事にすれば良いのだし。金持ちと結婚する私を妬んでいた誰かの気が晴れたのね」

 それから彼女は僕に抱き付いてきた。

 「ありがとう。嬉しかった。あなたなら、私が醜くなっても、きっと愛してくれるって思っていた」

 それからベッドに倒れ込む。

 あまりに衝撃的な事があり過ぎて忘れていた。そういえば、初夜だったんだ。僕は彼女の美しい顔に改めてキスをした。

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