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1 宮中での事件

異世界本編に入ります。

「……殿下、伏せて!」


 唐突に突き出された閃光を前にしても、日頃から鍛えていたオリヴィアの身体はよく動いた。


 横にいた王太子イワンと暗殺者との間に素早く身を割り込ませると、背中でイワンを背後へと押しやる。


 防御の結界が仕込まれたオリヴィアの紅玉のネックレスが輝き、暗殺者が魔杖から放った禍々しい魔術光を結界の力で霧散させていく。


 咄嗟のことに判断ができず、茫然と立っていたイワンは、「う、わ、わ」と間の抜けた声を漏らしながら尻餅をついた。


 背中が大理石の床についた後で、あわてて胸につけていた大型勲章を模した防御結界を起動させる。

 

 オリヴィアの結界よりも強く大きなその光は一気に広がり、オリヴィアの背後から彼女を襲った。

 

 王族の持つ物理的にも魔力的にも強固な防御結界は、オリヴィアの張った結界を削り、効果を弱体化させた。暗殺者の凶悪な魔光がまだ完全には打ち消されていないうちにである。


 王太子の結界によってオリヴィアは昏い輝きの渦へと押し込まれた。


「くっ!」 


 とっさにオリヴィアは自らに魔術結界をはるが、一瞬で魔光は彼女を包み込み、意識を失ったオリヴィアはそのまま倒れた。


 直後、暗殺者は騎士たちの剣を三本腹に生やして絶命した。


 王太子謁見の儀のさなか、突如はじまった暗殺劇。


 唐突に次々と輝いたいくつもの魔術光に圧倒されていた貴族たちも、ここまで来れば悲鳴を上げる余裕も生まれる。


 騎士たちは即座に彼らを落ち着かせ別室への避難誘導をはじめた。後で彼らも取り調べる必要がある。


「王太子殿下、ご無事でしたかっ!」


 危機的状況が一旦去ったところで、慌ただしく乱れた足音をたて駆けつけてきた侍従たちが王太子を囲む。


 筆頭侍従のジョンは、倒れたオリヴィアを背にして、彼女がイワンの目に入らないようかがみ込み、心配そうな声を張り上げた。


 ようやく半身を起こした王太子は頭を軽く振った。


「問題ない。犯人は?」


「ご安心くださいませ。既に無力化いたしました」


 武官侍従のひとり、騎士団長の子であるヨハンが、剣を片手に周囲を警戒しながら叫ぶ。あとを受けてジョンが補足した。


「宮廷魔術師と騎士どもが果敢に立ち向かい、犯人を即座に処断いたしました。彼らをお褒め頂けますか?」


「そうか、良くやったと伝えてくれ。いてて、腰が痛いな」


「さ、どうぞ。お手をお取りください」


 ジョンの手を借りながら王太子は立ち上がった。


 ジョンは王太子が立ち上がると、背筋をただしてあたりを見回し、「魔術師たち、そして騎士たちよ! 殿下が、良くやったとお褒めである!」と叫んだ。


 貴族たちの避難誘導を続けている騎士たちは歓呼の叫びを一声してジョンに応えた。会場を出ていく貴族たちも笑顔を見せ拍手で(ねぎら)う。


「ささ、まだ伏兵がいるやもしれません。何よりここは血で汚れました。

 殿下にふさわしい場所ではございません。

 詳細がわかるのは宮廷魔術師どもの現場検分ののちでしょう。あちらでお休みください」


「そうだな。あぁ、オリヴィアは無事か」


 イワンがそう問うと、ジョンはあからさまに顔を(しか)めた。


「殿下を尻で押し、このような場で御身を転がすなど。

 畏れながら私見を言わせて頂きますと、私は殿下を辱める行為じゃないかと感じました。

 犯人の使ったあれがどのような魔術であるかはまだわかりませんが、殿下の結界を破るほどのものとは思いませぬな。

 しかも、勢い余って自ら犯人の魔光に飛び込むとは!」


 ジョンに追従するように別の侍従がしかつめ顔で語る。


「オリヴィア様がもうすぐ妃殿下になられるなんて、今からフォローに頭が痛いですね」


「彼女も十八か。私の横に立つ者として、もう少しお(しと)やかになって欲しかったのだがなぁ」


 そう言いつつ苦笑いを浮かべた王太子は、ジョンに腰を支えられながら会場を後にした。


 侍従たちも後ろに付き従い退出した。


 しばらくして、倒れたまま目を覚まさぬオリヴィアを騎士たちが気にかけ謁見の間から運び出し、そのままシュッドコリーヌ侯爵家の馬車へと乗せた。


 オリヴィア・シュッドコリーヌはその後一月以上目を覚ますことはなく、王太子イワンの婚約者として公の舞台に立ったのは、これが最後となった。

お読みいただき有難うございました。


✴︎漢字変換、表現の用法は意図したものである場合があります。

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