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貧乏令嬢は呪いの伯爵と結婚したい  作者: 海野はな


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19/65

19.執務手伝い

 翌日の午前中、マリーによるマナー講座を受けたあとで、わたしは約束どおり執務室に向かった。執務室は本邸の一階にあった。ずっと離れにいると思い込んでいた伯爵は、実は日中は本邸の執務室にいることも多いと初めて知った。


 アリーが入室許可を求めると、中から「どうぞ」と声がした。


「失礼します」


 アリーに促されて中に入ると、そこは当主の執務室として重厚な雰囲気はありつつ、でもどちらかといえばこてこてした装飾も多くはなくて、思ったよりはシンプルな部屋だった。

 奥に大きな机と椅子があり、伯爵はその椅子に座って書類を見ていた。同じ部屋の中、少し離れたところにある机にヨハネスがいる。


「伯爵さま、おはようございます」

「おはよう。本当に来たのか」

「それは当然ではありませんか、お約束しましたもの。でも、わたくし、ここに入ってよろしいのですか?」


 当主の執務室といえば、当主とそれに近しい人が執務をする場所だ。実家の貧乏子爵家は家族経営のようなものだったので父である当主の執務室にも普通に出入りしたが、領の機密情報もあるに違いない。まだ婚約者に過ぎないわたしを入れていい場所ではないような気がした。


「かまわない。ただし、あちらの本棚の資料は許可なく触れると弾かれるようになっているから気を付けろ」


 伯爵は離れたところにある、ひとつだけ扉のついた本棚を指差した。あそこに入っている資料は領の重要なことが書かれているのだろう。大きく頷いて「わかりました」と答える。


「それ以外は好きにしてもらって問題ない。本も読んでいい」


 伯爵の机の前にはソファと低めの机があって、その横には大きな机と椅子。片側の壁際には本棚が並んでいて、本や資料がびっしりと入っている。


「君の机もいずれ用意するつもりだが、ひとまずそこに座ってくれるか」


 大きな机の一角を指差すと、アリーが椅子を引いてくれた。伯爵の目配せを見て、アリーは「では失礼します」と部屋を出ていった。彼女は朝からこの執務室に入って伯爵に会うことを楽しみにしていた。満足できただろうか。


「今日はこれをお願いしたい。わからないことは俺かヨハネスに聞いてくれ」

「わかりました」


 渡された用紙を見る限り、領内の一区域の経済状況を記したもののようだ。おかしなところがないか、計算に間違いがないか、ひとつひとつ確認していく。

 こちらの税率などに慣れていないため、いちいち確認しなければならないので時間がかかるが、その仕事自体は実家でもずっとやっていたので問題はない。


 なるべく丁寧に見てから、伯爵に持っていく。


「終わりました」

「もう終わったのか?」

「はい。ここの計算がおかしかったので、直しておきました。それ以外は問題ないと思います」

「ほぅ……間違いはないようだ」


 ホッと息を吐く。とりあえず、このくらいなら任せても大丈夫と思ってもらえていれば、今日のところは大成功だ。


「では、こちらも頼めるか?」

「もちろんです」


 同じような仕事をもらった。

 気を利かせて簡単な仕事を用意してくれたのだろう。わたしでもできるかもしれないという初歩的なもので、領内のお勉強にもなって、かつ、領内の深いところまでは知らせないような仕事を選んでくれたようだ。これを探すのにも手間を掛けさせたに違いない。


 ついでにたぶん、伯爵やヨハネスはこの計算間違いにも最初から気が付いている。わたしがどこまでできるか見ているのだろう。心してかからねば。


「終わりました」

「……速いな」


 伯爵は書類をめくりながら確かめると、ふむ、と頷いた。


「問題ないようだ。君は、これをどこで学んだ?」

「学んだというほどではないのですが、子爵家では人手が足りませんでしたので、家族総出で仕事していました。小さい頃からできることは何でも、という感じでしたね」

「そうか」


 伯爵は顎に手を当てて考えてから、もう一度、ふむ、と頷いた。


「すまない、君がこれだけできると思っていなかったから、今日はここまでしか用意していないんだ。もしできれば明日同じ時間にまた来てくれるか?」

「もちろんです」


 わたしとしては少なすぎてあまり仕事をした気がしないが、わたしに仕事を与える、という仕事を増やさないために、今日は早めに引き下がる方がいいだろう。挨拶をして下がろうとすると、伯爵に引き止められた。


「なんでしょうか、伯爵さま?」

「皆、俺のことをブルーノと呼ぶ」


 ……ん?

 一瞬よくわからなかったが、それから伯爵は何も言葉を発さずにじっとわたしを見ている。なんだ?


「では、わたくしもそう呼ばせて頂いていいでしょうか、ブルーノ様?」


 伯爵は満足したというように頷いた。

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