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私のヒーロー

 多田高の登校時間はゆっくりめだ。さらに登校時は自転車にも乗れる! これ、最高!! 中学校は地獄の徒歩だったから、入学祝いで買ってもらった電動自転車でスイスイ天国ですがな♪


 通学途中でアネやんと合流して、自転車置き場で吉乃と会って、3人でワイワイ話しながら教室に入った。

 今日は校内巡りの日で、学校のいろんな所を見て回った。とにかく学校が広くて、移動教室とか余裕みて早めに行かないとヤバい感じだと悟ったくらいデカい! それと同時に、科によって職員室があるし、専門的な教室もあって場所を覚えられるか不安だ。


「絲……あんた場所を覚えられないんじゃないの?」


「うん……、すでにヤバいわ、わからん! 吉乃は大丈夫⁈ 覚えられた?」

 

「何となくだけど、廊下に配置図もあるし、大丈夫かなって」


「そうなの⁈ 廊下に配置図あった? 分からんかった……吉乃はしっかり者だね」


「さすが、吉乃っちね!」


 教室に戻ってからまた3人で話していたら、いかにも陽キャな集団が近づいてきた。

 その中でもボス的なちょっと……いや、かなり高飛車系の子がズン! と、一歩 前に出てきて、格好良く腕組みをして話しかけてきた。

 ツインテール縦巻きクルクル髪のこの偉そうなボスは守井凛奈もりいりんな。とにかく……まず! 悪役令嬢インパクトは強烈に残ったからっ腕組みをやめてけれww プルプルしちゃうじゃないかッッ!


「ねぇ、3人って同中なのぉ?」


 アネやんが何かを察したかのように口火を切った。

「絲と私は同中よ! 吉乃っちは昨日お友達になったの」


「へぇ〜そうなんだぁ。ところで三谷くんてさ、いつもそんな感じなのぉ? 昨日の自己紹介の時も思ったんだけど、どうしてそんな喋り方なのぉ。そっちの人ぉ〜?」


 金魚のフンのような取り巻きの子たちが聞こえるようにクスクスと笑い出す。


「それが何か気になる?」


「だってぇ、今まで出会ったことのない人種だから、どうなのかなって、凛奈、気になっちゃってぇ〜♪ なんかね、ここにいるみんなも気になってるからって、私が代表で聞いてあげてるのぉ」


「そうねぇ……。この喋り方になって、もう何年くらいかしら。気分は姉御、体は男って説明で良いかしら♪」


「はぁ⁈ 何それ、キモいんですけどぉー!」


 また金魚のフンたちが笑い出す。

 そこに啖呵を切ったことがあの事故の引き金になってしまったんだな……と今ならわかるけど、自分の大切な親友を馬鹿にした行為がその時はどうしても許せなかった。


「黙れや、このブリブリがっ!」


「⁈ ⁈」


 啖呵を切った私に全員が注目する。構わず言葉を続ける。


「それって良くない笑い方だよね? 周りのあんたたちも高校生になっても気づかないのかね。お返しに言うなら、あんたのブリブリ具合の方がキモいわ!」


 凛奈はみるみる顔を真っ赤にして怒り出した。


「凛奈のどこがブリブリなのよっ! あんたに何も言ってないのになんなのよ、横からぁ‼︎」


「周りで聞いてて、気分悪かったからだよ。私の友だちをキモいとか言うな‼︎ 人に対してそんな態度しか取れないようなクラスメイトとは友だちにはなれないから、今後一切、私たちに話しかけないでくれる? てゆーか、向こうに行けっ! このっブリブリッ‼︎」


「絲っ、絲っっww ブッ、ブリブリはないわぁ。今どき小学生の喧嘩でも言わないわよ……ぶふっ、ダッメぇーおかしぃぃー」


 アネやんはヒーヒー言いながら爆笑、吉乃はオロオロ、凛奈様 御一行はギャーギャーと騒いでカオスな状況になったが、次の授業の先生が来て全員慌てて席に戻り、混乱した状況は収束した。

 しかし、やってしまったなぁ……。お淑やかになると決めたのに、次の日に違えるとは。反省だっっ。


 その後はうわの空だった。見兼ねて、お昼を外で食べようと吉乃とアネやんが誘ってくれた。

 正直、5分間休憩の度に凛奈様 御一行がこれ見よがしにヒソヒソヒソヒソとやるもんだから鬱陶しかったし、周りの子たちも変な空気になって、教室にもいたくなかったから2人の気遣いが嬉しかった。

 しかも教室の外に出て、木陰のベンチで3人でお昼ご飯を食べれるのも中学校の給食時間とは違って、何だか大人びた感じのピクニックみたいで胸が躍る♪


 他愛ない話をしながら食べていると、

「絲ってハッキリ物事を言えて凄いなと思ったよ! 私はオロオロ モゴモゴしてしまって。結局、何にも言えなくて、頼りなくて……ごめんね、三谷くん」


「吉乃っち! アネやんでしょーが‼︎ 三谷くんとかよそよそしい呼び方、距離を感じちゃうわぁー。あたしたち、もうお友だちでしょぉ〜ん」


「アネやん……体全体でフリフリすんの、やめれっ! その動き、ツボにっ、入るってぇ〜‼︎ ブホッ︎! たまご焼きが出てもーたっ!」


「ふふっw 絲、大丈夫(笑)? じゃぁ遠慮なく、アネやんと呼ばせてもらうね」


「逆にこんな あたしのせいで、絲や吉乃っちに嫌な思いをさせてしまってごめんなさいね……」


「そんなことない! こんな私とか言わないで‼︎ アネやんも絲も2人とも優しくてカッコよくて素敵だなって。入学式の日に2人に声をかけてもらえて、友だちになれてすごく救われたの、私。だから、2人とも私のヒーロー!」


「吉乃っち、それは大袈裟だわ〜。あたしなんか何も大したことしてないもの!」


「アネやんは確かに! 大したことしてないわ‼︎ まっ、私は具合の悪い吉乃を保健室に連れていってあげたからね、正真正銘のヒーローよ! そういや保健室の先生ね、ボン・キュ・ボンでさ、大人の魅力ムンムンだったの! あのボーンは眼福でしたわー」


「絲……あんた、どこ見てんのよ……。それに絲は連れていってあげただけで、症状みて対応してくれたのは保健室の先生でしょーが! 偽ヒーローめっ‼︎」


「おほほほっ♪ 何とでもお言いなさいな!」


「うっわ〜! 絲のその顔っ‼︎ イラっとするわー」


 3人で笑いながらお昼を過ごしたら、モヤモヤしていた気分が晴れて少しスッキリした。

 

 ヒソヒソ話や嘲笑、聞こえよがしにものを言う。そういったことはいじめられていたから耐え慣れている。自分自身のことであればスルーできる力はついたし、聞き流せばいい、受け取らなければいいこと。


 昔、ある人から〝悪口は受け取らないと相手の元に戻る〟〝智慧あるものに怒りなし〟という話を教えてもらってから、そういうふうに思えるようになった。自分自身のことは大丈夫だけど、自分が大切にしている人が貶されて言われるのはどうしても我慢ならなかった。


 それに、こんなふうに強くハッキリと意見が言えるようになったのはアネやんのお陰だから、特に許せなかった。

アネやんこそ私にとってのスーパーヒーロー……。

 

 まぁ一生、本人には秘密だけどねっ!

 

 何だか中学生の頃が思い出されて懐かしいな。怒りと憤りに満ちていた心が思い出によって安らいで、癒されていくのが分かった。

読んで下さり、ありがとうございます!

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