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わだかまりの雨上がり

 そこへ、身支度を整えたおタマがリビングへ入ってきた。

 

「……お母さん、やめてよ! 恥ずかしいッッ!!」


 ありゃ、まだ反抗期なのかや? すると、アネやんが、


「あらっ、恥ずかしいことではないわよ。誰のためにお弁当を作ってるのよ。作りもしない人間がそんな口を聞くもんじゃないわっ」


「……」

 

 見兼ねた私は、

「まぁまぁ、アネやん! 同性同士だとキツく言い合っちゃうこともあるんさ。きっと本心では嬉しく思ってるはずだよ、おタマも。ついつい言っちゃうんだよね、んねっ」


「……柏木さんっ、……ごめんなさいっ」

 ガバっとゆかに土下座をした。


「やめてっ!」


 私はすぐにおタマの肩を持ち、立ち上げさせ、目線を同じに合わせて話をした。


「日本建築科との試合でめちゃくちゃ頑張ってたから、疲れてたんだよ。偶々疲れ(・・)からよろけてしまって、サリリンにぶつかってしまったんだよ、仕方ないじゃないかっ! ただ、ぶつかってしまったのは事実で起きたことだから、そのことについて謝ってくれたのは、もう十分わかったから。だから、土下座なんかしないで!!」


「……っ柏木さんっ、……うっ……うっ」


「それからさ、……まだあるよね?」


 コクリと頷き、

「紗里にも、ずっと嫌がらせをっ……ごめんなさいっ。私、中学校の頃、美術部だったけど、一度も入賞したことがなくて。立派な盾と賞状が羨ましかった……。紗里は私がいなきゃダメだと思ってて、でも私なんかよりも本当は凄くて……悔しくて」


 するとサリリンは悲しそうな顔をしながらも、

「うん、……もう、いいよ。謝ってくれたから、もういい。……気持ちは分かるから。私も中学校の頃、友だちばかりが凄い賞を取ってて、悔しくて。……だから、だから私はずっと、デッサンを頑張ってるの。しょっ中、描いて描いて、描きまくってるんだ! 美術部で先生にもアドバイス貰ったりして、自主デッサンをずっと続けてるの」


 それを聞いて驚いた吉乃が、

「美術部の活動に自主デッサンって……凄いね、サリリン。悔しさをバネに徹底的に基本に戻って頑張ってるんだ……。知らなかったよ」


「中学時代ずっと、ものすっごく悔しい日々を送っていたから、私! 結構負けず嫌いだったみたいで(笑) だから、何かをしていないと気持ち的にダメになってしまいそうで、それでデッサンに戻ったの。その習慣をずっと続けてるの。良かったら、典ちゃんも一緒にやらない?」


 すかさず私は、

「あー……おタマ、それがいいよ。あんたの天の川祭りポスター、チラッと見たけどさ。適当感満載なのが丸分かりだったで? 審査員素人の私が見ても分かったもん。あれはないわぁー」


「……だって、頑張っても選ばれないもん。……それに描き直しばかりで、竹内先生は何も言ってくれないし」


「あーおタケはそこを分かってるから、何も言わないんだよ。適当にやってるのはすぐに見抜くからね、ヤツは。本人が気づくまで言わないっていう……怒らないけど、かなり厳しい面を持ってるんだよ。それにさっきも言ったけど、最初から諦めたらそこで終わりなんだよ。やってもないのに、結果は分からないでしょう? 努力に無駄はなくて、時間をかけた後に結果が見えるんだよ。サリリンみたいに継続は力なりで、続けていくことが大事なんじゃない? 私たちはまだまだひよっ子だし、やるっきゃないじゃん。選ばれたかったら!」


「……うん。……紗里と一緒にやってみようかな。……良いかな?」


「もちろん! 一緒にやろう、嬉しいっ」

 やっと和解できた嬉しさからか、サリリンはポロポロと泣き始め、吉乃が背中を摩ってあげていた。

 良かった……そう思うと同時に、私は、


「あとさ、おタマ。もうひとつ、あるよね」


「えっ?……あと、何が……」


「お母さん」


「……」


「おタマさ、もういい加減、反抗期を卒業しな。甘えすぎだよ、お母さんに。良いお母さんじゃない、大事にしなきゃ……。心配かけたこと、土下座をさせてしまったこと、諸々を謝るべきなのでは?」


「……」

 お母さん、座り直してピシッとしてる。子どもの話を真っ直ぐに向き合って聞こうとしてくれるお母さんって中々いないと思う。少し緊張されてて可愛らしいお母さんだ。


「…………お母さん。心配をかけて、……土下座までさせてしまって、…………ごめんなさいっ」


「……うん、……っうん。典ちゃんに、……こんな素敵なお友だちがいてくれて、お母さん、嬉しいっ。良いお友だちと出会えたことに感謝して、これから大事にしなさいね。……皆さん、ありがとうっ」

 泣かれてしまったが、凄く嬉しそうにして下さってる。良かった。


 正午を過ぎていたため、お母さんがお手製のパスタを作ってくれたと言うことで、みんなでご馳走になった。超濃厚、極旨ボロネーゼだった。麺もお母さん手作りの自家製麺だっ! 凄いよね〜‼︎


「今日の明け方にね、たまたまパスタの手打ちをしていたのよ。考え事とか何かあるとね、私、無心でパスタの手打ちをしちゃうのよね。生パスタで手作りの麺だから、少し食べにくいかもしれないけど、皆さんでどうぞ♪」


「「「「「いっただきまーす♫」」」」」

 それぞれ口に運び、歓喜の唸り声を上げた。そして、アネやんがまたもや素早く反応した。


「もっちもちの生パスタに、ソースが絶妙に絡まって、こんなに美味しいボロネーゼ、あたし初めて食べたわ! お母さん、とっても美味しいですっ」


「まぁ、三谷くん、ありがとう♫ みんなのお口にも合えば嬉しいわ」


 すかさず私も、

「おタマ、いーなー! いっつもこんな美味しいご飯を食べられてー。麺から作れるお母さんて、本当に凄いよ! (うらや)まだよ、羨ま!」


「……うん。……ごめん」


「えっ⁈ 何がっ?」


「……知らなかったの。ご両親が亡くなられているなんて。……それなのに私は甘えてて……」


「あーそのこと! うん、アネやんもね、両親と妹の伽耶ちゃんを私と同じく、交通事故で亡くしてるんだよ」


「えっ⁈ ……三谷くんも?」

 

「そうよ〜。今はお祖母ちゃんと暮らしてて、絲はお祖父ちゃんと暮らしてるのよ。そんなのね、クラスメイトっていう関係だけで分かる訳がないわよ。だから、おタマ、謝らなくても良いのよ。親に甘えるのは当然じゃない! でも甘え過ぎは控えなきゃね。それに私たちは不幸じゃないし、今は絲もあたしも笑いながら、幸せに過ごしてるから気にしないで接してくれると嬉しいわ」


「うちのお祖父ちゃんもねー、中華料理を作るのうまいんだよ! 本格的でさー、お祖父ちゃんのエビチリが一番大好きなんだっ♫」


「そうなんだ。……今度、お祖父ちゃんのエビチリ、食べてみたいな。いつか、行ってもいい?」


「もちろん! 言っとくわー! 喜ぶよ、ジィジが!」


「幸さん、若い子連れて行ったら、10人前とか大量に張り切って作っちゃいそうよねっww」


「それはあるかもっ! アネやんは経験済みだからね(笑)」

 

 それから、みんなでいろんな話をたくさんして、ギャーギャー騒ぎながらだったけど楽しい時間を過ごした。長居し過ぎて、日も傾きかけていたから、そろそろお暇をしようということになった。玄関先で私は、


「また明日、学校でね! ちゃんと来るんやでぇ〜」


「分かってるよっ!」


「欠席者いると、高級アイスが食べられないからねぇ。休んだらあかんでぇ〜。食べ物の恨みは怖いんやでぇ〜」


「……あんたさ、もしかしてアイスが食べたくて説得しにきた訳?」

 

 わざとらしく動揺した姿を見せながら、

「しっ心配だったに決まってるやんけっ。そっそんな訳ないだわよっ」


「っブハッ! 何、そのわざとらしい態度っ(笑) 柏木さんって、なんか最初のイメージと全く違って面白いねっ! クールでツンとして冷めた人かと思いきや、怒ったらめちゃめちゃ怖くてさ、最初! 冗談や軽口を叩くような人には全く見えなかったよ」


「そう? それはクールビューティーだから仕方ないのかもねっ! ブフォww 自分で言ってて笑っちゃったよ。まぁ、冗談はさておき、……待ってるね! それからさー、柏木さんじゃなくて、絲って呼んでよ! 柏木さんとか距離を感じるわ〜」

「じゃあ、あたしはアネやんで!」

「私は吉乃っちで!」

「ならば、私はサリリンで!」

 

 リズム良く、軽快に発言していったその様を全員で顔を見合わせ笑い合った。思わず私は、

「なして、号令を掛けるようにみんな連続で言うのかねっ。『ならば』ってサリリン、ウケるわ! 武士かっ(笑)」


 するとおタマも、

「アハハハ、本当にね! 絲、アネやん、吉乃っち、そしてサリリン。今日は来てくれて、本当にありがとう」


「うん! これから一緒に学校生活を楽しもうね! またね」


「ありがとう、絲。うん、また! 月曜日からよろしくね」


 この解決方法が正しかったのかは、時間をかけてでしかわからない。何が正解なのか、不明瞭で険しい人生の道だけど、今朝までの土砂降りの雨道を歩いているかのような重苦しい気持ちは、いつしか乾いたアスファルトの上を足取り軽く前へ進むような気持ちへと変わり、それぞれが喜びと嬉しさに満ちていったのは確かだった。

読んで下さり、ありがとうございます!

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