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貧乏令嬢は呪いの伯爵と結婚したい  作者: 海野はな


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48.仕込まれた毒

 柔らかい音楽に包まれながら、パーティーは進む。ダンスやイベントがあるわけではないので、各々話したい人と話しながら優雅に料理を食べたり軽くお酒を飲んだりしている。


「殿下はすごい人気ですね」

「まぁ、殿下を目当てに来た人達だからな。俺たちは飾りだ」


 この家の主が飾りって……と思わなくもないけれど、実際にそうなのだから仕方がない。若い女性に話しかけられたと思ったら、次は男性に話しかけられている。老若男女問わず大人気だ。

 

 わたしとブルーノはしばらく二人で一緒にお客様たちのところを回り、料理や飲み物を勧めながらちょっとした話から取り引きに関わる件までいろいろな話をした。普段多くの人と話すことがないので、新鮮で楽しい。


 パーティーもしばらく進んだころ、ある男性と話していると、その男性はチラチラとわたしを見てきた。どうやらブルーノと話がしたいらしい。わたしは邪魔なようだ。


「ブルーノ様、わたくし飲み物を取りに行ってまいりますね」

「あぁ」


 男性にお辞儀をするとわたしはその場を離れた。壁際で飲み物を選んでいると、殿下が一人で歩いてきた。殿下に目線を送っている人がまだいるから、どうやらさりげなく振り切ってきたらしい。休憩だろうか。


「何かお飲みになりますか?」

「いや、いい。むしろ昼からずっと話して飲んでの繰り返しで、お腹がたぽたぽになっちゃってるよ。エレナはちゃんと食べてる?」

「わたくしは今日は胸が苦しくて」

「えっ?」


 殿下が急に目を丸くしたので、わたしも一緒に驚いた。


「何かブルーノに言われたの?」

「え?」

「胸が苦しいって……」

「あっ、違います。物理的に、あの、服がきつくて。普段あまりこのように着飾ることがないので。言い方を間違えましたね。あまり食べられていないけれど大丈夫だと伝えたかったのです」


 殿下はもう一度目を丸くしてから笑い出した。


「なんだ、ブルーノがまた何かしでかしたのかと思ったよ」

「何もないですよ」

「何もない? いや、それはそれで問題なんだけど。あの意気地なし。引き止めたいならちゃんと言葉にしろって言ったんだけどな。ところで、ブルーノは?」

「あちらに。あの、お客様がブルーノ様と二人でお話したいようだったので、わたしはちょっと抜けてきたのです」


 放置されているわけじゃないよ、とアピールしておく。


「こういうパーティーには若いご令嬢を連れてくる人がけっこういるんだけどさ、今日は少なくて助かるよ。俺に妻がいるのを知ってるのに売りこまれても、どうしていいのかわからないよね」

「それは大変ですね」


 いつもはそのご令嬢たちに囲まれるらしい。今日も囲まれているけれど、殿下によればだいぶ少ないそうだ。呪いの伯爵に見初められたら大変だとでも思っているのだろうか。それとも呪いの伯爵の館に入るのは戸惑ったのか。


 殿下ならば妾だって持ち放題だろうに、その気はないらしい。会話している中だけでも、妃殿下しか見えてないのがよくわかる。


 殿下の横にいるというだけで、わたしには視線が集まってくる。思わず苦笑した。


「少ないとおっしゃいますけれど、わたくし、いろいろな方から嫉妬の視線を感じます」

「俺はブルーノからの視線を感じるよ」

「え?」


 わたしがブルーノを見ると、たしかに彼はこちらを向いていた。そしてツカツカと歩いてきた。


「もしかして、俺すごい嫉妬されたかな?」

「違うと思います」


 ブルーノはそのままわたしのところへ来ると、まるで周りからわたしを隠すように目の前に立った。ちょっといつもより距離が近い。隣にいた殿下が二ヨッとした顔をしている。


「ど、どうかしましたか?」

「あれ、俺邪魔みた……」

「殿下」


 ブルーノが小さな声でチラッとだけ殿下に目線を送ると、ニヤッと顔が一気に引っ込んだ。


「エレナ、そのまま何食わぬ顔で聞いてほしい。君はほとんど食べていないな?」


 ブルーノの小声が降ってくる。

 いきなり何だろうと思ったけれど、実際にあまり食べていないので小さく頷いた。


「ボラピを覚えているな?」


 わたしが倒れた毒草のことだ。忘れるわけがない。


「あれが料理のどれかに仕込まれていた」

「えっ?」


 一瞬驚いてしまったけれど、何食わぬ顔で、と言われたのを思い出して、平常心なように装う。


「ブルーノ様は?」

「軽く痺れているが、問題ない」


 わたしが苦しくて食べられないと知って、ブルーノはお客様に振る舞う時のルールとして毒見として食べて見せていたはずだ。それを何度もやっていたのだから、問題ないわけがないだろう。


「痺れ具合からして、成長したボラピを使ったのだろう。この量であれば危険な状態にはならないと思われるが、エレナ、解毒薬を作れるか?」


 ボラピは神経に作用する毒だ。わたしが食べたものは成長前の小さいもので、一緒に魔力不足も起こしていたので倒れたが、成長したボラピの毒性は弱いとブルーノに教わった。一時的に身体が動きにくくなるが、大抵の場合徐々に抜けていく。


 わたしは頷いた。レシピの場所はわかっているし、一緒に作ったこともある。問題ない。


「ここにいる誰がどの程度食べたかわからない。多めに作って持ってきてほしい」

「わかりました」

「俺はここを離れられない。ヴィムを連れていけ。君がある程度強いことは知っているが、どこかにこれを仕込んだ者が潜んでいるかもしれない。充分に気を付けてくれ」


 料理が下げられ、代わりにデザートが置かれていく。そろそろ食事時間はお終いの頃合いなので、ちょうどよかった。

 わたしはなるべく不自然にならないようにホールから出た。ヴィムと共にまずは薬草の茂っている温室へ向かう。


 お客様はほとんどがホールにいるので、ホール以外の館の中は静かだ。時折使用人がパタパタと走っている以外、怪しい人影はない。裏口から外に出る。もうすっかり暗い。温室までは特に何事もなく、すんなりと到着した。


「エレナ様、温室には結界が」

「大丈夫よ、ヴィム」


 わたしは結界に手をかざした。術は以前ブルーノとここに来た時に見た。あの時は偶然見てしまった程度で、こんな形で役に立つとは思わなかった。魔力を込めて術を構築すると、結界は簡単に外れた。


 夜の温室内は暗い。軽く灯りを灯して目当ての薬草を摘み、急いで離れに向かった。


 冬の離宮は枯れたツタに覆われていて物寂しく、暗さもあって不気味だ。今までここを怖いと思ったことはなかったけれど、今日は少しだけ怖いと思った。


 中に入るとわたしはすぐに調合を始めた。ドレスが動きにくいけれど脱いでいる暇はないし、また会場に戻ることを考えると仕方がない。


「ヴィム、これを刻んでくれる?」

「俺がやっていいんですか?」

「なるべく細かくお願い」


 忙しい時には空いてる手は猫の手でも使うと決まっている。ヴィムはひたすら薬草を刻み、わたしは魔力を込めながら練った。こうして作っていると、ブルーノの手際の良さが思い出される。調合に関しては、彼は一切の無駄がない。執務に関してはどうしてそうなるのかというところがたまにあるが。


 練って材料を入れて練って刻んだ薬草を入れてまた練った。


「……できた」


 わたしにしては最速である。

 普段ならば小瓶に詰めるけれど、厨房で飲み物のグラスに入れて出す方が早い。できた解毒薬を大きな瓶にひとまとめに入れ、調合室を飛び出そうとした瞬間だった。

 誰かがこの離れに入ってきた音がした。パタパタとこちらに走ってくる。足音からしてたぶん女性で、一人だけのようだ。ヴィムが警戒してわたしを庇うように後ろに隠した。


「エレナ様っ」


 入ってきたのはアリーだった。

 わたしとヴィムはホッと息を吐く。


「なんだ、アリーか。どうかしたの?」

「ブルーノ様が、ブルーノ様がっ、刺されました」


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