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貧乏令嬢は呪いの伯爵と結婚したい  作者: 海野はな


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7.伯爵家一日目

主人公エレナ視点に戻ります。

視点の指定がない場合はエレナ視点で進みます。

「おはようございます。朝食をお持ちしました」


 その声で飛び起きた。ふかふかの布団が気持ち良すぎて、伯爵家生活初日だというのに、いきなり寝過ごしてしまったらしい。


「おはようございます、アリー」


 いい匂いが漂ってくる。

 ぐーっと伸びをして起き上がると、もうそこにアリーはいなかった。広い伯爵家だ。使用人たちも忙しいのだろう。


 今日の朝食はなんだろう。机に目を向けると、お盆に乗った一人分の朝食が置いてあった。

 パンにミルク、スープ、ウインナー!

 もう一度言う。ウインナー!


 ゴクリと喉がなる。子爵家ではミルクは牛やヤギがいたので飲めたけれど、ウインナーは滅多に食べられなかった。


 まずは顔を洗って口をすすがなくちゃと、すぐに食らいつきたい気持ちをなんとか抑えてクローゼットに向かう。子爵家にいた時であれば起きたまま水場に行っていたけれど、ここでは夜着のままうろつくのは良くないかもしれない。軽く髪を整えて持ってきた普段着に着替え、部屋を出た。


 水場はどこだろう?


 廊下に出てみたところで、場所がよくわからないことに気が付いた。何となくこっちかしらと歩いてみると、使用人らしき人が前方に見えた。


「あの、すいませーん。水場はどこでしょうか?」

「水場ですか? ええと、こっちです。ついてきてください」


 彼女は親切にも案内してくれた。その間にも、わたしは道順を覚えるのに必死だ。戻れなくなって迷子になったら笑えない。


「助かりました、ありがとうございます」


 水場についてお礼を述べると、顔を洗って口をすすぎ、部屋にもどる。


 えっと、こっちからきたよね。

 ほんと広い。地図がほしくなる。そんなものがあるのか知らないし、あったとしても防衛上よろしくないので簡単にもらえるとは思えないけれど。


 なんとか間違えずに戻れそうだ。

 ウインナー、ウインナー!

 楽しみで鼻歌が出そうになりながら部屋の扉を開けると……。


 ……ない?


 机の上にあったはずの朝食が綺麗さっぱりなくなっていた。代わりに水だけは置いてある。


 ないないない、ないっ?

 わたしのウインナーが、ない?


 慌ててベルを鳴らすと、しばらくしてアリーが入ってきた。


「お呼びでしょうか?」

「あの、わたくしの朝食は?」

「召し上がらないようでしたので下げました。全く手がつけられていませんでしたので、使用人たちでいただいているところだと思います」


 そ、そんな。

 わたしのウインナーが……。

 もう、絶望に打ちひしがれて崩れそうだ。ウインナー……。


「他に御用がなければ失礼します」

「あ、待って。今日の予定を教えてくださる?」


 ウインナーをなんとか頭の片隅に追いやって、必要な事を聞いた。婚約解消されずにここに残るために、わたしは足掻かなければならないのだ。与えられる仕事があるのならば、こなして役に立ちたい。


「予定ですか? 特にありませんけれど」

「何も?」

「何もございません」


 一応婚約者となったのだから、伯爵のお世話をしたり食事を一緒に取ったりするかと思ったけれど、そういったことは一切ないらしい。そういえば伯爵からも「好きに過ごしてもらってかまわない」と言われたことを思い出した。


「それならば、何かお手伝いできることはあるかしら?」

「手伝いですか?」

「何でもいいわよ。掃除でも洗濯でも、草むしりでも」

「えっ?」


 アリーがわたしを上から下までジロジロと見た。貧乏子爵家出身とはいえ、彼女から見ればわたしは貴族のご令嬢なのかもしれない。上流階級のご令嬢は掃除なんてしないのだろうけれど、わたしはそうじゃない。


 実家である子爵家の教育方針は「全員が戦力。何でもできるようにならなければ子爵家が潰れるぞ」である。その教育の賜物で、わたしは掃除洗濯料理などの家事全般から、帳簿やら文書の作成などの執務も、一通り何でもできるように育った。なかなかハードな日々だったけれど、とても役に立ちそうだ。ありがとう、お父様、お母様。


「それではお願いしてもいいでしょうか。館の広さの割に使用人が少ないので、仕事はたくさんあるのです」

「任せてちょうだい」



 連れてこられたのは温かみのある広い部屋だった。ライブラリーだろうか、そう呼ぶほどには本が多いわけではないが本棚があって、暖炉もある。もしかしたら、以前は家族団らんに使うような部屋だったのかもしれない。


 アリーは掃除の説明をざっと済ませると、別の仕事があるからと出ていってしまった。

 任された仕事はしっかりこなすべし。


「よしっ」


 気合を入れると、まずは口元を布で覆った。ざっと見た限りでも、しばらく使われていない部屋だということがわかる。埃を浴びそうだ。掃除用具を取りに行き、水や雑巾、脚立を持ってきたら準備完了。


 掃除の基本は上から下へ。天井が高いので、脚立を使ってもまだ上の方には手が届かない。手作業で掃除をしようと思っていたけれど、風魔術を使うことにした。バーッと風を起こして埃を飛ばす。このとき大事なのは、風の強さと向きだ。ただ飛ばすだけじゃなくて、一か所に集めるようにしなければいけない。失敗すると飛んだ埃で結局部屋が汚れてしまうから。


 年季の入った埃のようだったので、少し強めの風を出すと、シャンデリアがしゃらしゃらと揺れた。危ない危ない。埃と一緒にシャンデリアまで落としてしまったら大変だ。わたしには賠償金が払えない。


 埃とゴミを床に集めると、あとは箒とちりとりで丁寧に取って捨てた。

 次に拭き掃除。脚立に乗っても届かないところはあっさり諦めた。どうせその場所に関しては誰にも見えないのだ。意地になってそこを綺麗にするよりは、その時間を別のところの掃除に回した方がいい。

 見えるところの汚れと、暖炉の周りや窓を丁寧に拭いていく。


 うん、だいぶ綺麗になった。


 窓を開けて新鮮な空気を入れながら、残った小物たちを拭く。とても神経を使う作業だ。なにせ、美しい模様のコップも、何だかよくわからない置物も、とにかく何もかもが高そうなのだ。傷をつけたら大変。


 こんなにあるんだから、一つくらいくれないかな。そうすれば、子爵家のシャンデリアが直せるだろう。

 そんな不純なことを考えながら拭いていると、カタッと扉の開く音がした。

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