アネやんと吉乃
保健室まで送り届け、急いで体育館に戻って式典には途中から参加出来た。PTA会長の話がかなり長かったけど、その出立ちが印象的だった。周りと違うオーラを発していた。白いスーツに紫のシャツ、そして柄のネクタイ、色眼鏡……おぅ好物じゃ(笑)!!
いろんな妄想が止まらなくなってるところに、予想外のイケメンボイスにツボって、どハマりしてしまい、爆笑を抑える苦行を強いられた。笑いを抑えるって体力の消耗が激しいから、ドッと疲れる。多分後ろの人は体全身プルプル震えてるのが分かっただろうなぁ。ぜっったいヤツに、あとで何か言われるか 怒られるかだな……。
入学式が終わり、教室に移動していた時に案の定、近寄って来て、頭をツンツンしてきた。
「あんた、また変な事を妄想して笑ってたでしょ⁈ 後ろから丸見えよ?」
「おぉ〜アネやーん! おっはよん」
「またトボけた返事してぇ。式典くらい大人しくしてな! それから襟がひっくり返ってるわよ。高校生なんだから、身だしなみくらいちゃんと気をつけな」
「うぃー」
「本当にもう‼︎ 絲はっっ」
お怒りモードながらもお姉さんのように世話を焼いてくれる塩顔イケメン細プチマッチョ、手脚が長くてモデルのような彼は、中学校の時からの親友で三谷琉偉。
中学校の頃からしっかり者で、友だちや先生の信頼が厚く、口調も優しいし、何より女子力が高い! そんなみんなのお姉さん的な存在だったから、アネやんと呼ばれるようになった。一緒に受験勉強を頑張って、合格を勝ち取った戦友でもある。今日から3年間、同じクラスなのが嬉しい!
境遇も似ていて、両親と妹を事故で早くに亡くし、お祖母ちゃんと2人暮らしをしている。家事全般はすべてアネやんが担当してて、完璧で凄いんだな、これが……。
仕事をしているお祖母ちゃんのために自分が出来ることをやっていたら自然と覚えたらしい。いや、私も祖父と2人暮らしですが、アネやんのようには出来ませんがな。
一度だけ、彼に習おうとするも
「絲は無理よ!不器用だから仕方ないのよね」
と一刀両断され断られたことがある。アネやんが凄いだけで、私は普通だい‼︎ ……と思いたい。
「さっきの子……大丈夫だったの?」
「あぁ、うん。保健室で休んでるから大丈夫と思う。なんか人が多いのが苦手みたいで、貧血かなって」
「そう……。ってゆーか、絲! ガン見したでしょ、最初」
「てへペロ♫」
「古いっつーの! 可愛くないし、やめなー」
「んもぉ〜何でよーウィンクまでつけたのに!」
「でも、めっちゃ美人だったわね、あの子っ!」
「それなッッ!! ほんと、あんな子を絶世の美女って言うんよな! 驚いたわ〜」
アネやんとお喋りしながら楽しく移動し、教室に着いた。黒板には産業デザイン科らしい歓迎の黒板アートが描かれていた。圧巻の絵にみんな感嘆の声を上げていた。3年間、しっかり学んで自分もこんな素敵な黒板アートが描けるように! デザインが出来るようになりたい! と、奮起する気持ちでいっぱいになった。アネやんも横で黒板アートに見惚れていたのは見逃さなかったぞい。
出席番号順の席だったから、アネやんとは離れた席になった。後ろは空席だから、さっきの子になるのかな? ……と思っていたら、別嬪さんが教室に戻ってきて、後ろにお座りになった。
「さっきはありがとう。……式典があったのにごめんなさい」
「平気だよ、途中から参加出来たし! それよりもう大丈夫なの?」
「うん、ありがとう! 久しぶりの大人数で人に酔ったみたいで、保健室で休んだら良くなったの。本当にありがとう、えーっと……」
「柏木絲ってゆーの。絲って呼んでね」
「私は見上吉乃。吉乃って呼んで! よろしくね、絲ちゃん」
「絲でいいよー。私も吉乃って呼ばせてもらうね!」
「うん、わかった! 本当にありがとう」
笑顔がマジで天使だッ!!
席替えあるまで天国だな、ここは。
初のホームルームも終わり、帰りの準備をしているとアネやんが寄ってきた。
「あんたねぇー自己紹介、普通すぎ! もっとさ、自己アピールしなさいよ。こんっっなに、面白いのに」
「そんなん言うの、私の裏の顔を知るアネやんだけやww 私は高校ではお淑やかになるの! オホホのホ♪」
「そんなの無理に決まってるじゃない。何を言ってんのかしら、この子は。熱でもあるの、あんた?」
「はぁ?! 熱なんかないしッッ! 私はね、これからお淑やかで華やかで、毎日、超充実した高校生活を送るのさっ!」
「はいはい、ムリムリ! 今日で終了ー!! お疲れ様でしたー」
「そんなん分からんやんけ! ペロペロペーだっ!!」
「子どもかっ! しかもその顔、何気にウケるわ!! 全然、お淑やかじゃないわねww」
2人で戯れていると横から
「絲、今日はありがとう! また明日ね!」
「えっ⁈ 吉乃、待って! 今、帰るとまた人混みに入る事になるよ? 少し待って、私たちと一緒に出ようよ。帰りは1人なの? 親は来てる? うちはお祖父ちゃんが来てたけど、仕事でもう帰ったから、アネやんと帰るつもりでさ。暫く一緒に待たない?」
「うちは親は仕事で来れなくて……うん、少し待とうかな。ありがとう、絲。えっと……三谷くんだったかな。一緒に良いかな?」
「イイわよ〜! ついでに、あたしのことはアネやんって呼んでくれてよくってよ、吉乃っち! 絲とは同中の腐れ縁なの〜。仲良くしてねん」
「う、うん! ありがとう!」
「吉乃、緊張しなくても大丈夫だからね! アネやんは頼りになるお姉さんくらいに思ってたらいいから。女子力、パねぇんすよ、このお方は」
「絲がセンスなくて出来ないだけですぅー。私は普通ですぅー」
「容赦ないね、初日からっ!! フーンだ! アネやんが普通ならみんな底辺なんじゃい。吉乃、この容赦ないアネやんの攻撃からは庇ってあげるから、任しときな!」
「吉乃っちは、ちゃぁんと女子力が高い出来るオーラが出てるから絲とは違うわよ。オーホホホ〜♪」
「なぬッ⁈ 女子力にオーラとやらがあるのかえ⁇」
「あたくしの目を侮らないで欲しいわね! フフン♪」
「うぬぅ!」
「……ぷふっ」
2人で一斉に笑う声のする方を向いた。
「ご、ごめんなさい! 2人の会話が楽しくて……。今まで友だちとこんなふうに話す事がなかったから、楽しくて……」
「吉乃、笑い事じゃないんだよぉぅ。このーアネやんめぇー!」
「あらあらぁー。吉乃っちのクール顔も良いけど、笑い顔は可愛たんねー♫ いいのよ〜絲で楽しんじゃってね〜」
何だか違和感なく昔から3人でいたような楽しい時間を過ごした。
その夜は仕事が終わったジィジと2人で焼肉屋でお祝い会をした。新しい生活が始まること、素敵な人と友だちになれたこと、すべてがウキウキワクワクする楽しい予感しかしなくて、興奮して話が途切れる事はなかった。ジィジは嬉しそうに相槌を打ちながら、静かに聞いてくれていた。
読んで下さり、ありがとうございます!




