花嫁の父 後編
今日の仕事は、結婚式場での挙式を考えているカップルやその家族の前で宣伝用の擬似結婚式を挙げる新婦の父親役。セリフもないし、短時間でギャラを貰える割の良い仕事だ。
だが、朝から痛風の発作に見舞われてしまった。
しかも、本番直前に、痛み止めを家に忘れてきたことに気が付く。花嫁役のめぐみさんの腕を取り、チャペルの扉の外に立つ。革靴の中の右足がジンジンと痛み出す。あと数分で立っていられないくらいの激痛になるはずだ。脂汗が滴る。
扉が開くと、大勢の客の一番後ろの席の眼鏡をかけた男性と目があった。
気が付くと、控室の椅子に腰掛けていた。痛みは嘘のように消えている。
ドアが開き、先程の眼鏡の男性がはいって来た。
「ありがとうございました、とても良い式でした。お陰で昔からの夢が叶いました」
男性はそう言って何度も頭を下げる。
彼が出て行った後、花嫁のめぐみさんが入って来た。目を真っ赤に泣きはらしている。
「みぶさん、ありがとうございました。なんだか本当の父といるようで泣いちゃいました」
「帰ったらお父さんに話すといいよ」
「父は私が小学生の頃亡くなったんです」
彼女はがスマホを出して亡父の写真を見せてくれる。さっきまでいた眼鏡の男性がそこに写っていた。